キャリア教育の推進                        〔指導課〕

自分の生き方を見つめるキャリア教育の推進     
−萩市立越ヶ浜中学校−

1 学校の紹介2 具体的な活動内容(1)総合的な学習の時間における取組み
(2)道徳における取組み(3)学級活動における取組み(4)その他
3 成果と課題

実  践  の  ポ  イ  ン  ト
 キャリア教育が効果的に進められるよう、3年間を見通した全体計画を立てる。
 特別活動や総合的な学習の時間などに、進路に関する啓発的な体験学習を積極的に取り入れ、自己の在り方生き方を考える機会を増やす。
 地域や保護者との連携を図り、地域の教育力を活用する。
 キャリア・カウンセリングを通して、生徒が主体的に進路選択できるよう支援する。

1 学校の紹介
 本校は、萩市の中心部より北東4km、国道191号線沿いに位置し、西側には日本海が開けている。校区内には、北長門国定公園の景勝地、笠山や明神池などがあり、四季の織りなす風情や自然の景観とともに市の観光の一翼を担っている。
 校区は越ヶ浜地区と後小畑地区とで成り立ち、全家庭が学校より2km以内にあり、校区外の生徒以外は徒歩通学である。
 保護者は明朗、活発。学校教育に対する理解があり、協力的である。地域にも大きな教育力があり、和船競漕大会をはじめとした各種行事や、後援会活動にも地域をあげて取り組んでいる。
 生徒は明朗で人なつこい。作業的学習を好み、友人と協調して物事を成し遂げる。男女の仲も良く、各種行事にも積極的に取り組み、創造性や団結力を発揮する。

       


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2 具体的な活動内容
 萩市中教研進路指導研究部では、「支援されるだけではなく、前向きに進路学習に取り組み、自主的に夢や知恵を育む生徒を育成しよう」という観点から、今年度の研究主題を『夢と知恵を育み、自己決定を支援する進路学習』とし、各校の特色ある実践活動を通して研究を進めることにした。
 本校もこの主題に従って取り組むものとし、3年間を見通した綿密な進路計画づくりに着手した。
 まず、進路指導主任が前年度の反省を基に「進路指導単元化構想図」を作成し、その計画を学年会で検討して各学年の進路指導目標を設定した。
 進路指導は、「生徒が自らの生き方を考え、将来に対する目的意識をもって、自分の意思と責任で、自らの進路を選択決定していこうとする能力や態度を育むよう、全教育活動を通して指導・援助する営み」である。そのためには、各学年の主なねらいを明確に打ち出し、実践を積み重ねることが必要不可欠である。本校では1年時を「広げる」とし、進路を意識化させ、2年時は「深める」とし、進路の吟味をさせ、3年時は「しぼりこむ」とし、進路の最終決定を主体的に行える生徒の育成をめざすものとした。
 このホームページでは、3年間の進路学習の仕上げともいえる、道徳、特別活動、総合的な学習の時間を活用した3年生の「生き方」についての学習活動を取り上げ、紹介する。1・2年で蓄積した内容知や方法知が複雑に絡み合いながらスパイラル的に昇華し、“自分らしさ”と“こだわり”の凝縮された自己知の獲得が、義務教育最後の3年生での取り組みということになる。
 以下に、平成15年度進路学習計画を示す。なお、3年間を見通した進路指導全体計画等については、別紙をご参照いただきたい。
 【別紙1進路指導単元化構想図
 【別紙23年学活年間指導計画
1 年 【広げる】 2 年 【深める】 3 年 【絞り込む】
進路への意識化 進路の吟味 進路の決定
◆中学生活の出発
 *資料「美しく自分を染めあげてください」
▲中堅学年の出発
 ・作文「一年間の決意」
▲最終学年の出発
 ・作文「一年間の決意」
■修学旅行の準備 
 ・テーマの探究
▲エンカウンター1
 「私は誰でしょう?」
▲エンカウンター3
 「20XX年の私は・・・」
◎修学旅行*関西 
 ・学を修める旅
▲エンカウンター4
「意志決定シュミレーシュン」
▲学習と生きがい 
 ・なぜいま学ぶのか
▲職業の世界
 ・人はなぜ働くのか
▲先輩への手紙
 ・越ヶ浜中の卒業生へ
▲働く人々に学ぶ
 ・働く人々の姿
▲生き方を考えよう
 ・個性を生かす場を求めて
◆進路の選択 
 *資料「道はいつもひらかれている」
○職場調査
 ・親の職場で学ぶ
▲職業人への手紙「仕事発見シリーズ」の著者へ ○「卒業生を囲む会」
 ・現役高校生との対話
○職業レディネステスト
◆自分を知ろう 
 ・人と個性
○進路適性検査
▲職業の世界
 ・職業とは何だろう
◆作文「自分が中学3年生を持つ親だったら」
▲エンカウンター5
「ピア・カウンセリング」
10 ○職場見学*萩
 ・職業インタビュー
◎職場体験
 *萩
◆職場体験の深化 *資料「動かない芯を求めて」
○校内進路説明会
○高校体験学習
▲エンカウンター6
「進路相談をシミュレート」
11 ◆職場見学の深化 
 *資料「メダカと飛んだ 天女」
○夢をテーマにした演劇発表 *文化祭
○職場体験学習の発表会
 *文化祭
◆進路の悩みの解消
 *資料「風に立つライオン」
○進路相談
12 ▲エンカウンター2
「職業や産業について調べよう」
▲二十歳の自分へ
 ・6年後の自分への手紙
○三者懇談
▲学習の見直し
◆働くことの意味 
 *資料「オー・ブリオン の一日体験」
■修学旅行の準備
 ・テーマの探究
○夢実現祈願
▲受験の心構え
■職業講話 
 ・先輩に学ぶ
▲夢宣言の会・立志集作成 ▲卒業論文の提出
○進路相談 ▲高校の種類を知る
 ・「夢サポート」の利用
○進路相談
○生き方の再考 
 ・映画に学ぶ
○3年生を送る会
 ・後輩に思いを語る


