食に関する指導の推進                     〔保健体育課〕

食に関する指導をとおして育てる大田小の子どもの心と体           
−美東町立大田小学校−

  1 学校紹介2 研究の実際@健康教育推進イメージ図の作成
  A すくすくコミュニケーションB 授業実践C 保護者・地域との連携
  3 成果と課題

実  践  の  ポ  イ  ン  ト
 健康教育推進イメージ図の作成。
 心と体の健康相談「すくすくコミュニケーション」「お楽しみすくすくコミュニケーション。
 学級活動、総合的な学習などで取り組む健康教育。
 保護者や地域との連携。

1 学校紹介
@校区の概要
 
大田小学校は山口県のほぼ中央部に位置し、日本一のカルスト台地・秋吉台をはじめとする自然に恵まれた美東町の中心部を校区としている。全校児童128名、学級数7学級、家庭数90戸という小規模校である。
校区内には金麗社をはじめとする大田・絵堂の戦いの史跡や、奈良の大仏の原料を産出した長登銅山遺跡がある。近年、美東町は、明治維新発祥の地、また奈良の大仏様のふるさととして全国的な注目を集めている。
 

A本校の教育計画と研修課題
 本校では、「人間性豊かでたくましい実践力と思いやりの心をもち、社会の変化に主体的に対応できる児童の育成」という学校教育目標のもと、「よさを育む学校」をめざしてる。また、めざす児童像の一つとして「自分から体力づくりにはげむ子」をかかげ、長年にわたる健康教育への重点的な取り組みは、本校教育の大きな特徴となっている。とくに平成14年度からは、「食に関する指導」を健康教育推進のキーワードとして教育活動に取り組んでいるところである。
 本校では、「広げよう学びを、みつけよう自分・友達・学校・大田のよさ −自ら生き方を問い続ける子どもの育成をめざして−」という研究主題を設定している。そして、研究をより深めていくための試みとして、2つの部会にわかれて校内研修をすすめている。
 第1研究部会においては、ティームティーチングや少人数指導を中心とした基礎・基本の定着のための指導方法についての研究と実践を行っている。
 第2研究部会は、本校の健康教育目標「自分の心と体を見つめ、健康でよりよく生きる児童の育成」を具現化するために「食に関する指導をとおして育てる大田小の子どもの心と体」という研究テーマのもと、自らの生活を振り返り、健康の保持増進にむけて自分の生活をよりよくしようとする児童の育成をめざして研究と実践を行っている。



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2 研究の実際 @健康教育推進イメージ図の作成
 第2部会では、研究に先だって、文部科学省よりだされているパンフレット「学校教育活動全体で取り組む食に関する指導」を参考にしながら、これまでの本校の健康教育の取り組みを検証してみることにした。
 下の図は、平成14年度始めに作成した健康教育実践のためのイメージ図である。
 内容が8項目にわかれているが、それぞれの項目について、今までの本校での実践をあてはめたり、教科・行事等の年間指導計画とつきあわせたりしながら、また、総合的な学習の単元のアイディアを盛り込みながら作成したものである。こうして整理してみると、「食生活・栄養と健康」と「心の健康・自然体験・仲間との交流・心のふれあい」の2項目についての実践事例が多く、これまでの本校の健康教育はこの2項目を柱として推進されてきていることがよくわかった。
 反対に項目によっては実践が不十分なところもあり、「よりバランスを考えながら健康教育を推進しなければならない。」という意見もあったが、「食生活・栄養と健康」の項目を本校健康教育推進の柱とするという考えに立ち、研究を進めていくことになった。

 


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A すくすくコミュニケーション
 本校では、「全職員が全児童と個別やグループで話し合う機会をもつことにより、豊かな人間関係を培うとともに、児童一人ひとりの悩みや不安を知り相談に応じる」という考えから、定期的に教育相談を実施している。中でも年2回、全校児童を対象として行う心と体の健康相談は「すくすくコミュニケーション」というネーミングで本校健康教育推進の核となる取り組みである。

