学力向上フロンティアスクールの取組み               (指導課)

少人数における指導方法の工夫改善                             
 −周南市立岐山小学校−

     1 学校紹介2 具体的な活動内容3 成果と課題
実  践  の  ポ  イ  ン  ト
 全校体制で系統的な指導の実現を図る。
 学習コースを選択することで、一人ひとりの思いや願いに応じた指導の展開を図る。
 実態に応じた単元計画によってきめ細かな指導の充実を図り、確かな学力の向上をめざす。

1 学校の紹介
 本校は周南市の市街地に位置し、文化会館、美術博物館、動物園等の文化施設を校区内にもつ教育環境に恵まれた全校児童539名の学校である。本校では、平成14年度から文部科学省の「学力向上フロンティアスクール」の研究指定を受け、算数科を中心に児童一人ひとりの実態に応じたきめ細かな指導の充実をめざして研究に取り組んだ。

 


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2 具体的な活動内容
(1)研究主題

(2)研究仮説

 算数科は習熟の差が生じやすい教科と言われる。そのため、これまでのように学級集団を担任が1人で指導する状況では、すべての子どもに分かる喜びを十分に味わわせることが難しい場合がある。また、確かな学力を育成していくためには、習熟の度合いだけでなく、「ゆっくり学びたい」「どんどん学びたい」等、子ども一人ひとりが学習に対してもっている様々な思いや願いにも応えていく必要がある。
 そこで、次のような仮説を立てて研究に取り組んだ。
 @学習方法別、課題別、習熟度別等の目的別の学習グループを編成することによって、子どもの願いを大切にした学習の場が設定できるのではないか。
 A学習グループの実態に応じて単元計画や教材・教具を工夫することで、学習課題に対する興味や関心を高めるとともに、より個に応じた学習の展開が図れ、子どもの主体的な取組みを引き出すことができるのではないか。
 B子ども一人ひとりの思いや願いを見取り、個に応じた指導につなげる評価方法の工夫改善を図ることによって、分かる喜びを味わうことのできる学習が展開できるのではないか。

(3)学習方法(コース)の提示と学習集団(グループ)の編成
 @2・3年生は、学級集団を基本にし、1学級を2コース(2グループ)に分け、学級担任と専科教員の2人で指導に当たる。
 A4〜6年生は学年全体を3コース(5グループ)に分け、学級担任と専科教員2人の5人で指導に当たる。
 B2年生以上の少人数指導は年間を通して実施する。
 C学習コースは単元ごとに学習方法別、課題別、習熟度別等に設定する。
 D学習コースは児童と保護者の希望によって決定する。コース選択のための判断材料になるように事前に練習問題に取り組み、必要があれば担任が助言する。
 E4〜6年生では原則として希望の多いコースを2つに分け、3コース5グループに編成する。コースを分割するときには、教師が単元の学習活動が活性化するようにグループ児童の構成に配慮して編成する。
(表1 学年ごとの学習グループの編成)
学  年 対  象 コース グループ 指 導 者
1  年 学  級 担  任
2・3年 学級分割 担任1名+専科1名
4・5・6年 学年分割 担任3名+専科2名

