特別支援教育推進体制モデル事業の実践                (指導課)

特別支援教育推進体制モデル事業の実践

 −萩市立萩西中学校−

学校紹介2 具体的な活動内容3 成果と課題4 実践に当たってのポイント

実  践  の  ポ  イ  ン  ト

様々な人々とのネットワークづくり
一人の生徒を複数の教員で担当する意識
自己肯定感を高めていくこと

1 学校紹介

 本校は平成9年に校区改定によって開校した。全校生徒382人、学級数14(通常の学級12、特殊学級2・・知的障害学級1、情緒障害学級1)からなる中規模校である。旧萩城三の丸にあって、国指定重要伝統的建造物群保存地区のほぼ中央に位置し、緑したたる指月山を指呼の間に望み、県立萩高等学校、山口県萩青年の家、旧藩学明倫館が隣接し、閑静にして教育的に最も恵まれた環境にある。
 さて、本校では、平成14年度から学力向上フロンティア事業の研究指定校として、「豊かな心をもち、主体的に行動できる生徒の育成」を研究主題に設定し、生徒一人ひとりの個性の的確な把握に努め、個に応じた指導方法や校内体制の工夫改善に取り組んでいる。また、特別支援教育においても、開校当初から特殊学級が設置されており、地域のセンター的な役割を担ってきた。本年度「特別支援教育推進体制モデル事業」の推進校として、特殊教育から特別支援教育への転換をめざし、軽度発達障害のある生徒への教育的支援を含めた校内支援体制の整備に取り組んだ。


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2 具体的な活動内容

(1)全教職員の特別支援教育に対する理解の深化と研修会の実施

 開校当初より特殊学級が設置されていたこともあり、特別支援教育に関する書籍は充実しており、教職員の障害に対する関心は高い。モデル事業協力校として、まず軽度発達障害についての基礎的な知識や正しい認識をもつために、地域特別支援教育コーディネーターを招へいし、校内研修会を実施した。

(2)特別支援教育の校内体制づくりについて

ア 目標の設定

全体目標
生徒が、障害(軽度発達障害を含む)による生活や学習上の困難を改善または克服し、主体的に社会参加を行い、自己実現を図っていくことができるよう、一人ひとりの教育的なニーズに基づいた適切な支援や指導を行う。
本校の教育目標と経営方針の中に、特別支援教育を明確に位置付け、特別支援教育コーディネーターが中心となり、個別の教育支援計画の策定、実施、評価を行い、教育的支援の改善・ 向上を図る。

重点目標
特別な教育的支援を必要とする生徒の早期発見と多面的生徒理解
特別な教育的支援が必要な生徒の実態把握と支援方策の具現化
特別支援校内委員会の開催と各種委員会との連携
個別の教育支援計画の策定、実施、評価とフィードバック
特別支援教育についての保護者の理解と連携の強化
専門家チームや外部機関との連携
全教職員の障害に対する理解の深化と研修会の実施

イ 校内支援体制について
支援の流れや校内委員会の位置付けについて検討し、次のように決定した。

ウ 特別な教育的支援を必要とする生徒の把握
 特別な教育的支援を必要とする生徒の早期発見のために、各学年ごとに学年部会を開催し、生徒の実態についての共通理解と対応について検討を行った。その中で特に配慮が必要である生徒について校内委員会を開催し、特別な教育的支援が必要であるかどうかを検討した。その結果、該当する生徒については担任が家庭との連携を図り、情報の交換を密に行った。また、必要に応じて生徒の客観的な実態把握のために、保護者の理解を得た上で心理検査を実施した。
エ 特別支援教育コーディネーターの活動状況
 校務分掌の中で、特別支援教育コーディネーターは生徒指導部に所属し、生徒指導副主任、教育相談主担当(スクールカウンセラーコーディネーター)として活動した。

○ 教育相談(生徒、保護者)・各種検査の実施と活用についてのコーディネーション
○ 担任への助言、資料の提供
○ 校内委員会の企画、実施→生徒の実態把握、支援の方策の具体化
○ 校内研修の推進、各種研修会への参加
○ 関係機関との連携

オ 校内委員会の開催状況
 校内委員会の構成員は校長、教頭、生徒指導主任、児童生徒指導支援加配教員、教育相談主担当教員、養護教諭、特別支援教育(特殊学級)主任、学年主任、該当生徒担任とし、学期に1回の開催を計画したが、企画委員会や生徒指導委員会等の各種委員会の構成員とほぼ同じであり、時間等の確保が困難であった。しかし、特別支援教育コーディネーター、特別支援教育主任、児童生徒指導加配教員、該当生徒担任を中心とした校内小委員会の開催は構成員の数が少ないことから、時間の確保も容易にでき、特別支援教育を推進する上でのプロジェクトチーム的な役割を担った。本年度の校内委員会(校内小委員会を含む)の活動内容は次のとおりである。

