学力向上フロンティアスクールの取組み             〔指導課〕
習熟度別指導を含む少人数指導
 
発展的な学習や補充的な学習など個に応じた指導のための教材の開発                        
 −宇部市立川上中学校−

 1 学校の紹介2 取組みの概要3 数学科のねらいと指導体制の工夫
 4 数学科における少人数指導の概要5 実践事例〜その1〜
 6 実践事例〜その2〜7 実践を通して8 英語科の取組みの概要とAコース
 9 英語科Bコース10 実践を通して
実  践  の  ポ  イ  ン  ト
 比較的習熟の程度に差が生じやすい数学科と英語科で実施する。
 数学科は全学年で、単元の内容に応じてTT指導、機械的分割による少人数指導、習熟度別指導のいずれかの指導形態で実施する。
 英語科は2・3年生を対象に、週3時間全て習熟度別少人数指導を行う。

1 学校の紹介
 本校は宇部市の中心街からややはずれた所にあり、新興住宅地の建設による人口増加に伴って、平成2年に開校した比較的新しい学校である。校庭やグランドも広く、恵まれた環境・設備の中で生徒は大変落ち着いた学校生活を送っている。学級数は通常の学級9、特殊学級1の中規模校である。
 多くの生徒が、教科の学習活動だけでなく部活動や生徒会活動にも積極的に取り組んでいる。特に運動会や文化祭などの学校行事では、生徒会を中心に独創的なパフォーマンスを披露してくれる。生徒だ   けでなく、保護者の多くも生徒のそのような学校行事を楽しみにしており、毎年多くの来校者で賑わっている。
                             (校舎全景)

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2 取組みの概要
本校では、「学力向上フロンティアスクール」の研究指定を受けてから、数学科と英語科で、その趣旨に添って従来のTT指導や機械的な分割による少人数指導に加えて、習熟度別少人数指導も取り入れている。
 数学科は全学年を対象に単元の内容に応じて、TT指導、機械的分割による少人数指導、習熟度別指導のいずれかの指導形態で実施している。英語科は2・3年生を対象に、週3時間全て習熟度別少人数指導を実施している。

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3 数学科のねらいと指導体制の工夫
(1)ねらい
◎ 数学的な活動を通じて学ぶことの楽しさや学習への自信をもつことができるように教材を工夫する。
◎ 数学的な興味・関心や意欲が高まるよう個に応じて補充的・発展的な内容を取り入れる。
(2)指導体制の工夫
 1年次は、全学年で週3時間のうち2時間TT指導又は少人数指導を行い、残り1時間を一斉授業で指導した。   
 しかしながら、日課編成上、授業の進度と指導形態があわず、少人数指導を実施したくてもできないことがあった。
 そのため、2年次である今年度は、1年生は週3時間全て、2年生は週2時間、3年生は週1時間TT指導又は少人数指導が行えるように指導体制を改善した。3年生は、これに加えて選択数学をコース別で指導した。
 学年で指導体制が違うのは、特に1年生は中学数学の基礎となるため、少人数指導を多く実施できるように計画したからである。2年生は主に単元末で少人数指導を取り入れた。


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4 数学科における少人数指導の概要
 学習内容により、次のような3通りの形態を取り入れている。【別表・1】参照
 機械的な分割による指導 【実践事例・1】参照
  単元の内容に応じて、学級を出席番号の奇数、偶数で2分割する。
 
生徒選択による習熟度別指導
  ア)単元末やセクションの終わりで実施
  「復習」:教科書の内容をもう一度プリントにより指導している。
  「応用・発展」:その単元での複雑な計算(分数、小数など)や旧学習指導要領で扱われていた内容をプリントにより指導している。
  イ)単元を通じて実施 【実践事例・2】参照
   Aコース(基礎・基本):教科書の学習内容の確実な定着と基本的な応用問題の解き方の定着をねらいとして指導している。
   Bコース(応用・発展):教科書の内容だけでなく、その単元の発展的な内容まで扱うことをねらいとして指導している。
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5 実践事例 =その1=
  
反比例に関して、異なる課題・指導内容で行った機械的分割による少人数指導
(1)学習課題 
 ・1コース「人と鏡の距離と壁の見える高さの関係」  【学習プリント・1】参照
 ・2コース「天秤を使ってのつり合う関係」    【学習プリント・2】参照
(2)ねらい
 ・意欲的に実験に取り組み、伴って変わる2つの数量の関係について調べることができる。
 ・変化する事象の中には比例ではない関係があることに気付く。
(3)数学的活動
 ・1グループ3〜4人で条件を変えて2回実験を行って実験結果を表やグラフに記入し、2つの関係を考察させる。
 ・班ごとに発表し、それをもとに反比例の性質をまとめる。
【学習プリント・1】 【学習プリント・2】
「人と鏡の距離」と「壁の見える高さ」の関係 「おもりの数」と「支点からの距離」の関係