ア 健康すくすくコミュニケーション
 

 ここに紹介しているのは、「健康すくすくコミュニケーション」で使用する給食個人カルテとすくすくカルテである。給食個人カルテは年度当初、保護者に記入してもらい、「食に関する指導」のための資料として活用している。またすくすくカルテは、「すくすくコミュニケーション」の事前アンケートとして児童に記入させているものである。「健康すくすくコミュニケーション」はこれらの「給食個人カルテ」や「すくすくカルテ」をもとに基本的な生活習慣、とくに食習慣や生活リズムに焦点化した開発的教育相談として行っている。相談には、担任以外の教職員があたるようにしているが、「食生活は健康を保持増進するうえでの基礎基本である」との考えから、カルテから食習慣や生活リズムの改善に特に支援を要すると思われる児童は、学校栄養士や養護教諭が担当できるように配慮している。
 左側が「給食個人カルテ」である。入学時に保護者に記入してもらい給食指導に役立てる。学年が上がると4月に家庭に持ち帰らせて代わったことがあれば追加記入してもらう。食物のアレルギーがある児童には、その食材を事前に取り除くなどの個に応じた配慮をしている。またこの給食個人カルテは、家庭訪問や学期末懇談での資料としてつかい、「食に関する指導」について保護者と連携を深めるための大切な資料である。特に、偏食をどのような方法で、どの程度、是正していくかということについては、学校と保護者の話し合いがとても大切だと考えている。
 ここで例にあげているカルテの児童は、魚類と野菜類が特に苦手である。給食時間が終わっても、残さず最後まで食べようと努力しているが、なかなか食べられない。給食が時間通りに食べ終われないため、昼休みに友だちと過ごす時間が短くなりるなどの弊害も生じている。このような実例は、学校保健委員会で紹介して、食習慣と学校生活全体のかかわりについて保護者の啓発をはかるようにしている。
 「すくすくカルテ」には1〜3年生用と4〜6年生用があるが、ここに紹介しているのは4〜6年生用である。このカルテをもとに教職員と1対1で話し合いをする。生活について、体について、心についてそれぞれの項目について、少しくわしく聞いていく。
例えば
・朝起きて家を出るまでに、ゆっくり朝食をとってトイレに行く時間があるか。
・友だちとどんな遊びをするか。
・今日の朝ご飯は何を食べたか。
・嫌いな食べ物でも食べることができるか。
・学校でどんなことが楽しいか。友だちと仲良くしているか。
などである。
 朝食のようすがよくわかるので、あまり食べてない児童には、健康のために、また生活リズムを整えるために、朝食をとるように話す。学校生活や友だちのことで気になることがあれば、必ず担任に報告する。
 「元気な体になるためにがんばること」「元気な心になるためにがんばること」は話をした後で児童が考えて書く。
 「体の健康」「心の健康」についての児童の目標には次のようなものが多くみられる。
・好き嫌いをしない。
・野菜をたくさん食べる。
・外で遊ぶ。
・一輪車をがんばる。
・あいさつをよくする。
・ともだちを仲良くする。
 児童によっては、目標が書けない児童もいるので、無理矢理に書かせることはしてないが、そのような児童には、普段の学校生活の中で意識的に声かけをするように努めている。
 例にあげている児童は、病気のため自己管理をしている児童のものである。「あんこ」が好きだけど、病気のために多く食べられないことや、「学校が楽しい」ということを話してくれた。家では、お母さんとの会話が多いことなど、家庭での生活のようすを会話の中から感じとることもできた。
 「先生から」の欄には、話したことの中から、児童のいいところを見つけて書くようにしている。

イ「お楽しみすくすくコミュニケーション」
 
 「健康すくすくコミュニケーション」が主に「体の健康」を目的にしているのに対して「お楽しみすくすくコミュニケーション」は「心の健康」をその大きな目的としている。
 具体的には次のような手順で行っている。
 まず、教職員が60分程度の活動テーマを設定し、児童に示す。この表は昨年度の活動テーマの一覧表である。児童は、この中から自分が気に入った活動テーマを選択する。選択の理由は様々であるが、人数の偏りがあっても調整は一切しないようにしている。個人カードをもって活動に参加する。
 この写真は前年度の活動の様子を紹介している。一見同好の志が集まったクラブ活動のようにみえるかもしれないが、全校児童が参加し、活動の中で子ども同士の、または子どもと教職員の会話、つまりコミュニケーションがたくさん成立している。その中から互いのよさを発見したり、子どものちょっとしたつぶやきの中から本音を探ったりするという作業療法のよさを取り入れた取り組みである。
 活動の記録の様子や個人カードは児童理解のための資料として校内研修で取り上げ、担当者だけでなく教職員全員が児童一人ひとりのよさや思い、願いを把握できるようにしている。
 この「お楽しみすくすくコミュニケーション」は「教職員全員で全校児童をみつめる」という理想を具体化した活動であると考えている。