(4)第5学年「面積」における実践
@ 単元における学習コースの設定と学習グループの編成
【ももコース】
小グループでの話し合いを取り入れて、多様な考えを引き出し、互いに学び合い高め合うコース
 (1グループ「もも」)
【レモンコース】
ペアでの学習を取り入れて、互いの考えを自由に伝え合い、協力して課題を解決していくコース
 (2グループ「レモン1」「レモン2」)
【オレンジコース】
 学習のステップを小さくし、教師の支援で一人ひとりの考えを引き出し、集団で学び合うコース
 (2グループ「オレンジ1」「オレンジ2」)
A 指導計画(総時数12時間)
主 な 学 習 活 動 ・ 内 容
ももコース レモンコース オレンジコース
 パズルを様々に組み合わせて既習の形作りをする。同じ面積になる形の組み合わせを見つけ、図形の求積についての関心を高める。  パズルで既習の形作りをする活動を通して、既習の図形を構成する様々な組み合わせに気付き、図形の求積についての関心を高める。  パズルを様々に組み合わせて既習の形作りをする。同じパズルでも組み合わせによって異なる図形になることに気付き、図形の求積についての関心を高める。
 平行四辺形の面積を自分なりの方法やグループで考えた方法で求める。多様な考えを伝え合い、いろいろな求積方法を理解する。  パズルの組み合わせをもとにペアで平行四辺形の求積方法を考え、面積を求める。求積方法をワークシートにまとめて伝え合い、いろいろな方法を理解する。  平行四辺形の一部を移動して長方形に置き換える方法を全員で話し合う。自分が選んだ方法で実際に図形を操作し、求積方法を理解する。
 前時に考えた求積方法をもとに、平行四辺形の面積を求める公式を理解する。公式を用いていろいろな平行四辺形の面積を求め、伝え合う。  前時に考えた求積方法の中で、できるだけ少ない条件で求められるものをペアでさがし、公式の意味を理解する。公式を用いて平行四辺形の求積をし、面積をペアで確かめる。  前時に扱った長方形と平行四辺形を比べ、平行四辺形の求積に必要な長さの箇所を理解する。全員で考えた公式を用いて方眼のある平行四辺形の面積を求め、図形を操作して確かめる。
 三角形の面積を自分なりの方法やグループで考えた方法で求める。多様な考えを伝え合い、三角形のいろいろな求積方法を理解する。  平行四辺形になるパズルの組み合わせを手掛かりにして、ペアで三角形の求積方法を考え、面積を求める。求積方法をワークシートにまとめて伝え合い、三角形のいろいろな求積方法を理解する。  三角形を長方形や平行四辺形にに等積変形することや、2枚を組み合わせて平行四辺形にすることを全員で見つけ、三角形の求積をする。図形を操作して自分が選んだ方法を理解する。
 前時に考えた求積方法をもとに、三角形の面積を求める公式を理解する。公式を用いていろいろな三角形の求積をし、伝え合う。  前時に考えた求積方法の中で、できるだけ条件の少ないものをペアでさがし、三角形の公式の意味を理解する。公式を用いて三角形の求積をし、面積をペアで確かめる。  前時に扱った平行四辺形と三角形を比べ、三角形の求積に必要な長さの箇所を理解する。全員で考えた公式を用いて方眼のある三角形の求積をし、図形を操作して確かめる。
 鈍角三角形の求積方法を自分で考えるとともに、グループでも話し合い、その面積を求める。多様な考え伝え合い、鈍角三角形の求積方法を理解する。  鈍角三角形の求積方法をペアで考え、面積を求める。底辺と高さが同じいろいろな三角形の面積をペアで求め、鈍角三角形も公式にあてはまることを理解する。  鈍角三角形を2枚組み合わせた形はどんな図形になるか、鈍角三角形の底辺や高さはどこになるかを話し合う。公式にあてはめて求積し、図形を操作して確かめる。
 台形の面積を自分なりの方法やグループで考えた方法で求める。多様な考えを伝え合い、いろいろな方法で台形の求積をする。  パズルの組み合わせを手掛かりにして、ペアで台形の求積方法を考え、面積を求める。求積方法をワークシートにまとめて伝え合い、いろいろな方法で台形の求積をする。  台形を既習の2つの図形に分けることとそれぞれの図形の求積方法を全員で話し合う。図形を操作して自分が選んだ方法を理解する。
 凧型やひし形の面積を自分なりの方法やグループで考えた方法で求める。多様な考えを伝え合い、いろいろな求積方法を理解する。  パズルの組み合わせを手掛かりにして、ペアで凧形やひし形の求積方法を考え面積を求める。求積方法をワークシートにまとめて伝え合い、いろいろな求積方法を理解する。  底辺と高さが等しく形の違う三角形の面積を公式を用いて比べる。図形を操作して面積が等しいことを確かめる。
 一般的な四角形を自分なりの方法やグループで考えた方法で求める。多様な考え方を伝え合い、四角形の求積をする。  三角形に分割して一般的な四角形の求積をすることに気付き、ペアで底辺や高さになる箇所を考え、長さを測って求積する。  一般的な四角形の面積を求めるための分割の仕方や底辺や高さになる箇所を全員で見つける。自分が選んだ方法を用いて求積する。
10  一般的な四角形の面積を求めるための分割の仕方や底辺や高さになる箇所を全員で見つける。自分が選んだ方法を用いて求積する。  既習の公式を用いてペアでいろいろな図形の求積をし、面積をペアで確かめる。  様々な図形が既習の図形の組み合わせであることに気付き、公式を用いて求積する。
11  三角形や平行四辺形の高さや底辺を変化と面積の関係をグループで話し合い、表に整理して規則性を理解する。  三角形の高さや底辺を規則的に変化させた場合の面積をペアで一つ一つ求積し、規則性を調べる。  三角形の高さや底辺を変えたときの、面積との関係を調べる。
12  長方形や平行四辺形内部の任意の点からできる様々な三角形の面積を求め、長方形の面積との関係をグループで話し合い、規則性を理解する。  長方形や平行四辺形内部の任意の点からできる様々な三角形の面積をペアで求め、規則性を調べる。  長方形や平行四辺形内部の任意の点からできる三角形の面積を求め、規則性に気付く。