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(1)総合的な学習の時間における取組み
@ 夢と知恵を育む<修学旅行>
 本校の進路学習においては、修学旅行を《学を修める旅》として位置づけている。これは修学旅行を単なる表面的な行事としてではなく、一つの単元として仕組み、課題意識をもって計画的に取り組むことができる形をとっていることによるものである。
 例えば、本校では、英語科とタイアップし、修学旅行中に、各人が1人以上の外国人に話しかけ、サインをもらうという企画も行っている。当初は遠慮がちだった生徒たちも、積極的に国際交流を図っているようである。このように修学旅行も、学んだこと(英語)が活かせる喜びを体感する貴重な場となる。
 さて、修学旅行における進路学習であるが、自分の学習したいテーマの選択幅を広げるため、平成14年度より自主研修の範囲を京都市内から関西全域に広げた。
 平成14年度には、関西空港で「国際舞台で活躍する空港職員にインタビューをしてみたい」という生徒が現れた。このように、生徒たちの「自分らしさ」や「テーマへのこだわり」を重視した結果、34人で14の活動班ができ、チャレンジ精神旺盛な活動ができた。自分の興味・関心に基づき課題を設定し追究することにこそ、テーマ別学習の醍醐味がある。
 一方、生徒たちの安全対策も十分に検討し、危機管理も徹底させた。緊急時の対応の仕方を教え、各グループに一台ほど携帯電話を持たせた。
 また、自己決定・自己責任の能力を養うため、自主研修の日は服装も自由服とした。活動に応じて制服か私服かを考えるなど自分たちでルールも決めて、「中学生らしい服装」を心がけたのである。

       