○ 開催の回数 8回
○ 事例件数 12件
○ 協議内容
・本年度の方針等の立案
・実態把握の方法等についての検討→実態把握→対象生徒の把握
・生徒の実態の報告と共通理解、支援方法の見直し
・諸検査の結果に対する考察
・次年度の対応の方針についての検討


(心理検査を受けての相談)


(校内小委員会)

(3)具体的な支援

 該当生徒の心理検査等の結果を踏まえ、継続的に保護者や生徒との相談を行ったが、これにより具体的な支援の方法や学習目標が明確になった。特に萩養護学校の教員による心理検査や教育相談では、保護者、本人への具体的な助言が行われ、教師にも具体的な支援の指針が提示された。また、自己肯定感が低下し、不適応状態になっているケースについては、スクールカウンセラーによる継続したカウンセリングを行った。

例 通常の学級を離れ、リソースルームでの個別の学習支援を行ったケース

 通常の学級での生活や学習上の困難点を克服をするために、心理検査等を実施し、その結果、本人の希望により、リソースルームで個別の学習支援を行った。その間も継続して心理検査やそれを受けての相談を継続し、本人の学習課題を設定していった。適切な学習目標・内容の設定により、「わかる喜び」や「できた喜び」を与えることができたように思う。その結果、自己肯定感の向上が図られ、通常の学級での学習にも好影響を与えた。目に見える生徒の変化により保護者の信頼感を得ることができた。リソースルームの運用にあたっては市の教育相談員、生徒指導主任、児童生徒支援加配教員、特別支援教育コーディネーターが中心に対応した。(3教科 週平均17時間)また、対応する複数の教員が本人の学習の状況を把握するため、学習内容や学習の気づき等を記録するファイルを用意した。


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3 成果と課題

特別支援教育や軽度発達障害に対する教職員の理解が深まりつつあり、校内支援体制も徐々に確立してきた。しかし、障害の程度や状況は様々であり、更に具体的な支援の方法等について事例検討会や校内研修会を開催する必要がある。
学年当初に特別な教育的支援が必要である生徒の把握を行ったが、専門家の意見や助言を受けながら障害の理解や実態把握の方法等について研修する必要がある。
心理検査等の結果を踏まえ、保護者や生徒との継続した相談を行ったが、これにより具体的な目標が明確になり、本人の自己肯定感も向上したことから保護者の信頼感を得ることができた。
特別支援教育の体制づくりには、教育相談加配教員・児童生徒支援加配教員やスクールカウンセラー、教育相談員の配置は大変効果的であった。
該当生徒の障害について、保護者の理解や協力が得られない場合は支援の体制づくりが困難であったが、生徒への具体的な支援により徐々に保護者の理解が深まってきている。今後、保護者との連携をさらに深め、個別の教育支援計画や指導計画による具体的な支援が生徒の自己実現に大きく役立っていくことを、ねばり強く伝えていく必要がある。
地域特別支援教育コーディネーターによる軽度発達障害に対する校内研修会の実施や萩養護学校との連携、大学等教育機関との連携、スクールカウンセラー、神経科医との連携も行った。今後、情報の共有をどのように行っていくかが課題である。


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4 実践に当たってのポイント

(1)担当者

様々な人々とのネットワークづくり
 できるだけ多くの人とつながり、連携していくことで、該当する生徒の多くの情報を共有でき、具体的な支援の方法が発見できた。 
一人の生徒を複数の教員で担当する意識
 担任が一人で問題を抱え込むのではなく、一人の生徒を全校体制で支援するという意識が多くの困難点を克服しつつある。
自己肯定感を高めていくこと
 適切な教育目標(めあて)を設定し、成就感を与えていくことで、生徒のセルフイメージの高まりを与え、そのことが保護者の信頼感にもつながっていく。

(2)校長として

文部科学省による実態調査では、特別な教育支援を必要とする児童生徒が約6%いるという結果が報告されている。ややもすると適切な対応がなされていないために、学習面でのつまずきや対人関係の問題、さらには不登校等になったりする場合もあることを認識する必要がある。
「特別支援教育推進体制モデル事業」の指定を受け、全教職員が特別支援教育への理解を深め、教師一人による支援から全校体制での支援へ転換を図ったことは大変意義深いことである。
今後も、関係者との信頼関係に基づいたネットワークづくりや特別支援教育の地域社会への啓発等に力を注いでいく必要がある。

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