児童生徒人間関係づくり実践モデル事業                 〔指導課〕
 望ましい人間関係をはぐくむ教育活動の実践
    〜グループエンカウンターによる、生徒の人間関係づくり〜
 
   
秋穂町立秋穂中学校−
  1 学校紹介2 具体的な活動内容3 成果と課題
実 践 の ポ イ ン ト
グループエンカウンターに関する研修を充実させ、教職員の生徒理解に対する資質の向上を図る。
授業や生徒活動の中で、グループエンカウンターを活用し、生徒たちの温かな人間関係を構築する。
人間関係づくりに重点を置いた生徒会・委員会活動を推進する。
この実践紹介の中で用いているグループエンカウンターは、すべて「構成的グループエンカウンター(SEG)」を指す。
1 学校紹介
 生徒数160数名の本校は、一町一中学校として、町民の学校に対する関心はまことに高く、昨年度の11月からは公民館が同居し、公民館講座も学校の2つの部屋で行われている。
 秋穂町は、県の中央部、瀬戸内海に面し、温暖な気候と、豊かな歴史に恵まれており、近年、秋穂霊場八十八箇所巡りには県内外から多くの老若男女が訪れる。車えびは全国的にも有名で、他にも赤貝や高級魚の種苗生産を行い、山口県内海栽培漁業センターには、外国からも視察や研修生がたびたび訪れている。
 平成13年10月、文部科学省指定校として、総合的な学習の時間における実践研究を発表した。また、平成15年4月には、読書活動において文部科学大臣より表彰を受けた。
 生徒たち一人ひとりは、まことに純朴、素直であり、地域の活動、「秋穂祭り」や「浜村杯ロードレース」、「アースディ海岸清掃」等にはみんなで参加して、ふるさと学習やボランティア活動に熱心に取り組んでいる。

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2 具体的な活動内容
(1) 研究のねらい
 秋穂中学校の教師と生徒、生徒と生徒の間に「望ましい人間関係」=「対等な関係」「協調し合う関係」「信頼し合う関係」が築かれることによって、1年間の教育活動がより充実し成果の大きいものになることを図る。同時に生徒の上に生じる様々な問題が、「望ましい人間関係」を生かしたかかわりにより解決していくことをめざす。

(2) 研究の仮説 
@「構えのない気楽な関係」を築くような実践活動を行うことにより、生徒と生徒・教師と生徒の人間関係は望ましいものに変容する。
A「認め合い高め合う関係」を築くような実践活動を行うことにより、生徒と生徒・教師と生徒の人間関係は望ましいものに変容する。

(3) 「人間関係づくり」における、各分野でのねらいと活動内容
(4) 年間研修計画
@学校行事と教員研修会
A特別活動、道徳における、グループエンカウンター、エクササイズ年間計画
(5) 実践
@第1回研修職員会
「GE講師による講話・実習」 平成16年6月23日(水)
GE講師 山口大学人文学部教授  林  伸 一教授
・研修内容(構成的グループエンカウンター理論)

ア 構成的グループエンカウンター
 Structured Group Encounter(SGE)とは
 人間関係づくりと自己発見のための集団参加体験学習。エクササイズの内容、人数、時間を構成する。米国カリフォルニア州のエスリン研究所を中心とする「ヒューマン・ポテンシャル運動」が起源で、国分康孝・国分久子がSGEとして日本に紹介した。予防・開発的カウンセリング(育てるカウンセリング)の有力な方法論として、学校現場で全国的に広まってきている。

イ SGEの目標
 「ふれあい」と「自己発見」を通しての参加者の「行動変容」「人間的成長」(personal-growth)

ウ 行動変容が起きるための条件
 ・参加メンバーが自分の感情・思考・行動の特徴や傾向(偏りやとらわれ)に気付くこと
 ・それらの偏りやとらわれの意味を考えること
 ・それらの原因を探ること、すなわち自己探索すること
 ・「ありたいようなあり方」を試行錯誤してみること(SGEは「行動の実験室」である。)
 ・無条件に受容してくれる他者(メンバー)に出会う(エンカウンター)こと

エ SGEの必要性
 ・教育活動にふれあいと自己発見が必要:ふれあい(リレーション)のない生徒指導は支配的、権威主義に陥りやすい。
 ・自己指導力の源泉は、ふれあう仲間同士の学び(自他発見)にある。
 ・教師は援助専門職(helping profession)である。
 ・自分の行動の特徴(偏り)に気付く必要がある。
 ・SGEには教育分析的機能(personal counselingを受けた効果)がある。