 移動中のバスの中で、バスガイドさんに「人生の先輩、大いに語る」と称して、「生き方講座」を行ってもらった。以下は生徒の感想である。
 バスの中では人生を語っていただき、私はとっても感動しました。
 中でも一番印象に残っている言葉は「失敗しても、これで最後ではない」という一言です。
 私には今、なりたいと思っている夢があります。今までは、「どうせ私は勉強もできないし、したくてしているわけでもない。どこでもいいから一応、私立の高校でも行っとくか」ぐらいの考えでした。でも、ガイドさんの話を聞いて、「一応とではなく、何か一つの目的をもち、一生懸命やる」ということを教えてもらったような気がします。ガイドさんは、そういう意味で言われたのではないかもしれませんが、私にはそう聞こえました。あまり歳の差のないガイドさんのアドバイスは、すごく納得のいく話で「私にもできるかもしれない」という気がしてきました。今までは、先生や親に言われてもピンと来ず、「勝手に言っとけ」という感じでした。しかし、ガイドさんに人生について語っていただき、本当によかったと思います。とってもよい話で、とっても感動し、とっても勉強になりました。
 修学旅行は工夫次第で、人生の先輩とふれあえるチャンスが無限にある。バスガイドや添乗員になった動機・生きがい・苦労などの生きた話が聞け、生徒たちも有意義な旅行になった。その後、バスガイドさんからも手紙が来て、しばらくの間、文通が続くことになる。人生の悩みを聴いてもらい、生徒も一期一会の重みと素晴らしさをヒシヒシと感じていた。

A 卒業論文の制作(10月〜2月)
 3年間の集大成として、毎年、本校では卒業論文を書かせることにしている。自分との対話を繰り返しながら、自分流の生き方を創造するのである。
 平成15年度は、「幸せ・生きがい・夢」の中から一つテーマを選び、自分の生き方を見つめることにした。
 最初に、昨年の3年生の論文を数本ピックアップし、一読させ、感想をまとめさせることから学習をスタートさせた。

 みんな同じ“幸せ”というテーマで卒業論文を書いているのに、それぞれの結論が違っていて面白いと思った。しかも、幸福を考えるために、本やインターネットから文を引用していてどの意見にもうなずいてしまう部分があった。どの文を読んでも「すごいなぁ」と感心した。
 自分は今まで“幸せ”について考えたことはないから、なんか「こういう幸せもあるんだな」と読むたびに感動した。自分の周りに家族がいて、友達がいて、それが当たり前だと思っていたけど、それも一つの幸福なんだなって思った。
 感想を書かせた後、前述の3つから自分のテーマを決め、そのテーマについて率直な意見を書かせた。この生徒は、「夢」を選んでいる。
 夢とは誰もがもっているものだと思う。大きさや重さは人それぞれ違うと思うけど、その人が生きていく上で、最も大切な栄養だと思う。自分の夢や希望をなくしてしまったら、生きがいも感じられないし、楽しくない人生を過ごすだけだと思う。そういう意味で、夢とはすごく大切なものではないかなぁと思う。叶えたい夢をもってそれに向かって努力している時、挫折したり悲しくなったりしても、自分が夢をもち続けている限り、不安な人生を送ることはないと思う。小さい夢でも一つ叶えれば幸せになれる。夢はいつでももち続けたいものだと思う。
 初めての学習であるが、この生徒はしっかりと「夢」について見つめている。しかし、自分の限られた経験や考えだけでは、テーマのイメージも膨らまないので、この考えにしっかり栄養を与え、育てる支援が大切となる。そのため、教師が必要と思う映画やテレビ番組をピックアップし、鑑賞会を何度か開いた。
 その度に、「振り返りシート」を配布し、感想と登場人物の「生きがい」を分析させ、ファイルに閉じさせた。このように作品鑑賞を通して多くの人々の生き方に触れ、自分で自主的にテーマについて調べ、卒業論文を完成させていくのである。
  卒論テーマ「幸福とは何か?」