B子どもの実態の応じた指導の手だて
ア パズル(全コース共通)
 三角形と四角形の組み合わせから様々な図形作りを経験させ、本単元で学習する図形の求積方法を見つけるための手掛かりとした。
(図2 パズル) (図3 レモンコースでの求積への導入)

イ 自己評価・授業評価のための「ふりかえりカード」(全コース共通)
 毎時間の学習について「学習したことや感想」、「コースのめあて」、「自分のめあて」の3つの視点で学習を振り返る。「コースのめあて」は本単元の各学習コースの設定意図に基づく具体的なめあてをコースごとに示した。学習に対する主体的な態度の育成とともに、授業評価の資料として次時の指導の方法の工夫改善に役立てることをねらった。
   (図4 ふりかえり)

ウ 発表ボード(ももコース)
 訂正が容易なホワイトボードを使って自分なりの求積方法をまとめるために用いた。自分の考えを説明する場面ではそのまま提示し視覚資料として活用することができる。本単元では方眼を貼り、図形の分割や移動を正確に表すことができるように工夫した。効率よく考えを交流させ、学び合いを活性化することをねらった。
(図5 発表ボード) (図6 ももコースでの求積)

エ ワークシート(レモンコース)
 図形を実際に分割し、移動し、組み合わせながら求積方法を考え、思考の過程をそのまま記録できるよう工夫した。方法ごとに新しいワークシートにまとめることで、ペアでの学習を蓄積し自由に振り返ることができるとともに、他のペアの求積方法との比較や分類をすることも容易になった。発表の際には視覚資料として活用することがもできた。

(図7 ワークシート)
(図8 レモンコースでの求積) (図9 レモンコースでの求積方法の分類)

オ ジオボード(オレンジコース)
 方眼の交点に取り付けたピンにゴムひもを掛け図形を表すことができる。自由に変形できるので一斉指導での図形の操作を分かりやすく提示することができる。ゴムひもの数や色の使い分けで、分割、移動や面積の比較でも効果的な視覚資料を提示することができた。
(図10 ジオボード) (図11 オレンジコースの求積)

カ 学習のあしあと(オレンジコース)
 1単位時間ごとの学習内容を単元の流れに沿ってまとめていき、前時までの学習内容を確認しながら新しい求積の学習に取り組むことができるよう配慮した。

(図12 学習のあしあと)

C 学習の展開
ア ももグループにおける学習の展開
主 眼  既習の図形に分割したり、同じ大きさの台形を2つ組み合わせたりして、多様な方法で面積を求めることができる。
学習活動・内容 教 師 の 働 き か け
1 台形の求積方法の見通しを立てる。
・台形の特徴
・既習の図形への分割、移動
台形の特徴や既習の図形から構成されていることを想起させ、求積方法の見通しをもたせる。
パズルを手掛かりに分割する方法以外にも、今まで三角形や平行四辺形の求積の時に行ってきた等積移動によっても求められることを手掛かりにして、分割、移動、組み合わせなどの考えが見つけられるようにさせたい
台形の面積をいろいろな考え方で求めよう
2 グループで求積の方法を話し合い、自分たちの考えた台形の面積の求め方を発表する。

・既習図形に分割
・分割して移動
・平行四辺形の半分

3 方眼のない台形の面積を求める。
・求積に必要な長さ
(測るべき場所)
自分たちの考えを分かりやすく伝えるために、発表ボードに分割の仕方や面積の求め方を書き込ませ、話し合う時間を多くとりたい。

方眼入りの台形と方眼の入っていないものを2種類用意して、分割や移動の考え方の手助けにしたい。

自由に伝え合う場を設けることにより、発表したいという意欲をもたせ、グループ同士の発表を聞き合い、求積方法に対するいろいろな考え方を見つけられるようにしたい。

いろいろな考え方を互いに発表し合って、比較させ、どのようにして求めたのか分かるように板書で工夫する。

三角形の求積で用いた平行四辺形の半分であるという考え方を手掛かりにして、気付かない場合は、方眼の入っていない2枚の台形を提示して考えさせていきたい。

いろいろな方法で求積させ、定着化を図りたい。

(評)いろいろな方法で台形の求積ができたか。

観点を決めてカードに記入することで、自らの学習に具体的な視点をもたせ、達成感を味わうことができるようにする。

イ レモン1グループにおける学習の展開
主 眼  三角形、平行四辺形等の求積方法を活用し、台形の面積を求めることができる。
学習活動・内容 教 師 の 働 き か け
1 パズルピースを使って台形作りをする。
 
