道徳教育の充実                                〔指導課〕
夢や希望をもち、よりよく生きる生徒の育成
     〜地域の人材を活用した道徳教育の充実〜     
山口市立宮野中学校−
    1 研究主題について2 研究の概要3 研究実践
    4 成果5 反省点と今後の課題    
実 践 の ポ イ ン ト
 道徳教育における「地域の人材活用」の効果的な在り方。
 家庭や地域の開かれた道徳教育委の推進。
 道徳教育の質的向上を図るための評価の工夫。

1 研究主題について
 将来に対する夢や希望をもち、未来に向けて人生や社会を切り拓いていく実践力のある生徒を育てるには、心に響く道徳教育の充実を図る必要がある。その一つの方策として、地域の人材の積極的活用が考えられる。地域の人生経験豊かな先達や各分野における専門家の協力を得ることで、教師だけではできない効果的な学習活動を工夫することができ、同時に、生徒は多様な生き様や価値観に触れることができるであろう。その中で、生徒は、自己の将来を見つめ、夢や希望を育み、未来に向かってよりよく生きようとする意欲と実践力を培っていくことであろう。


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2 研究の概要
 一年次は、総合単元的な道徳教育への取り組みの中で、地域の人材をいかに効果的に活用するか、その可能性を求めて研究を進めてきた。その結果、地域の人材活用の意義や活用場面、招へいの手順等について明らかにすることができた。特に、地域の人材を活用することで授業が活性化し、生徒・教師ともに新しい刺激を受けた。
 二年次は、校内における道徳教育の充実だけでなく、地域での体験学習や地域の人々を招いての公開授業の実施など、地域にある教育的素材を生かして、地域に開かれた道徳教育を推進してきた。同時に、道徳の時間をはじめ道徳教育の質的向上を図るため、地域の人材を活用した指導過程や指導方法の評価、授業者の自己評価など、評価に関する研究も進めてきた。

家庭や地域に開かれた道徳教育の推進
道徳教育の質的向上を図るための評価の工夫


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3 研究実践
(1)家庭や地域に開かれた道徳教育の推進
@ 地域における体験学習の実施
 宮野をはじめ山口市には、多くの文化施設や観光名所があり、体験活動の場に恵まれている。また、そこには、長年にわたって地域社会を支えてきた大勢の人々が暮らしている。
 本校では、このような地域の教育的素材を生かし、郷土のよさや魅力を発見するために、学習場所を校内から地域へと広げた。主として総合的な学習の時間において、1年生では宮野地区の「ウオーク・ラリー」、2年生では山口市内の「フィールド・ワーク」を実施した。地域の文化や自然、そして地域の人々とのふれあいをとおして、生徒は郷土に対する愛着を感じ始めたようである。
 さらに、1年生では、道徳の時間に地域の映像クリエイターを外部講師として招へいした。生徒が美術の作品で描いた宮野地域の様々な絵をアニメーション映像にした視聴覚教材を用いることにより、体験学習で感じた郷土に対する愛着をより一層深めることができた。

A 道徳教育に関する広報活動の実施
 道徳の時間に学習したことや生徒の感想は、「学年だより」や「学級通信」で各家庭に配布した。また「PTA広報紙」を通じて地域の全家庭に配布し啓発に努めた。

B 道徳教育公開授業の実施
 2年間に渡る本研究の集大成として、本年11月8日(土)、全12学級において、地域の人々をゲストティーチャー(GT)として招き、道徳教育の授業公開を行った。
 参観者への呼びかけは、保護者だけでなく、宮野出張所の市広報配布に合わせ、宮野地区全戸に授業公開の案内(次頁参照)を二度にわたり配布した。
 宮野小学校の教諭をGTとして招いたクラスでは、担任とGTのそれぞれの日本人学校での体験をもとに国際人としての自覚を深めることを目的に授業を行った。かつての担任の登場に、生徒は意表をつかれたようだが、懐かしくもあり嬉しい体験ともなった。
 環境問題から「公徳心」について考えたクラスでは、宮野地区青少年健全育成協議会のGTから「今回の授業を受けて、今後は山口市のゴミ処理の作業現場を見学させ、さらに深く理解してほしい。また機会があれば是非話をしたい」という新たな体験学習のヒントも得た。
 聴覚障害者と手話通訳者を招いたクラスでは、1回限りの授業ではかかわりが深まらないため、障害者理解のねらいを達成するための学級活動の時間を事前に計画してほしかったという示唆もあった。
 バングラディシュからの留学生を招いたクラスでは、国際人としての意識の高揚を目的に授業が行われた。英語を理解するのに難しい面もあったようだが、「他国を理解することはとても意義がある」という参観者の感想があった。
 また、多くのGTからは「授業に参加するのは初めてで緊張した」「また呼んでほしい」「外から見る中学生のイメージと違い、安心した」などの感想があった。