 幸福と聞いて思い浮かべることは、人それぞれ違うと思います。誕生日を祝ってもらった時にしあわせだと思う人、テストで満点をとって幸せだと思う人。他にもたくさんあります。
 私は、今まで幸福について深く考えたことは、ありませんでした。ですが、授業で話を聞き、資料を読み深めていくうちに、幸福とはいったい何なのだろうかと、思い始めました。
 私は、授業で、自分の決めた道に進んでいく人の話を資料で見たりして、これが幸福なのではないかと思いました。
 木村浩子さんの本に出会い、私は今のままでよいのかと思ってしまいました。木村さんは、生まれてまもなく脳性マヒに冒され、左足しか動かない状態ですが、健常者と障害者が共に生きる出会いの場として、民宿「土の宿」を設立されました。 私は、この木村さんの前向きな生き方に、とても心を動かされました。
「この道より われのゆく道なし この道をゆく ひとすじの道」1)
 この木村さんの言葉を、初めて読んだとき、まさにこれが幸福ではないかと思いました。自分の決めた道に進んでいく人は、最終目標を達成するために、少しの困難では、決してあきらめません。自分のやりたいことをしているときに、不幸と思う人はいないと思います。この言葉どおり、ひとすじの道を突き進み、その果てに幸福があるのだと思います。
 道徳の授業のときに、「学校」という映画を見ました。この映画の最後に幸福とは、これから分かってくるものだといっていました。確かに、私はまだ15年しか生きていないので、未知なる幸福がたくさんあります。だから、幸福ということを、これからの生活のなかでも考えていこうと思います。
 そして、幸福というのは、お金がたくさんあって、不自由のない生活をすることだけでなく、日頃のちょっとした喜びも、幸福という言葉の意味に含まれているということを、頭の隅におこうと思います。
 私は、まだ自分の進むべき道が、見えていません。だからこそ、その道の先にあると思う幸福に、少しでも近づくためにいろいろなことに挑戦し、がんばっていこうと思います。

〇引用文献  1)木村浩子:『おきなわ土の宿物語』(小学館,1995)p81


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(2)道徳における取組み
@ 上を向いて生きよう(5月)
 中卒、自殺未遂、極道の妻。そして、司法試験に一発合格、と波瀾万丈の経歴を持つ大平さんの話が資料である。人間には、自ら運命を切り開いていける大いなる可能性があることを教えてくれた。

 人間は、向上心をもって前向きに生きたら、きっといいことがある、と思った。大平さんは中学も高校もまともに行ってないのに、弁護士になってすごいな、と思った。今後は下を見ずに、上を向いて生きたいと思った。
 ※資料:大平光代「だから、あなたも生きぬいて」(講談社)

A 甘えを断ち、自分に厳しく(6月) 
 夢の実現をめざして留学先のアメリカで一日16時間勉強した孫正義の話を活用した。彼は日本のコンピューター界の風雲児として大活躍している。生徒たちは自分の甘さを反省していた。

◆今日の道徳のプリントを読んで思いました。「やっぱり自分は甘いなぁ」と。また、自分の勉強時間を見て「情けないなぁ」と反省しました。これからは、もっと自分に厳しくしていきたいです。
◆すごい勉強になりました。僕はいつも勉強
の時にスケジュールなんか決めずにやっていたけど、今度からは決めるようにします。
 ※資料:孫泰蔵「孫家の遺伝子」(角川書店)

B 夢をあきらめるな(6月) 
 新聞奨学生をしながら自分の夢を実現した人の資料を紹介した。大雪や大雨の日も負けずに通い続けて学費を稼ぎ、第1志望のマスコミに就職した人生の先輩の体験記事を読んで、「自分は恵まれすぎている」「考えが甘すぎた」と反省する意見も多く見られた。
 今、私にも夢があります。井上さんの生き方に触れて、「夢というものはあきらめなければいつかは叶うものなのだ」と、つくづく感じました。これからは何でもすぐにあきらめず、自分の夢をねばり強く追いかけていこうと思います。
 ※資料「進路わたしはこう決めた!」(高文研)

C 努力は実る(10月)
 資料は、イソップ物語で有名な「アリとキリギリス」を使った。効果を高めるため、
前半でエンカウンターの手法を取り入れて、10年後の自分から今の自分に手紙を書かせた。将来に対する断片的なイメージをつなぎ合わせ、自分の将来の姿を多面的に見通すことで、今すべきことに気づくことができた。その後、手紙をグループで回し読みをし、それについての激励文を書かせることで、他者理解の姿勢の育成もねらった。
 拝啓★10年前の15歳の私へ
 10年前の○○ちゃん、元気ですか。私は今、京都に住んでいます。夫と子供3人に恵まれて、幸せに暮らしています。来週イギリスへ旅行に行きます。イギリスと言えば、私(あなた)の昔からの夢でしたね。それが25でやっと叶います。ちなみに今、絵を描きながら主婦をしています。28で結婚するつもりの私が23で結婚しました。夫とは、高校卒業後に進んだ美術の専門学校で知り合いました。私が後悔しているのは、10年前にもっと親孝行をしておけばよかったということです。○○さん、今から、思いっきり親孝行してあげてくださいね。それと、勉強がんばってください。10年後に会いましょう。あなたの心の中でずっと応援しています。                                        10年後の25歳の私より
 なお、本学習の指導案については、別紙資料をご参照いただきたい。
 【別紙3道徳指導案