パズルで台形を作って黒板に提示し、台形がどのように構成されているかを視覚的にとらえることができるようにする。
台形が既習の図形で構成されていることから、求積の見通しがもてるようにする。
2人で工夫して台形の面積を求めよう
2 台形の面積を求める。
 ・既習の図形に分割
・分割して移動







3 求積方法を発表する。
 ・様々な求積方法
パズルで作ったものとは違う台形を求積する図形として、方眼入りで提示する。

ペアで活動に取り組むことにより、考えを出し合って課題解決していけるようにする。

どのように考えて求積したかをワークシートにまとめていくようにし、発表の際に図形を使って説明できるようにする。

面積を求めることができたペアには、他にも求積方法がないか考えてみるように助言し、多様に考えようとする態度を育てる。

実際に図形を切ったり貼ったりして考えることができるように、求積に使う台形を用意し、複数枚使えるようにしておく。

他のペアの考えを聞くことにより、多様な考え方に気付くことができるようにする。

求積方法を書いたワークシートを黒板に提示し、参考にできるようにする。

(評)台形を求積できる図形にして、面積を求めることができたか。

ペア同士で、自分がどのように求積したかを伝え合うようにし、面積や求積方法を確かめることができるようにする。

観点を決めて学習の成果をカードに記入することで、具体的な視点をもって学習を振り返ることができるようにする。

ウ オレンジ1グループにおける学習の展開
主 眼  台形を2つの既習の図形に分ける活動を通して、それぞれの面積の和から台形の面積を求めることができる。
学習活動・内容 教 師 の 働 き か け
1 台形を2つの図形に分ける方法を発表する。
袋の中から取り出した図形を示すことで、台形の面積を求めることを確認できるようにする。

直角を含む台形を提示することで、台形を既習の図形に分割しやすいようにする。

台形を面積が求められる2つの図形に分けてみましょう。」と問いかけることによって、その分け方を考えられるようにする。
台形を2つに分けて面積を求めよう
2 台形の面積を2つの図形の面積の和で求める。
・既習の図形に分割
・長方形と三角形
・三角形と三角形






3 別の形の台形をいくつかの図形に分けて面積を求める。
・求積できる分け方
・三角形や四角形の求積
面積を求められる図形を全員で確認できるようにする。

話し合いの中でジオボードの台形を2つに分割し、必要な数値を全員で確認することで、求積への見通しをもつことができるようにする。

自分のやりたい方法で面積を求めさせ、更に全員の前で発表させることで、図形の求積に自信がもてるようにする。

どの方法でも台形の面積が等しくなることから、台形の面積を求めるときには、2つの図形に分けて求めればよいことをおさえる。

形の違う台形を提示することで、自分の選んだ方法で台形の面積を求めることができるようにする。

支援が必要な児童には、始点をヒントとして助言することで、求積できるようにしたい。また、底辺や高さが分からない児童がいれば、全体に広げて、全員で確認していきたい。

(評)台形を既習の図形に分け、それぞれの図形の求積をし、台形の面積を求めることができたか。

台形を2つの図形にうまく分けることができたことや、台形の面積を2つの図形に分けて求めることができたことなどを学習カードに記入させる。


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3 成果と課題

(1)成果として
○ 自分に合った学び方が選択でき、学習への主体的な取組みを引き出すことができた。
○ 実態の応じた指導方法の工夫によって、どの学習グループでも子ども同士の学び合いが見られた。
○ 学習を振り返ることの習慣化によって、学習に対する子どもなりの視点が育ち、主体的な取組みに伸びが見られた。また1時間ごとの学習状況の把握を次時の指導に生かすことができ、授業改善につなげることができた。

(2)課題として
○ 同コース異グループ間での学び合いの場づくりによる学び合いの一層の活性化。
○ 学習コース選択時のコース設定意図に応じたよりきめ細かな情報提供。
○ 実態に応じて思考力を伸ばす指導方法の一層の工夫改善。

○ 校長から見た指導のポイント
(1)学力向上フロンティア事業を学校教育目標、めざす児童像の実現の一方途としてとらえる。
(2)児童・教師・保護者がともに取り組む仕組みの中で、信頼関係を深めながら課題や成果を共有する。
(3)継続的な学校評価、少人数アンケート、学力調査の実施により、指導の結果の収集・分析を行い、指導と評価の一体化を図る。
(4)発展的な学習や補充的な学習など、個に応じた指導のための教材開発を実践研究の観点とする。 

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