(4)授業の考察
【1コース:鏡の実験】
○ 反比例の関係がすぐに気付かないおもしろさがあった。
○ なぜ2つの関係が反比例の関係になるのかの証明は、3年になってからの図形の相似から導くことができ、発展性があった。
○ 実験の準備が簡単で予想以上に実験結果がよかった。
【2コース:天秤の実験】
○ 課題を把握しやすく意欲的に実験や考察に取り組んだ。
○ 生徒にとって反比例の性質に気付きやすく、予想しやすかった。


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6 実践事例 =その2=
  
 方程式の単元で行った習熟度別少人数指導
(1)指導の概要
 1年生の方程式の単元を「基礎・基本」と「応用・発展」の習熟度別少人数指導で指導した。「基礎・基本」コースは教科書の内容が中心であるが、「応用・発展」コースは、それに加えて複雑な小数・分数の方程式も指導した。
 コース分けは、「文字を使った式」の単元末テストに基づいて自己選択で行った。【別表・2】のように、予め指導計画を作成しそれに沿って学習プリントを用意した。初めての試みであったので教師間の事前打ち合わせに時間がかかったが、それぞれのコースの指導方針に沿った指導になるように努めた。
(2)実際の指導について
◎方程式の解き方
 学習プリントA〜EはA、Bコースとも共通であるが、@についてはAコースは基本事項なので2時間かけて指導した。Bコースは7時間目は演習の時間をとり、難易度が少し高い内容まで指導した。
◎方程式の利用
 学習プリント@〜Cを、Aコースは5時間かけて指導し、Bコースは4時間で指導した後、1時間演習を行った。

(3)考察
◎ 方程式の解き方は、コース別で実施することによってじっくり取り組むことができ、個に応じた指導が可能であり効果的であった。
◎ 方程式の利用は、生徒が苦手とする分野で時間がかかり、この計画では理解度が低いように思われる。(実際には、2学期末に2時間補充学習を行った。) 

(4)アンケート結果
 次は、この指導の後に実施したアンケート結果である。設問・2の授業進度に関する回答以外は全て、「そう思う」という積極的な肯定意見が過半数を超えている。この単元の指導形態は習熟度別少人数指導であったが、この指導の在り方が大半の生徒にとって「楽しく、わかりやすかった」ことがわかる。



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7 実践を通して
成    果
 1年生では週3時間のうち、すべてを1学級2人の教師が指導にあたるように計画したので、その単元にあった指導形態を実施することができ、効果的に指導することができた。
 生徒の大半がTT指導あるいは、少人数指導のよさを認めている。
 少人数なので生徒一人一人に目が行き届き、個に応じたきめ細かな指導の時間が確保できた。
 自ら進んでワークやプリント学習に取り組み、積極的に発言や質問をするようになった。
 教師間で教材作成に関する共通理解が深まった。

課    題
 各単元にあった指導形態の工夫と改善を今後も深めていくことが必要である。
 コース別少人数指導の際の、指導内容の精選やより効果をあげるための教材開発等、授業の質の向上を図ることが必要である。
 単元ごとの指導形態が、生徒が「分かる」「できる」という実感をもつことができ、学習効果を高めることにつながっているかを検討していくことが必要である。
 コース別授業を行うには、空き教室などの場所の確保が必要である。


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8 英語科の取組みの概要とAコース(基礎・基本)
(1)習熟度別少人数指導の概要
 2・3年生は、週3時間の全てで習熟度別少人数指導を実施している。コースは、Aコース(基礎・基本)とBコース(応用・発展)の2つある。Aコースは教科書の内容を中心に指導している。Bコースは、発展的な学習として教科書にない語句や表現を指導したり、生徒による言語活動の場面を多く取り入れたりするようにしている。
 コースは生徒選択としているが、個人的にアドバイスをしてコース変更を促す場合もある。  
 コース選択の時期は、定期テスト毎としている。一度選択したコースは、原則として次の定期テストまでは変更できない。
 各クラスとも3分の2がAコース、残り3分の1がBコースを選択している。コース別授業の進度は、ひとつの単元(Unit)にあてる時間数を予め担当教師で決めておき、定期試験の前には進度が同じになるようにしている。定期テストの問題は同じである。
 なお、使用教科書は"New Horizon English Course"(東京書籍)である。

(2)Aコース(基礎・基本)の取組みの概要
 Aコースは教科書の内容を中心に指導している。
  個に応じた補充的な学習の教材として毎時間学習プリントを作成している。【資料・1】
 特にAコースには習熟度の低い生徒も含まれるため、まず第一に基礎的・基本的な学習内容の定着を図る内容としている。作成する際の留意点は次の4点である。
 新出単語には、家庭学習の手助けとなるような工夫(ルビ)をする。
 新出単語を書いて練習するスペースを設け、授業中に必ず書いて練習をさせる。
 簡単な練習問題をのせ、基本文あるいは基本的な学習内容の定着を図る。
 本文の内容に関する質問は、英語だけでなく日本語でも作成するようにする。