D 風に立つライオン(11月)
 アフリカへ医療のために来て3年待つ彼のもとへ、彼女から結婚するという手紙が届く。主人公はこの手紙を読んで、歩んで来た道に確信をもち、さらに決意を強くするという話。歌手のさだまさしがこの実話をもとに作詞・作曲をし、「風に立つライオン」として発表した。音楽を効果的に使うことで、臨場感を高めることができた。

 歌を聴いたとき、自分の今までの人生や主人公のいるアフリカの環境や生活が浮かんできました。その時に感じた思いに、私は言葉に表せないほど感動しました。歌を聴いているだけで心が癒される感じがしました。世界にこんな優しくてよい人がいることを知り、大変うれしく思いました。
 ※資料「中学校の道徳3〜自分をのばす〜」(暁教育図書)
 なお、本学習の指導案については、別紙資料をご参照いただきたい。
 【別紙4指導案



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(3)学級活動における取組み
@ 憧れの先輩への手紙(6月)
 本活動は、自分の第1希望の学校に通っている先輩に手紙を書くという取組みである。高校の現状や様子などを聞くだけではなく、入試時の心境やストレス解消方法も知ることができ、大いに励みになったようである。手紙の相手は、高校1年生から3年生までの誰でもよいこととした。母校の後輩ということで親身になって相談にも乗ってもらえ、意義のある情報も得られたようである。
 以下は、中学生の感想であるが、自分の支えとなっていることがうかがえる。

 私は、受験に対して大きな不安がありました。でも、先輩の手紙に「大丈夫だよ」とか、「こうしたらいいよ」とか、励ましの言葉やアドバイスなどが書いてあって、不安が少しなくなりました。先輩からの手紙のおかげで、これからの中学校生活の過ごし方とかも分かってきました。まだ高校についてわからないことがたくさんありますが、この手紙が今の私を助けてくれたように思います。

A 未来の子どもへの手紙(10月)
 本活動は、「もし私が中学3年生の子どもをもつ親だったら、今、我が子にどんなことを一番言いたいですか」という題で手紙を書いた取組みである。
 生徒たちは、十数年後に思いをはせ、自分との対話を繰り返しながら、父親や母親になりきって真剣に手紙を書いた。
 生徒たちは、将来への不安や漠然とした思いが具体的な形として表れたことで、自分自身を客観視することができたようである。文章を活用したロールプレイを行ったことで、「親の気持ちが分かった」とか「ストレスの解消にもなった」というプラスの意見が多数見受けられた。時期的には、10月よりも部活引退で受験が現実味をおびてくる夏休み前ぐらいが適当ではないだろうか。以下に、一事例を紹介する。

【息子へ】
 お前の人生はお前のものなんだから、父さんに否定される筋合いはないだろうし、父さんも否定したりお前の人生をレールに敷こうなんて考えもない。お前には夢があることを知っている。
 それは父さんから見ても立派なものだと思う。しかし、お前はその夢を叶えようと努力をしているのか。父さんもお前ぐらいの頃、夢があったし、それに向かって努力もした。お前は夢を叶えると偉そうなことを言っているにもかかわらず、実は何もしていないじゃないか。
 一度ぐらい本気を出して全力でぶつかってみろ!  【父より】