 参観した保護者や地域の人々からは、次のような感想があった。「道徳の授業というと、親の方も構えてしまうが、今回の授業はとても楽しく参観できた」「家庭でも今日のテーマについて話してみたい」「地域の方とのふれあいが日頃浅くなっているし、中学校に来る機会もなかなかないので、このような機会を今後も増やしてほしい」「他のクラスの授業も参観したかった。1時間だけでなく、2時間ぐらいに分けてほしい」「クラスや学年の枠を外し、生徒が自分の呼びたい人を呼んで授業をするのもおもしろいのでは」等、感想のみならず様々な提案もあった。
 道徳の時間の授業公開を通して、地域の人にも宮野中学校の生徒の姿を実際に知ってもらうことができたこと、家庭での話題づくりのきっかけとなったこと、生徒や教師だけでなくGTや参観者にとっても新鮮で魅力ある道徳の時間となったことなど多くの成果を見出すことができた。

 (案内)

(2)道徳による質的向上を図るための評価の工夫
@ 授業者による「自己評価表」の工夫
 授業者が自らの道徳の時間における指導を振り返り、次の実践に向けて改善・向上することを目的に、下記のような授業者自身による自己評価表を工夫した。
 今回の授業公開の後、上記の評価表を用いて、授業者自身による評価を実施した。自己評価であるため授業者により評価点にバラつきはあるが、おおむねよい評価であった。
 評価が低かったのは、ア−@「生徒の直面している悩みや課題」、イ−A「生徒の変容を把握する手だて」であった。今後は、生徒の内面を把握するための手だてを考え、生徒の立場に立った課題を取り上げるとともに、プレテスト、ポストテストを実施するなど生徒の変容を把握するための方法を模索することが課題といえる。
 反対に、評価が高かったのは、オ−B「ゲストティーチャーの人材選定」、エ−B「生き方、考え方に触れる場の工夫」であった。多様な価値観をもつGTのそれぞれのよさが授業の中で十分に生かされたことが成果であるといえよう。

A 「地域の人材リスト」の工夫
 昨年度より、様々な地域の人材を招へいしているが、授業者の個人的なつながりに頼る場合が多かった。しかしながら、授業者に異動などがあると、そこで情報が止まってしまい次年度につなげられないなどの問題点があった。そこで、地域の人材の情報を学校の共有財産とするために「地域の人材活用リスト」を作成することとした。このリストで様々な情報を共有し、活用後の評価も合わせて記録に残すことで、次年度の計画を立てる際の参考とし、より効果的な人選が可能となるであろう。

B 「外部講師の招へいチェックリスト」の工夫
 下記のようなチェックリストを用い、招へいの手順をパターン化した。

C 「授業記録表」の工夫
 本校では、年に3回、校内研修会として、各学年毎に「地域の人材」を活用した授業研究を行った。その授業記録を分析し検討することで、指導技術の向上や授業の改善を図った。その際、より多面的な評価ができるよう下記の記録表を活用し、教師やGT、生徒のそれぞれの言動を記録した。授業を様々な角度から検討し次の指導に生かすことで、人材のより効果的な活用方法が明らかになり、道徳の時間の一層の充実を図ることができた。

