関係機関と連携した教育相談の推進                 〔指導課〕

関係機関と連携した地域特別支援コーディネーターの活動
                            −萩市立明倫小学校−

 1 学校紹介2 地域特別支援教育コーディネーターの役割
   3 関係機関との連携4 関係機関との連携を生かした教育相談
     5 現状と今後の課題

実  践  の  ポ  イ  ン  ト
 特別支援教育関係の事業や相談会、研修会への参加を通して、関係者とのつながりを深めるとともに、専門機関との連携体制を構築する。
 関係機関との連携を活用して、地域特別支援教育コーディネーターとしての活動範囲を広める。
 ネットワークを生かして、連絡調整機能や相談者への情報提供を充実させる。 

1 学校紹介
 本校は藩校明倫館の跡地にあり、成徳達材の学風を受け継いで「伝統と創造」を学校経営の理念としている。「伝統ある明倫館の学風および松陰精神に学び、更に格調高き明倫教育の創造に努め、もって国家社会の形成者となる有能な人間の育成を図る」という教育目標を掲げて、日々の教育活動に当たっている。

 

 児童数は約870人の大規模校であり、学級数は通常の学級24と特殊学級3(知的障害、肢体不自由、情緒障害)、さらに、言語障害通級指導教室(ことばの教室)も設置されている。
 指導体制の面では、1・2年生で担任とアシスタントティーチャーによるTT、3年生以上の算数科で少人数指導、6年生で教科担任制、さらに、児童支援加配の教員によるTTや放課後の個別指導等の工夫を行って個に応じたきめ細かな指導を心がけている。
 また、平成15年度から地域特別支援教育コーディネーターが配置され、特別な教育的支援が必要な児童へ適切な対応をするために、教育相談や研修会、気になる児童の実態調査、ケース会議等を実施して支援体制作りに取り組んでいる。


 TOPへ戻る


2 地域特別支援教育コーディネーターの役割
(1)主な役割
@ 通級指導教室等での児童生徒への指導
A 校内・校外での教育相談
B 担任への助言・資料の提供
C 関係機関との連携:情報交換等
D 校内や地域における研修の推進
E 個別の指導計画等の作成における助言等


 
(2)教育相談活動について
 校内・校外での教育相談活動を以下のような形で行っている。
@ 基本方針 
・特別な教育的支援を必要とする子どもの早期発見、早期対応に努める。
・適切な支援をするために、担任や保護者等に指導助言や情報提供を行う。
A 活動内容
ア 随時教育相談
・相談の上、日時を決定して実施する。
イ 定期教育相談(火・水・木曜日:14:00〜17:00)
・1〜2回/月の頻度で継続して相談を行う。必要に応じて、通級へ切り替える。
ウ ケース会議(学年単位:1回/学期、全校:1回/年、必要に応じて臨時に行う)
・特別な教育的支援が必要な子どもへの対応を検討するために実施する。
エ 校内就学指導委員会の計画、資料作り、進行
・教育相談やケース会議等の情報を生かして、適切な就学指導を行う。
オ 特別支援教育についての研修の推進
・教職員や保護者に、障害等についての理解を促すために、資料提供や研修会の企画を行う。
カ 心理検査の実施
・学習困難や不適応行動の背景となる認知特性等を把握するために実施する。
キ 関係機関との連携
・関係機関や専門家との連携を図り、相談ニーズの拡大や助言内容の充実に努める。

 今年度は、校内への働きかけが十分とはいえなかったのだが、それでも通常の学級の先生方の中に、軽度発達障害や特別支援教育への理解や関心が高まっている。


 TOPへ戻る


3 関係機関との連携
(1)教育相談における関係機関との連携の重要性
 地域特別支援教育コーディネーターは、身近で気軽に相談できる存在であることが大切であるが、配置されて間もないために保護者等にはあまり知られていない。広く存在を知ってもらうためには自主的なPR活動に加えて関係機関による相談者の紹介等の協力が必要となる。
 また、身近な相談相手であるコーディネーターは、それ故に多種多様な相談を受ける立場にある。よって、研修を積み力量を高めなければならないが、それに加えて、高度な専門性を必要とする相談事例の場合は、専門機関に依頼や委託をしたり、コーディネーター自身が情報提供を受けたりすることのできる関係機関とのネットワークが大切になる。


