スクールカウンセラー活用事例                                〔指導課〕
「スクールカウンセラー活用調査研究事業」の実践事例    
山口市立宮野中学校−
1 学校紹介2 学校の現状と課題3 不登校生徒の現状4 不登校生徒への支援5 スクールカウンセラーの活用・具体的な活動内容6 スクールカウンセラーへの相談件数等7 成果と課題    
実 践 の ポ イ ン ト
教育相談担当者は、SCと連絡を密にし、相談活動の計画・立案が、生徒の問題解決のためによりよい有意義な時間になるようこころがける。
生徒にとって「心の居場所」としての学級・学校であるように、人間関係づくりに力を入れる。
SCと生徒・教師の温かいふれあいの時間をできるだけ多くもち、何でも相談できる人間関係を築くことができるように工夫する。

1 学校紹介
 桜ヶ丘に建つ本校は、地名にふさわしく桜の大木に囲まれ、豊かな自然の中にある学校である。生徒数358名、学級数13学級で、生徒は明るく素直で、人なつっこい。「奉仕」「敬愛」「自立」を校訓として、部活動にも熱心に取り組み、運動部・文化部ともに数々の優秀な成績を収めている。
 本地区は、山口盆地の北部に位置し、東西約6km、南北約9.6kmで旧宮野村が昭和16年に合併して山口市の一部となった。豊かな自然に囲まれた緑あふれる美しい地域で、現在都市近郊の住宅地域として、急速に人口が増加する傾向にある。また、地区としてのまとまりがよく、学校行事や諸活動に対しても積極的、協力的である。

 TOPへ戻る


2 学校の現状と課題
 先年来からのいわゆる「学校の荒れ」のなかで、「あたりまえのことがあたりまえにできる学校」をスローガンに、地道な個別指導、生徒指導主任を核とした組織的な生徒指導体制の構築、スクールカウンセラー(以下SC)との連携、PTAとの連携など教職員が保護者と共に一体となった指導に努めたことから、反社会的問題行動は激減し、正常な学校運営が行えるようになった。
 しかしながら、非社会的問題を抱える生徒は多く、顕在化してはいないものの精神的なもろさを感じる。さらに、自己中心的な言動も見られ、集団になじめず自分の世界に閉じこもる傾向の生徒、円滑な人間関係を結ぶことが苦手な生徒が増加する傾向にあることなどから、依然として不登校生徒が絶えない。
 不登校生徒及び不登校傾向の生徒への対応が直面する課題である。

  TOPへ戻る


3 不登校生徒の現状
 いわゆる「学校の荒れ」のなかで、いじめや暴力行為が校内で蔓延したことなどによって、学校が生徒にとって安心して通える場でなかったことなどから、平成13年度は全国平均に倍する4.38%、実数では17名の不登校生徒があった。
 昨年度は、これまでの支援の結果、不登校生徒は8名、2.18%と全国平均を下回るレベルまで回復した。
 本年度は、12月末現在で不登校及び不登校傾向を示す生徒は8名、2.2%である。
  TOPへ戻る


4 不登校生徒への支援
 不登校・不登校傾向の生徒は現時点では8名であるが、よりきめ細かな対応を図ると共に、医療の専門家とのケース会議など、具体的な支援を中心に取り組む。
 SCとの連携を図りながら、生徒が抱えている悩みやストレスなどに早期に対応すること、教職員の生徒理解や学級経営への技量を高めること、地域・保護者との連携を踏まえた諸活動に積極的に取り組むことなどを通して、学校・家庭・地域社会がそれぞれの責任を果たしながら生徒の自立を支援できる体制を整える。
 また、教育相談の取組みを通して、すべての教職員がすべての生徒の支援にかかわる雰囲気の醸成と、生徒と教職員の間に温かい信頼関係をより一層構築する。