B 進路相談シミュレーション(11月) 
 本活動は、決められた役割の中で自発的に演じることによって、固定化された役割関係や考え方から離れて、新たな立場や視点から状況をとらえ、問題解決の糸口を見いだす取組みである。生徒は、ロールプレイングを通じて、自分の悩みを客観的に見つめることができたようである。また、仲間同士の気軽な模擬体験で、日頃からなにげない相談も行うようになるなど人間関係が深まったようである。
 ここでは、クライエントを中学3年生、カウンセラーを担任とし、相談内容は「模擬試験の結果が悪く、第1志望への合格が厳しい」という場面設定をした。
◆どれくらい勉強したんだ?
◇うーん、1日1時間くらいです。
◆先生は、1日6時間勉強したぞ。
◇僕は塾が多くてそんなに勉強できません。
◆家に帰ってすぐやるんだ。夕食までのゴールデン・タイムが勝負だ。
◇でも、今さらやっても間に合いませんよ。
◆なぜそう決めつけるんだ?まず、やってから言うんだな。
◇でも、あと3か月しかありませんよ。
◆3か月。時間に直すと2160時間。そのうち、360時間を勉強に回せ。そ うすれば、余裕で合格だ。
◇そうか。360時間したら、第1志望校に受かるかもしれませんね。これから 死ぬ気でがんばります。
 生徒たちの感想を読むと、自分を客観的に見つめ直すことができ、楽しく活動できたことがうかがえる。
 楽しかった。先生と生徒という設定だったので、悩んでいたこともメール感覚で相手に伝えられ、相手の気持ちもよく分かった。仲のよい人とやったので、自分の気持ちもよく分かってもらえ、良いコメントをもらえました。またやりたいです。
 ※資料「中学生の進路力を育てる総合的な生き方の学習プラン」(実業之日本社)

C ピア・カウンセリング(11月)
 本活動は、進路に関する悩みや心配事を書いた匿名の相談用紙を学級内で無作為に交換し、受け取った相談に対して、各自がカウンセラーになりきり、こちらも匿名で肯定的なアドバイスを書き、相談者に返すという取組みである。
 ここでは生徒Aの一連の流れを追うことにする。
 生徒Aは、進路に対して下記のような悩みをもっていた。

 本当に、このままで行きたい高校にいけるのだろうか。
 これに関するカウンセラーの助言は、下記のとおりである。
 行きたい高校に行く自信がないのなら、とにかく勉強あるのみ。「ここまでやれば絶対行ける」と自信がつけば、行ける。
 とにかく、自信がないとやっても失敗すると思う。がんばれば、きっと行けるよ。 そのためにも、コツコツと少しずつでも勉強をしていけばいいと思うよ。「今日はここまで」とか範囲を決めていけばいいと思う。
 受験が身近に迫っているので感情移入も容易にでき、親身になって相談に乗ることができたようである。活動終了後に、今の素直な気持ちを感想に書いてもらった。
 すごくいいカウンセラーの人でした。親にも言えないことを相談してもらってよかった。カウンセラーの2人の書いてあることをすれば、何かできそうな気がします。2人のお陰で少し自信がつきました。それと焦っていたのが、こうすれば別に焦らなくてもいいんだと思いました。この企画は本当にいいと思います。また、やってほしいです。
 翌日の生活ノートにも次のような感想が載っていた。
 人に相談することで心のモヤモヤが取れたような気がします。入試まであと少しだけど、友達の言葉を思い出して頑張って勉強しようと思いました。
※資料「中学生の進路力を育てる総合的な生き方の学習プラン」(実業之日本社)

D 合格CM(12月)
 本活動は、受験ムードを高めるため、また、精神的なゆとりももたせるため、教室に学習意欲を喚起するようなキャッチコピーを掲示するという取組みである。
 会話編と言葉編の2部門について考えさせ、その後、投票をして各部門とも上位5人ずつ選んだ。入賞作品は学級通信で紹介し、教室にも掲示した。

【合格CM★会話編】 
生徒:先生。このままじゃ、第1志望に合格できません。
教師:そういう時は、この歌を思い出せ!
生徒:負けないこと♪投げ出さないこと♪逃げ出さないこと♪信じ抜くこと
  ♪ダメになりそうな時♪それが一番大事
  いいか、この歌の歌詞を思い出せ!
生徒:やる気が出てきたぞ。ダメになりそうな時は、この歌を思い出します!
【合格CM★言葉編】 
1分、1秒を大切にしろ! 君の運命は、そこから変わる。
 このCMを教室に貼りムードを高めた。環境は人を作るのである。