(2)明倫小における専門家との連携
@ スクールカウンセラー・萩市教育相談員との連携
 スクールカウンセラー来校:年間5回。萩市教育相談員来校:毎週月・金曜日。
 これら専門家を有効に活用し、よりよい支援を行うために、教育相談のニーズの開拓(「保護者へのお知らせ」等)や情報交換等を行う。
A 萩養護学校教育相談課との連携
 萩養護学校教育相談課による教育相談及び発達検査を夏季休業中に実施。
 相談希望者の募集や相談日時の連絡調整、会場準備、相談への同席等を行う。

(3)関係機関との連携体制の構築
 様々な事業や相談会、研修会等への参加協力を通じて、関係者とのつながりを深めるとともに関係機関との連携体制を構築している。
@ 事業への協力
・障害のある子どものための教育相談体系化推進事業(文部科学省委嘱事業)
   連絡協議会委員
・萩地区心身障害児総合療育システム会議(萩児童相談所)
   システム会議構成員
・障害者ケアマネジメント推進事業 萩及び長門圏域(長北社会福祉事務所)
   連絡協議会委員
・萩市就学指導委員会(萩市教育委員会)
   就学指導委員
・山口県特別支援教育研究連盟 難聴・言語障害教育部研究委員会
  
 研究委員
A 相談会への協力
・萩広域はばたき相談会(教育相談体系化推進事業連絡協議会・関係各教育委員会)    相談員
・萩地区心身障害児療育相談会(萩児童相談所)
   相談員
・巡回就学相談会(ふれあい教育センター)
  
 相談員
B 研修会への協力
・北浦地区保育・教育・療育研修会(乳幼児発達支援センターふたば園児童部)
   パネラー
・山口県特別支援教育研究連盟 萩支部研修会
   研修会の企画
・山口県特別支援教育研究連盟 難聴・言語障害教育部北部ブロック研修会
   研修会の企画
・萩ことばの教室親の会 研修講演会
   講演会の企画
・萩市小学校教育研究会 特別支援教育部会
   講師
・長門・大津小学校教育研究会 特別支援教育部会
   指導助言者

(4)障害のある子どものための教育相談体系化推進事業への参加
 萩市は平成13・14年度の文部科学省委嘱事業「障害のある子どものための教育相談体系化推進事業」のモデル地域に指定された。平成15年度は、モデル地域の範囲を萩市及び阿武郡(3町、4村)に拡大し、萩教育事務所が中心となって事業を継続している。
 13年度〜15年度に教育相談支援チームが行った会合の回数は、連絡協議会6回、専門部会30回である。
 
  「萩広域はばたき教育相談会」より

 これらの取り組みを通して、関係機関の「人的ネットワーク」が構築され、乳幼児期から成人期に至るまでの一貫したフォローや各専門機関関係者の幅広い見識をもとに適切な情報提供ができるようになったことなどの成果をおさめている。



 
TOPへ戻る


4 関係機関との連携を生かした教育相談
(1)地域の福祉施設との連携
小学校1学年通常の学級担任及び保護者からの相談
「ADHD児への他の保護者の理解について」
 母親の希望により学級懇談会で、自分の子どもがADHDであることを他の保護者に説明することになった。こういった事例を多く知っている専門家からのアドバイスに基づいて、事前に母親・担任・コーディネーターとが話す内容を十分に協議して説明に臨んだ。
(母  親) 本児の弱い部分の説明、保育園で友達とのトラブルがあった経験、小学校でもトラブルを起こす可能性があること。
(コーディネーター) 本児のよい点や能力的に通常の学級での学習が妥当であることの説明。
(学級担任) 情緒が不安定になったときの対応方法や校内の協力体制の説明、他の子どもへの家庭での指導についてのお願い。
その結果、ことばの教室に通級している児童の保護者から共感の声をかけてもらうなど、懇談会に参加した保護者の理解が得られた。小学校入学に当たり、大きな不安を感じていた対象児童の母親も、懇談会後「安心して学校に子どもを送り出せるようになった」と感想を述べられていた。