オ SGEの原理
 ・なぜ構成するのか
 ・心的外傷(心の傷)を予防し、突っ込んだ話し合いができるような関係(親密な関係)を築く
 ・エクササイズのねらいとは、自己開示の触媒、自己垣解、自己受容、自己表現・自己主張、感受性、信頼体験、役割遂行、他者理解、他者受容、コミュニケーション、などを含んだ人間関係づくりにある。
 ・シェアリング(sharing)とは、分かち合い、参加メンバーの認知(見方・受けとめ方、考え方)の修正・拡大をする場である。 全体シェアリング(community group sharing)ショート・シェアリング(short sharing)などがある。
           
カ SGEの進め方
 ・インストラクション(instruction) 〜エクササイズのねらいや内容、手順の説明
 ・デモンストレーション(demonstration) 〜してみせる「百聞は一見にしかず」
 ・エクササイズ 〜ゲームで楽しく、エンカウンターでやさしくなれることを主題に
 ・シェアリング 〜開かれた質問で、「支障のない範囲で」「語れる範囲で」

キ リーダーが介入する場合
 ・参加メンバーがインストラクションから外れてエクササイズに取り組んでいる場合。
 ・シェアリングがエクササイズの延長になってしまっている場合。
 ・シェアリング場面で、あるメンバーが場を仕切るようなことをしている場合。
 ・沈黙がちなメンバーに他のメンバーが発言を強要した場合。
 ・参加メンバーが他者のプライドを傷つけるような発言をした場合。
 ・他のメンバーを指導したり、管理者ふうの口のきき方をする人がいる場合。

カ 参加者全員にで、SGEショートエクササイズの実習

A第2回研修職員会
「研究授業とGE講師による指導」 平成16年10月21日(木)
ア 研究授業指導案
       グループエンカウンター 「私の四面鏡」指導案
                     指導者 2年2組担任 田村 実加恵
                        (TT) 教諭 品川 良彦
1.日  時    10月11日(木) 5校時
2.学  級    2年2組(24名)
3.エクササイズ名 「私の四面鏡」(自己理解)
4.本時の目標   発達段階におけるこの年ごろの生徒たちは、一般的に自分を否定的に見がちである。そこで、級友という鏡に写し出された自画像を見ることで自分を肯定的に見られるようにすると同時に級友を肯定的に見ようとする姿勢がつくれるようにする。
5.準備するもの  プリント2枚、筆記用具
本時の展開
イ 授業後の研究協議
・教師の指示をよく聞いていて、よく活動していた。
・自分の気持ちが言えない生徒が、いきいきと言っていた。
・問題のある生徒がいる班は、あまり乗れないようであった。
・班によって雰囲気が違っていた。
・男女が混合の方がよい。
・くじでグループを作るより、他のほうがよい。
ウ 指導(GE講師 林 教授による)
・四面鏡より三面鏡のほうがいい。
・○の数の指示は、はっきり指定しておいたほうがいい。
・生徒の発表の場が少なかったので、項目を読むのは生徒
の方がよかった。
・この学級でやるなら、ウォームアップ(アイスブレーキ
グ)はいらない。
・もしウォームアップをやるなら、「バースデーライン」
の方がよい。
・「じゃんけんの負けた人」という指示はよくない(「負けた」という言葉)。
・もとのエクササイズを、各学級に合うようにアレンジして行う。
・このエクササイズのバックボーンは、ジョハリの窓である。
・「楽しく、ためになり、学問的な背景がある」が基本である。

B第3回研修職員会
「研究授業とGE講師による指導」平成16年11月25日(木)
ア 研究授業指導案
    グループエンカウンター 「宝さがし」指導案
                        指導者 1年2組担任 留奥 規恵
1.日  時    11月25日(木) 6校時
2.学  級    1年2組(29名)
3.エクササイズ名 「宝さがし」(協調性)
4.本時の目標   課題解決の過程において、自分や相手の言動・感情を察知する。また、情報を伝え合うことによって、お互いのコミュニケーション能力を高めると共に級友への理解・好意を育てる。
5.準備するもの  マジック・ヒントカード・模造紙・正解の用紙
本時の展開
イ 授業後の研究協議
・1年生にとって、このエクササイズは難しかったが、よく活動していた。
・素直な表情をして、活動していた。
・日ごろ、あまり話をしない生徒が、よく話をしていた。
・男女が仲良く活動をしていた。
・一人ひとりの生徒のタイプがよく見えた。
・最後の全体シェアリングがなかったのは、残念だった。
ウ 指導(GE講師 林教授による)
・時間配分がよく、エクササイズの時間もちょうどよかった。
・「むずかしい」という言葉は、言わないほうが方がよい。
・この課題は、インフォメーションギャップと合意形成とい
うパターンの課題であるが、1年生にとってはやや難しい。
・アレンジとして、リアルなものを取り扱ってもよい。
・国語ではコミュニケーション、道徳では協力、学活では結束
という「ねらい」で取り組んでもよい。
・シェアリングの意味は、情意的なものの表現であった方がよい。
・グループごとのシェアリングの全体発表が、あった方がよい。