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B 授業実践
ア 1年生の学級活動「今日の元気はうんちでわかる」
 1年生の1学期に健康教育の基礎になるものをどうぶつけるか、題材として何が適当かということで部会で大いに議論した。
 題材設定の視点として考えたのは、第1に、児童の興味関心が授業時間のみならず、その後の生活に置いても継続するものでありたいこと。2番目として、体験または体感することによって学びを深めていくことができるものでありたいということであった。
 その結果、この時期の児童は「うんち」を自分の分身としてとらえるなど、大変好きな話題であるということ、また、だれもが毎日経験していて自分の目で観察できること、「うんち」と「食」は切っても切り離せない関係にあるなどの理由からこの単元を設定することになった。
 授業の流れに沿って紹介する。
 
 この写真は、電子紙芝居の手法で子どもたちに「絵本」を示しているところである。多少の笑い声もでたが、子どもたちは興味津々でスクリーンを見つめていた。
自分の便を書く活動では、事前のはたらきかけもあってか予想以上にたくさんの「うんち」がでてきた。
 「うんち」の種類分けと食事との関係を予想する活動では、「博士」として栄養士が加わって、クイズ形式で学習を進めた。

 
 最後の「感想を書く活動」については、授業後の研究協議において「1年生の1学期の段階では、時間的な制約もあるので、書くよりもたくさん話させることのほうが有効なのではないか」という意見が出され議論したが、健康教育の第一歩として1年生にぶつける題材として、「うんち」は適当であったろうという結論にいたった。
 授業後の児童は、朝の健康観察で、自分の健康状態について、食事や便のことを含めてくわしく説明する児童がふえたり、また給食の時間には偏食をなくそうと努力する姿がみられるようになったりしてきた。
 学期末の保護者会では、この授業について話題として取り上げるなど、学習の成果が家庭生活においても生かされるように、保護者への啓発も行った。

イ 5年生総合的な学習「米作り体験を生かして」
 本校の5年生は、ここ数年来、社会科の発展学習として、また総合的な学習の一環として、地域の水田で米作り体験をしている。米作り体験は年間を通しての活動であるが、その体験を生かした小単元を設定する形で総合的な学習を進めている。昨年度はその中で「おいしいおにぎりをつくろう」という小単元を設定した。
 この単元では、「おいしさ」についてある程度客観的に、自分の体や健康との関わりに注目しながら説明できる表現力を児童に身につけさせることを単元目標の中心にすえることにした。
目標達成のためには、自己評価、相互評価をとおしての学び合いが不可欠である。「学び合い」にもいろいろあるのですが、それが成立するためには、個々が別々の課題追求をするよりも学級全体で共通の課題を設定する方がよいと考えた。そこで、「おいしいご飯の炊き方」について調べることを中心とした単元の構想を考えた。
 単元の流れに沿って紹介する。
 授業では自分たちで収穫した米を使って学習を進めていくのが理想的だが、十分な量が確保できないので、それと同品種の地元でできた米を使っている。
  
 この写真は導入の段階で、玄米飯、なかごめ飯、かた飯、普通飯をそれぞれの食品成分表と見比べながら、どれが一番おいしいか試食しているところである。それぞれのおいしさの理由の中に、炊くときの水の量についての気づきはたくさんでてくるが、栄養分についての気づきはほとんどでてこない。この段階では、「おいしいこと」と「健康」は子どもたちの意識の中では結びついていないように思われた。

 
 そこで、栄養士が食べ物博士として登場する。掛け図を用いて、ご飯の「炊き方」と「おいしさ」、「炊き方」と「栄養分」の関係について説明をした。また、同じ米であっても、「炊き方」によっては、人の健康を害することがあることも説明に加えた。ここで、栄養士が専門的な見地から説明を加えることで、「炊き方」を調べる意欲が大いに高まったと考えられる。
その後、「家族の人においしいご飯を食べてもらおう」という活動目標を設定し、グループに分かれてのご飯の「炊き方」の研究がスタートした。
 家庭での聞き取りを中心に研究を進めるグループ、インターネットや書物を活用するグループ、栄養士に繰り返し質問しながら考えを深めていくグループなど、それぞれの方法で学習が進んだ。
 単元の最終段階では、自分たちの研究したもっともおいしいご飯の炊き方を保護者にプレゼンテーションし、試食をしてもらった。
 このプレゼンテーションの中に、
・水に長く浸しておいた方が、柔らかく胃にやさしいご飯を炊くことができる。
・玄米は、栄養分はおおいが少し堅く感じるので、白米と混ぜるのがよい。
など、健康とのかかわりへの気づきが多くみられたことは、この単元の大きな成果だった思う。
また、「米作り」という長期間にわたる体験学習から生じた課題を小単元として再構成することは、児童の学習意欲継続のためにはとてもよい方法だと考えている。