E 応援メッセージ(12月)
 友達に向けて「応援メッセージ」を書く活動を行った。一人10枚と決めたが、大部分の生徒がクラス全員へ書くなど、思いやりの心とクラスの団結を生むことができた。このメッセージは第1志望受験の前日に配布し、手渡すときに拍手をした。止めと言っても鳴りやまない。感動の世界だ。メッセージを入れる封筒の表には3大天満宮の写真を貼り、縁起を担いだ。

F 幸せさがし(1月) 
 20世紀最高の講演家と名高いピール博士の著書「積極思考」の抜粋を読ませた後、「幸せさがし」を行った。 配布した「幸せシート」に、自分の好きなものを「資産」として書き入れさせた。愛犬、愛猫、妻や子ども、友人たち、爽やかなそよ風、明るい青空、海の上を舞うカモメの群、好きなレコードやCD、新鮮な空気、青々とした木々、好きなテレビドラマ、小説、おいしいパスタなど、自分の好きなものをすべて、自分の人生にとって「資産」と計上させた。資産を、お金や高級品などと思っていた生徒たちは、新鮮な驚きを感じていた。また、エンカウンター的な手法を取り入れ、友達と意見を交換をすることで多様な幸せに気付き、幸せの再発見をした。

◆私はもっともっと幸せになりたい。いろんな人に出会ったりして。生きていることは本当に素晴らしいと思う。産んでくれた母・父に感謝です。本当に今、私は幸せです。
◆今日はすごくいい話だった。本当の自分の幸せをこれからも探し続けて行きたいし、地球に生まれて来たすべての人には必ず“幸せ”が存在すると思った。本当にいい授業だった。
◆「幸せシート」を書いてみて、自分が幸せだということがよくわかりました。そのときすごく感動して、うれしく思いました。人にはそれぞれ幸せがあります。それって素晴らしいことなんじゃないかな。


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(4)その他
@ 校長先生と話そう会(10月中旬〜12月)
 進路の最終決定を控えたこの時期、人生の先輩である校長先生と話をして自分の生き方を見つめ直すことは、担任や副担任の進路相談とは違った意味で効果的である。
 各学年1クラスの本校では、小規模校の特性をフルに活用し、10月中旬から12月いっぱいまで放課後を利用し、校長と1対1で対話を行っている。


A 保護者と創る<学級通信> 
 進路学習を進める上で、保護者との情報交換も大切な素地作りの一部である。そこで『ふれあい箱』と称して、毎回保護者からの意見や感想を載せるようにした。道徳や生徒総会への意見、修学旅行の服装や進路の相談事など、様々なふれあいができた。
別紙の学級通信の例は、卒業論文の提出が2分遅れた学生を卒業延期にした岡山大学での対応について取り上げた、道徳の授業に対する保護者の意見である。生徒たちも保護者の意見に触れることで、視野を広げることができたようである。この『ふれあい箱』は、学校と家庭をつなぐ架け橋として不可欠な存在となっている。

別紙5学級通信資料


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3 成果と課題
(1)研究の成果
 3年間を見通した「単元化構想図」の他に、毎月の活動を具体化した「進路学習計画一覧」を作成したことで活動時期が明確になり、実施率が上がった。
 生徒たちの思いをできる限り具現化しようとする、生徒の側に立つ<しなやかな学習活動>を仕組むことで、生徒たちがより生き生きと活動できた。
 保護者を巻き込んだ「学級通信」等におけるふれあいを通して、進路情報を共有化することができた。また、生徒たちも保護者の率直な意見を知ることで、進路を真摯に受け止めることができた。
 卒業生とタイアップさせた活動を仕組むことは、一石二鳥の効果がある。中学生は進路を身近に感じることができ、卒業生も自分の生き方を見つめ直すことで自分の夢を再確認でき、初心に返ることができるからである。 

(2)課題への対応
 進路指導を中学校3年間だけで終わらせることなく、生涯学習の一環として取り組むことがより大切となろう。そのためにも、小学校・高校とも連絡を密にし、より系統的・計画的な進路計画をデザインしていく必要がある。そして、支援してもらった生徒たちが、今度は後輩に教えるという相互扶助的なシステムの構築が求められている。

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【 参考資料 】

進路指導単元化構想図



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3年学活年間指導計画


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道徳指導案


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道徳指導案「風に立つライオン」


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学級通信資料

  


   

   


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