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3 成果と課題
(1)グループエンカウンターの実践がもたらしたもの
 グループエンカウンターを実践して、わずかの期間ではあるがエンカウンターが学級経営に与えたメリットとして、次の二つがあげられる。
 
第一は、教師と生徒の関係がよくなった。「授業始めも声をかけやすくなった」「教師自身笑顔が増えた」。
 
第二は、ほめることができるようになった。エンカウンターは生徒のことを認めたり、誉めたりできる材料になる。
 次に生徒たちに対しては、人間関係ができたことが最大の効果だった。「男女の仲が和気あいあいとなり、早い段階でクラスの雰囲気がなごむ」「なごやかになり安心して過ごせる教室になる」「親しく話す相手を増やすことができた」などである。
 また、「クラスの活性化や係活動の活発化につながっている」「班の団結力が深まった」「クラスメイトの意外な一面を知り、いろいろな考えをする人がいることを体験的に知った」「自分の意見が他人と異なっていても臆することなく述べることができ、また他人の意見も阻害することなく、受け人れる態度が育っている」など、担任からの報告があった

<校内百人一首大会>

<全校リクレーション大会>
(2)これからの課題
 平成16年度から取り組み始めて、わずか10か月の実践である。今後はグループエンカウンターの手法を用いて、本格的にプログラムの開発を行わなければならない。
 今後、さらにグループエンカウンターを中心とした教育活動を推進していくには、次のことが課題になると考えられる。
ア 校内研修会の継続と充実
 グループエンカウンターのノウハウをさらに学習し、本校の生徒の実態に合ったエクササイズの考案をしていく必要がある。そのためには、講師を招いての研修会を継続的に行い。よりよいモデル授業をみんなで体験すること、そして校内公開授業を継続し、指導案、エクササイズなどの見直しを常に行う必要がある。
イ エンカウンターの実施に感じる難しさ
 特に時間を捻出する難しさである。とくに学校行事の準備や実践にかける時間と重なる傾向がある。行事を削減できない状況では、場当たり的なエンカウンターになりがちである。時間を確保するために、行事との兼ね合いや年間の見通しが必要となってくる。
ウ SGE(構成的グループエンカウンター)推進担当者の位置付け
 多忙な学校生活の中、ともすればグループエンカウンターの授業を行えば、それでおしまいとばかりに、事後の検討がおろそかになったり、振り替り用紙を吟味することなく終わってしまいがちである。そこで、必要なのは、各学年のSGE担当者の積極的な推進姿勢である。粘り強くグループエンカウンターの活用を常に働きかけることが大切である。
エ 人間関係づくりへの思い(学校長)
 子どもの健やかな成長にとって最も重要な家庭環境が大きく変化している。核家族化や少子化とともに、両親の離婚や不仲、祖父母との仲たがい。男女共同参画の社会がうたわれてはいるが、保護者会やPTA活動、各種学校行事への参加は母親任せの家庭も少なくない。特に中学生時代は父性の涵養が大切である。
 一方、生徒たち一人ひとりに目を向けてみると、一つのことを為し終えるのに時間がかかったり、思いがはっきり言えなかったりする子がいる。目立つほどではないが、持病や障害をもつ子もいる。
 様々なことが絡み合って、仲間や学級での人間関係がうまくつくれない生徒が徐々に増えてきているように思う。また、昔のように野山で遊びながら培うような人間関係づくりはもはや望むべくもない。
 今や学校という学習環境の中で、いかに好い人間関係づくりをしていくかは避けて通れない、大きな課題である。元気なあいさつ、明るい笑顔が飛び交う中にも、家庭環境や友達関係などで、心を痛めている生徒が少なくない。そういう生徒たちの中には、学級での学習には入れないが、自分なりの学習や活動をしている生徒も数名いる。
 学級や学校における生徒たちの人間関係も、最近少しずつ変わってきているように思える。特に女子にその傾向が強いようである。
 「一緒に帰る約束をしたので、その友達を待っている。」という女の子。「どんなことがあっても、その約束は破れない。もし破ったら、大変なことになる。」と呟く。
Eメールによるトラブルも多い。女の子の力関係は、一度崩れると取り返しのつかないシコリを残すことがある。昨日の仲間は、明日どうなっているか分からない。
 これからそういった仲間やグループ、小集団を、授業や学級活動などに、いかに意図的に活かすかを研究していきたいと考えている。
 具体的には、グループエンカウンターを全教職員が研修を積み、実践を重ねて、1学年から3学年までを見通した指導計画作りを目指したい。

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