(2)養護学校との連携
@ 中学校肢体不自由児学級(新設)担任からの相談
「肢体不自由児のプール指導の際の排便への対応について」
 県内の肢体不自由養護学校2校及び知的障害養護学校1校から、各校での対応の仕方やプール指導の際に着用するオムツ等の介護用品とその取扱店の情報を集めて提供した。
A 中学校知的障害学級担任からの相談
「中学校卒業後の進路選択について(各養護学校の特色と就職状況、保護者への対応)」
 相談対象児宅から比較的近距離の知的障害養護学校を含め3校の学校要覧及び高等部への入学案内、進路指導課の資料等を集めて提供した。養護学校からは資料とともに、進学先を決定する際には施設・設備だけでなく本人に適した教育内容であるか、また、通学、寄宿舎への入舎等のそれぞれのメリットを考慮することも重要であるということなど、具体的なアドバイスをいただいた。

(3)医療機関との連携
小学校通常の学級担任及び保護者からの相談
「授業中に居眠りすることが多く、かんしゃくが激しい児童の診断と支援について」
 
担任と母親からの聞き取りや心理検査等の結果、行動観察等から動作性のLDやADHDが疑われたので、基本的な支援方法を助言した。しかし、教員に診断資格はなく、てんかん発作等の可能性もあることから、専門医への受診を勧め、母親も同意された。受診する病院については、専門医をリストアップし、保護者の仕事の都合も考慮してアドバイスした。そして、受診前に担当医と連絡をとり、保護者了解のもと検査結果等の情報を提供した。
 そして、受診前に担当医と連絡をとり、保護者了解のもと検査結果等の情報を提供した。現在は、担当医の所見を参考にして支援方法を助言するなど教育相談を継続している。今後も、専門医には定期的に受診される予定で、その都度情報交換をすることにしている。

 TOPへ戻る


5 現状と今後の課題
◎ 現 状
 地域特別支援教育コーディネーターは、担当授業時数が軽減されているので、関係機関との連携体制構築や教育相談活動に当てる時間を捻出することができた。その結果、昨年度と比べ相談件数が大幅に増加している。

<相談件数等(のべ人数)>              (16年2月末現在)
○ 今後の課題
 上の表には表れていないが、相談申し込み方法には、保護者等からの直接申し込みと学校・園・病院・教育委員会・児童相談所等の関係機関からの紹介や依頼によるものとがある。新規の相談者の場合は、担任からの直接申し込みはあるが、保護者の自主的な申し込みはほとんどない。所属機関や教育委員会、療育・相談・保健機関等の紹介や勧めで連絡されることがほとんどである。
 LD、ADHD、高機能自閉症等通常の学級に在籍している特別な支援を必要としている児童生徒は6.3%いると言われているので、それらの児童生徒に適切な支援をするためには、今後、新規の相談者を積極的に受け入れていく必要がある。しかし、障害が軽度であればあるほど、保護者はそれに気付かなかったり認めたくないと考えたりする場合が多いようである。
 従来の特殊教育の対象者の割合は、約1.5%であるから対象は拡大しているので、教育相談活動は特別支援教育の窓口であり、その理解・啓発を図るためにも非常に大切な役割を担っている。今後より一層、関係機関との連携を深め「積極的な相談活動を行うこと」と「相談への対応を充実させ、利用者の満足度を高めること」ができれば、両者の相乗効果によって、特別支援教育の定着が実現していくと思われる。
● 校長から見た活動のポイント
 関係者との信頼関係に基づいたネットワークを構築する。(人と人とのつながりの重視)
 資料の配布や研修講演会等を通して、特別支援教育の必要性を地域社会に啓発する。
 相談者へ迅速丁寧な対応を行うために、校内の連携・協力体制を整備する。
 地域特別支援教育コーディネーターを校務分掌へ位置付ける。


 TOPへ戻る                実践編へ戻る