             (資料1)Aコース学習プリント


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9 英語科Bコース(応用・発展)の取組み
(1)取組みの概要
 Bコースは教科書の内容に加えて、習熟の程度を考慮しながら個に応じた応用・発展的な内容も指導している。
 その際の指導のポイントや、発展的な学習は以下の通りである。
 新出語句に関連付けて、教科書に出ていない語句を指導する。
  例)「コンサートに行こう」を指導した時に、"What time shall we make it?"を指導した。
 目標文に関連付けて、次の学年で学習する文法事項を指導する場合もある。
  例)2年生で不定詞を指導した時に、"It is ~ to"構文を指導した。
 基礎的・基本的な練習問題や、本文の内容に関する英語の質問等を含む学習プリントを毎時間作成する。【資料・2】参照
 教科書の本文(対話文)をもとにして、ペアでオリジナルの対話文を作り、クラスの前で発表した。他のクラスの発表はビデオで視聴した。
  【実践事例・その1】参照
 教科書のリスニング問題の原稿に、オリジナルの英文を加えて掲示物を作成した。
  【実践事例・その2】参照

  【資料・1】Bコース学習プリント

 Bコースは、「自分の思いや考え等を英語で表現できる生徒の育成」をめざしているで、日頃から次の点にも留意している。
授業ではできるだけ英語を使用する。
発展的な言語活動を行う際、自分なりの英文が作りやすいように、英和辞典と和英辞典を教室に常備しておき、辞書の使用に慣れさせる。
既習事項を使って、自分自身のことや身の回りのことについて英語で表現する活動を行うようにする。
学習プリントにのせる「本文の内容に関する質問」は教師が予め作ったものだけでなく、授業の中で生徒にも作らせペアで質疑応答する活動を行うようにする。

(2)実践事例 =その1= 教科書の対話文をもとにしたオリジナルスキット発表
 ここで紹介するのは、Speaking Plus 3「コンサートに行こう」の対話文をもとに生徒が作ったオリジナルスキットの例である。指導時間は、目標文と本文の指導に1時間、原稿作りに1時間、クラスでの発表に1時間の計3時間であった。

【作品例・2】
A: Hello!!
B: Hello. What's up?
A: My mother gave me two movie tickets.
Would you like to go with me?
B: Well...when?
A: It's November twenty-sixth.
B: I'd love to.
A: Where shall we meet?
B: Well...let's meet in front of Hiraku
 Station at ten.       
 If you are late, buy me a popcorn.
A: Really? I will not be late.
B: OK. See you tomorrow.
A: See you. Bye-bye.

(他のクラスの発表をビデオで鑑賞)

(手鏡を携帯電話にみたてて発表するペア)

【資料・2】オリジナルスキット発表後の感想

(3)実践事例 =その2= 教科書のリスニング練習の原稿をもとにした掲示物の作成
 ここで紹介するのは、Listening Plus 4「健のホームステイ」の対話文をもとに生徒が作った掲示物の例である。指導時間は、リスリング練習の実施と内容確認等に1時間、原稿の下書きと清書に2時間の計3時間であった。(ただし、この時間内で作成できなかった生徒は宿題とした。)
 作品はラミネート保護をしてBコースの教室にしばらくの間掲示した。また、生徒の励みになるように、全員の作品を印刷して配布した。


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10 実践を通して

【資料・3】定期テストの得点分布(第2学年)

【資料・4】同一学年の、前年度期末テスト(2学期)との得点分布比較

成   果
 本校独自のアンケートでは、常に8割以上の生徒が「通常の授業より習熟度別少人数指導の方がよい」と回答している。その理由として主なものは次の通りである。
 ・自分のレベルにあったコースを選ぶことができるから。
 ・人数が少ないので集中して授業に取り組めるから。
 ・先生に細かく指導してもらえるから。
 「実践事例」で示したような発展的な学習を生徒は楽しんで行っており、授業後の感想文【資料・2】からも英語を使った表現活動に興味・関心が高まったことがわかる。
 【資料・3】は、2年生の1学期中間テストと2学期期末テストの得点分布である。これらを比較すると得点分布の二極分化が緩和されていることがわかる。また、度数の最も多い得点幅が上方にシフトしている。
 【資料・4】は、平成15年度2年生の2学期期末テストと、この学年が1年生の時の2学期期末テストの得点分布を比較したものである。枠内からわかるように上記同様、2極分化が緩和されており、度数の最も多い得点幅がやはり上方にシフトしている。(なお、平均点も62.6点から66.3点に上がっている。)
この学年は、1年生の時には習熟度別少人数指導を全く実施していない。したがって上記の変容は、習熟度別少人数指導の実施により生徒の学習状況が向上した結果と考えられ る。
課   題
 Aコース、Bコースそれぞれの指導方針に基づいた指導方法や指導内容をさらに検討する必要がある。  
 Bコースは応用・発展的な指導を行うコースであるので、その指導方針に見合った教材の開発が必要である。
 指導の成果をはかるデータ分析の方法等についてさらに検討する必要がある。
校長から見た指導のポイント
 学校だよりや授業参観日・PTA総会などを通じて保護者に取組みの趣旨等を伝え、理解を求める。
 研修主任を中心に、学校全体で取り組む体制をつくる。


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