  TOPへ戻る


5 スクールカウンセラーの活用・具体的な活動内容
(1)生徒への支援
@1年生全員を対象としたSCによる教育相談
 新しい中学校生活の中での、人間関係や学習面などの不安を解消し、今後の教育相談活動をスムーズに行うため、1年生全員を対象にSCとのふれあいに焦点を当てた教育相談を計画的に実施している。
対象   1年生全員
実施日   火曜日(SC1)3名 、金曜日(SC2)2名 ( 週合計5名程度 )
時間 1人当たり約10分
場所    教育相談室
実施方法
 相談日・相談時間を出席番号順に割り当て、週当たり5名程度、一人当たり約10分間の教育相談を実施している。割当や連絡は教育相談部で行い、基本的には相談の前日までに学級担任から生徒に予約票(下図参照)を配布し、調整・連絡を行う。生徒とSCとのふれあいの機会と捉え、まず、信頼関係を結ぶことを主眼としている。このことによって、生徒が悩みやストレスを感じた時には、気軽にカウンセリングを受けることができるよう配慮した。
<生徒に事前に配布する
予約表の例>
<教育相談室での
相談の様子>
<教育相談室>
A 教師と生徒のふれあいを大切にした定期教育相談
 定期教育相談を毎学期に実施。各学期ごとに5〜6日程度を年度当初に予め指導計画に位置付け、 年間行事予定表にも組み込んでいる。2学期には学級担任も含めてSCや全教師のうち誰とでも生 徒が希望する教師と相談できるよう配慮している。
 定期教育相談を、生徒が自ら問題解決に向かう援助と位置付けるとともに、教師が生徒とふれあ うことで信頼関係を深めていく機会と捉えて取り組んでいる。
1学期(6月下旬5日間) 全校生徒を対象に学級担任による個別相談
2学期(11月上旬6日間)1.2年生は事前にアンケートをとり、生徒が希望する教師との個別相談
 3年生は進路決定時期なので学級担任による個別相談
3学期(2月予定) 全校生徒を対象に学級担任による個別相談
B 悩みを抱えた生徒が自ら希望するカウンセリング
 生徒が抱えている悩みやストレスを早期に発見し解決に向けて支援するために、SCとのカウンセリングを推奨している。相談を予約する方法は、直接カウンセラーに予約する、教育相談担当に予約する、教育相談ポストを利用するなどから選択する。相談時間は原則として1時間程度であるが、内容の深刻さ、緊急な場合にはその限りではない。
C 教育相談室登校の生徒へのカウンセリングと教室復帰への支援
 教育相談室登校の生徒へカウンセリングを実施するとともに、全校集会や授業へSCが一緒に行くなど行動を共にすることで、SCとよりよい人間関係を築きながら教室復帰へ向け支援している。
 生徒にとって、教育相談室が自分の居場所“心のよりどころ”となって、そこから教室復帰の準備をすることができるよう配慮している。
 また、そのことを通して、学級担任・養護教諭等、当該生徒にかかわる教師が、生徒への対応のノウハウなどについて、SCから助言を得る機会ともなっている。
 現在、1名の生徒が、ほぼ教室復帰できるようになってきた。

(2) 保護者への支援
@ 保護者対象の「教育講演会」の開催
 SCによる「思春期の子どもをもつ親のために」と題する講話会を保護者を対象に実施する。(3学期)
A 「スクールカウンセラーを囲む会」の開催
 悩みを抱える保護者への支援や、保護者同士が情報交換することを通して、共通の悩みをもつ親同士が人間関係を深め合いながら、悩みをもつ保護者の心の支えになることを目的として実施している。対象は中学校の保護者に限らず、小学校の保護者全員にも案内している。SCを囲み自由な雰囲気の中でいろいろな悩みを相談し合える場になるよう、茶話会形式とし、中学校を会場に実施している。
B 「教育相談だより“輝き”」の発行
 教育相談だより“輝き”を月1回発行し、当該月のSCの来校日、相談可能時間帯、直通電話の案内など啓発に努めている。
C 保護者へのカウンセリング
 不登校生徒をもつ母親の心が、SCとのカウンセリングを通して軽くなり、気持ちの揺れが少なくなることによって、子どもに好影響を与える例が多い。このことから、保護者、特に母親へのカウンセリングを奨励している。