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C 保護者・地域との連携
 

ア 給食参観日
 本校では保護者を対象にした給食参観日を年2回実施しており毎回20名以上の参加者がある。給食時間の児童のようすを参観していただき、その後給食主任や栄養士が学校での「食に関する指導」への取り組みについて説明している。給食を試食しながらの話し合いの中から、「食」に対する保護者の意識、各家庭の食習慣、またその全体的な傾向をつかむことができる。
 健康すくすくコミュニケーションの成果を盛り込みながら、「良好な食習慣の定着が健康の基礎基本であること、またそれがよりよい生活習慣の定着や心の健康と大きく関わっていること」などについて学校が情報提供したり、意見交換をしたりして、とても有意義な取り組みとなっている。

イ心と体の健康チェック
 「心と体の健康チェック」は、全校児童に対して年2回実施しているアンケート調査である。PTAとの連携によりここ数年継続している取り組みである。その集計結果は、学校保健委員会や学校だより、PTA広報でとりあげるなど、学校のみならず家庭・地域の健康意識啓発に重要な役割を果たしている。
 とくに、この調査から明らかになった各家庭の朝食の実態に一石を投じるために、朝食料理の研修を学校保健委員会でとりあげたり、また教育相談の資料として役立てたりして、このアンケート調査が、健康教育推進のための相乗効果をもたらしている。

ウ 地域の食生活改善推進委員会との交流
 
 食生活改善推進委員会の方々をゲストティーチャーとして招いて行う料理教室も、ここ数年に渡って継続している取り組みである。
 この料理教室では、「自分達の食生活を振り返る」という視点から多くの資料提供をいただき、また児童の願いに応じた学習活動を設定するようにしている。主に6年生を対象に取り組んでいるが、毎年、「室町時代の料理に挑戦」や「肉料理と魚料理をくらべて」、「高タンパク低カロリーって何?」などのテーマを設定して取り組んでいる。
 ゲストティーチャーを招いての活動は、ややもすれば、児童が受け身一方になってしまいがちだが、児童が発した疑問や課題に基づいて活動の場を設定するとより大きな教育成果が得られると考えている。



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3 成果と課題
@総合的な学習に健康教育をどう位置づけるか
 健康教育推進にあたって総合的な学習は大変大きな役割を果たすであろうと考える。本校の総合的な学習の計画は、その約半分の授業時数を学校の計画として設定しているが、残り半分は児童の実態や興味・関心に基づいてその学年の裁量で設定することとしている。
 学校の特色として総合的な学習計画の中に健康教育を盛り込むためにはよりたくさんの実践を重ね、どの発達段階でどの教材を扱うのが効果的なのかを検証していく必要があると思う。そのような検証を重ねたうえで、本校教育の基調としての健康教育を総合的な学習の計画の中に明確に位置づけたいと考えている。
 そのためにも、更に多くの総合的な学習での健康教育を実践を重ねていきたいと考える。

A生涯教育の基礎としての健康教育
 先に紹介した生活リズム調査「心と体の健康チェック」は、一回一回の取り組みはささやかであっても繰り返し継続し、家族ぐるみで健康について考える場を設定していくことで、地域ぐるみで健康の価値に気づく取り組みへと発展してきた。
 健康は生きていくうえでかけがえのない財産である。人は健康であればあるほどそのことに気付きにくいのだが、いつかはだれも直面する課題がこの「健康」であると思う。
 これまで私たちが研究・実践してきた健康教育への取り組みはとても未熟でささやかなものかもしれないが、ここでの研究・実践が子どもたち一人ひとりの将来の生きてはたらく力に結びつくには、更なる継続が必要といえるであろう。健康教育は学校教育をもって終結するものではない。私たちの日々の研究・実践が生涯教育の基礎となることを願いながら、引き続き研究課題に迫りたいと考えている。


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