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4 成果
 生徒にとって価値ある体験や魅力ある人々との出会いは、心に夢や希望を育み、よりよく生きるための糧となる。
 大学1年生になる本校の卒業生は、農業にかける夢を力強く語り、生徒に自らの将来を考える契機を与えてくれた。生徒は「努力無くして夢を語るな」という先輩のメッセージを深く胸に刻み、自らの将来について主体的に考えるようになった。
 また、「生命の尊重」をテーマに性教育の授業に参画した助産師は、性の知識だけでなく「命を輝かせる生き方とは」という課題を投げかけてくれた。生徒は、今の自分の命は輝いているのだろうかと真剣に考えた。人生を幸せに充ちたものにするために、マイナス思考をプラス思考に変えようと努力する生徒、挨拶やことばを大切にしようと意識し始めた生徒など、幸せな生き方を求めるような意識変化が見られるようになった。
 生徒だけでなく、公開授業で茶道の師範から日々のささやかな思いやりの心を学んだ保護者は、子どもにものを頼むとき「悪いけど」のひと言を添えるように心掛けるようになったと言う。
 教師にとっても、地域の人材の活用は、視野が広がるとともに研修意欲の向上につながった。宮野小学校の教諭とともに授業にのぞんだ本校教諭は、その後、小学校にも外部講師として招かれ授業に参画した。また、小中連携協議会が新規に開催され、小中の情報交換をする場が設定された。授業をきっかけに、小中の連携・協力がより一層図られるようになったことも意義深いことである。
昨年、2年生で「掃除に学ぶ会」の会員を招いて清掃体験活動を実施したが、この体験との出会いも生徒の心にすばらしい種をまいてくれた。23人もの講師を招き、トイレ・教室・手洗い場などを徹底的に磨きあげる実践は昨年の中間報告のとおりである。
この体験で大きな充実感を味わった2年生は、この感動
をいつか下級生にも伝えたいと強く願った。
 本年度直ぐに、3年生で「うちのクラスの自慢は清掃です」と胸を張って言えるクラスが育った。そして、生徒総会では「学校を美しくするにはどうすればよいか」という議題で話し合い、全校生徒が校内美化について意識し始めた。さらに、生徒会執行部と環境委員会が中心となって「校内清掃活動」の企画を立ち上げた。生徒会長は全校生徒に向かい、「僕たちは昨年、『掃除に学ぶ会』の人たちに清掃とは何かを教えてもらって、大きな喜びや充実感を味わいました。その感動を1・2年生にも味わってほしいです。この活動は、先生に頼らないで僕たちだけでやりましょう。1・2年生は、僕たち3年生を見て学んで下さい。そして、心を美しくする喜びをこれからも下級生に伝えていって下さい。宮野中の新しい伝統として受け継いで下さい」と挨拶した。
 その言葉のとおり、「校内清掃活動」は、教員の手をほとんど借りずに生徒自身が企画・運営した。全校生徒の班分け、活動の準備から後片付けまで生徒自身の手でやり遂げた。生徒会執行部、専門委員長をはじめ各清掃班の班長となった3年生は、それぞれリーダー性を発揮し、下級生を指導しながら校内のトイレや水回りを徹底的に磨いた。
 3年生は「自分は役に立たないと思っていたのに役に立てて嬉しい」「1・2年生と交流できてよかった」「来年も続けてほしい」、下級生は「先輩はすごい」「先輩の意志を受け継いで宮野中を美しくしたい」「先輩のおかげで自分が変わった」等の感想を述べた。3年生の思いはこれからも下級生に受け継がれていくことであろう。
 「いつかは全校生徒で清掃に取り組みたい」そんな夢をもち、自然発生的に実現に向けて集団が動き、全校生徒を巻き込み変えていった生徒のパワーには、筆舌に尽くせないほどの感動を覚える。一つの出会いが、ゆっくりではあるが、しかし確実に生徒の意識や日々の生活を変え、実践力となって現れた。心に蒔かれた出会いという種が、芽吹き、花開くには時間こそかかったが、この変化も地域の人の協力があったからこそである。


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5 反省点と今後の課題
 本年度は、家庭や地域に開かれた道徳教育をめざして公開授業等を実施したが、十分に情報公開ができたとは言い難い。情報の発信とともにより多くの情報や意見を収集できるような情報の双方向性を模索する必要がある。まず、学校・家庭・地域が共に協力していこうとする姿勢をもつことが、共通理解や連携を強化する第一歩である。まずは、一人一人の教師が、家庭や地域と学校をつなぐパイプ役としての働きを担う体制をつくることが、連携の強化につながることであろう。
 また、評価については本年度初めて取り組んだ課題であったが、まだまだ研究が不十分である。今後とも研究を深め、計画・実行・評価・改善(P.D.C.A)のサイクルをスパイラルに繰り返すことで、より一層の道徳教育の充実を図っていきたいものである。


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