(3) 教師への支援
@ 学級での人間関係づくりを目的としたグループエンカウンターの取組み
 生徒の悩みの多くは、学級や部活動での人間関係に起因している。そこで、学級が形成される早い時期に、SCに授業づくりに参加してもらい、人間関係づくりをねらったグループエンカウンターに取り組んでいる。
 また、近年では、温かい学級集団づくりのための新しい手法の一つとして、山口県が独自に開発した体験学習プログラムAFPY(Adventure Friendship Program in Yamaguchi)も積極的に取り入れている。
総合的な学習の時間におけるグループエンカウンターの実施
 総合的な学習の時間に、3年生全クラスを対象に、SCを講師としてグループエンカウンターの授業を計4回実施した。
ア 活動内容
〈第1回〉「ボディワーク」
 ブラインドウォークや、自己紹介など、新しい出会いのグループづくりを中心に実施。
 次回以降、このグループが活動の基本となる。
〈第2回〉「生と死」(あと1年しか生きられないとしたら)
 「死」について考えることで「生」について深く考える時間をもつことをねらいとして実施。
〈第3回〉「アイデンティティ」(わたしは・・・です。)
 今の自分の状態を知ることをねらいとして実施。
〈第4回〉「フォーカシング」(心の中を整理する〜クリアリングスペース〜)
 自分の気になっていることを上手に整理し、自分でもできる心の落ち着かせ方を体験する。
イ 生徒の感想
自分の足りないところが分かった気がする。
全体を通して、「自分」というものについてよく考えることができたと思う。中学校時期の「自分」を振り返ってみて、いろいろな新しい発見もあった。今回の授業は私にとって、とても意味のあるものだった。
自分のことを時間をかけて振り返ってみることができて、案外よかった。
ウ 考察
  生徒は、おおむね肯定的に受けとめてくれていた。今回の授業の目的をよくつかみ、自分自身の心の動きに目を向けることができた生徒も多かった。
A 教職員の資質・カウンセリング技能向上のための校内研修会
 教師によるカウンセリングが、生徒同士の人間関係づくりの向上につながるようSCからカウンセリング技術等を積極的に学び、指導力の向上を図ることをねらいとしている。
日時  8月20日(金)11:00〜12:30
講師  スクールカウンセラー
対象  全教職員
場所  図書室
研修課題 「解決志向アプローチについて」
      −ソリューション・フォーカスト・アプローチの講義と演習−
 今回の研修について、参加した教職員の感想である。「講話と実践をまじえての講座でとてもわかりやすかった。」「カウンセリングの手法もどんどん進化していると思われるので学期に1回(最低)は実施したほうがよい。」「どれも有益だった。具体的な話で分かりやすくたいへん参考になった。これからも生徒理解に役立つような手法や手だてを、教えてほしい。」
B 不登校生徒に対応する教職員へのコンサルテーション
 いわゆる「ひきこもり」の生徒など、学級担任が家庭訪問しても会うことができないケースが増えているが、例え、直接合って話すことができなくても、定期的に家庭訪問し、保護者との連携に努めることなど、関係を“つなぎ”続けることが大切である。SCから学級担任が助言をもらうことによって、学級担任自身が自信と余裕をもって対応することができる。
「不登校児童生徒支援事業」の活用
 平成16年度に立ち上げられた「学習支援員派遣事業」を活用し、7月下旬から取り組んでいる。この事業は、不登校児童生徒の将来の社会的自立に向け、児童生徒との信頼関係を基盤とし、学習支援等のきめ細やかな対応により、学習意欲の向上や学校復帰等のきっかけづくりなど、一人一人の状況に応じた支援を行うことを目的として学習支援員を派遣するというものである。週1回2時間程度、不登校生徒の家庭を訪問してもらっている。この事業の活用についてSCの相談・助言を得た。この結果、当該生徒は学校復帰に向けて明らかに意欲を示すようになった。

 TOPへ戻る


6 スクールカウンセラーへの相談件数等(H16.4月〜11月)
相談件数(A+B+C) 解消件数
(A)
好転件数
(B)
継続件数
(C)
生 徒 保護者 教 員  計 
いじめ
暴 力
不登校 20 10 36 26
友人関係
学習・進路 74 74 74
家庭問題 15 15
性 格
その他

 TOPへ戻る


7 成果と課題
○成果
1年生全員を対象としたカウンセリングを実施したことで、その後、悩みやストレスを抱えた1年生が相談室を訪れ、気軽に相談の予約を入れるようになった。
教育相談室登校の生徒は、SCのカウンセリングを受ける毎に明るくなり、少しずつ自分を表現できるように成長してきた。自分の好きな勉強をしながら、周囲の教師とのコミュニケーションをとり、人間関係を築き始め、自分の活動範囲も広げることができるようになった。さらに、3学期から教室で授業を受けられるようになってきた。
「学習支援員」の派遣を受けている生徒は、テスト期間中に限り登校し、(特別教室に1人の状態で)テストを受けることが可能となった。まだ級友とは会えないが、質問に巡回する教師とは会話ができるようになった。
不登校生徒をもつ保護者へのカウンセリングを実施したことで、保護者、特に母親の心の安定が図られ、母子関係が好転するなどの効果があった。
教職員対象の研修会により、教師のカウンセリング知識と技能を向上させることができ、定期教育相談や日々のカウンセリングにも役立てることができた。
○課題
 不登校生徒の内数名が、学校復帰に向けて状況が好転するなど、氷が解けるように少しずつ成果が上がってきている。これからの課題として、SCの助言を得ながらさらに、小学校との連携を深め、交流の機会を多くもち、不登校の未然防止と不登校生徒の学校復帰のための取組みを続けていきたい。また、SCの相談活動を今以上に活性化するために、保護者、生徒、教職員への啓発をより一層図りたい。

 TOPへ戻る                  実践編へ戻る