特別支援教育推進体制モデル事業の実践                (指導課)

特別支援教育推進体制モデル事業の実践

 −萩市立大井小学校−

1 学校紹介2 具体的な活動内容3 成果と課題4 実践に当たってのポイント 

実  践  の  ポ  イ  ン  ト

校内委員会や児童理解の場をできるだけ設けること
情報を共有すること


1 学校紹介

 萩市立大井小学校(児童数122名)は、萩市の中心街から北東へ約12キロメートルの位置にある。校区の中央を大井川が流れ、自然に恵まれた環境の中で子どもたちは生活している。
 本校は、平成16年度に初めて特殊学級が開設され、現在、情緒障害のある児童が2名在籍している。そのため、通常の学級の児童との交流を通して、児童相互の理解や温かな仲間づくりへの意識が少しずつ高まってきている。また、本校は、通常の学級にも特別な教育的支援の必要な児童が数名在籍しており、特別支援教育に対する教職員の意識も大変高い。すべての子どもたちが周囲から受け入れられ、適切な支援が行われることにより、自立や社会参加に向けて順調に成長していけるような体制づくりを進め、また、自己肯定感をもつ子どもの育成を目指すと共に、温かな仲間づくりを推進していくことを目指して、特別支援教育にも力を入れているところである。


(秋の遠足)


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2 具体的な活動内容

(1)校内支援委員会の設置

 校内委員会は、軽度発達障害等を含め特別な教育的支援の必要な子どもの実態を把握し、支援方法や校内支援体制等を検討しながら適切な支援を進めることを目的として設置している。本校では、校内委員会を『校内支援委員会』という名称でよび、次のような役割を担っている。

1 従来の生徒指導部会や就学指導委員会の果たしていた役割を統合して機能する。
2 早期に特別な教育的支援を必要とする子どもに気付く。
3 校内での実態把握を行い、学級担任の指導への支援方策を具体化し協力体制を整える。
4 特別な教育的支援を必要とする子どもへの支援計画を作成し、支援について全教職員で共通理解を図る。
5 保護者や関係機関(地域特別支援教育コーディネーター・巡回相談員・専門家チーム等)との連携を図る。
6 校内研修で特別支援教育に対する理解を深める。

 本校での特別支援の流れについてまとめると、次のようになる。

(2)校内委員会実施状況

 通常の学級に在籍する子どもたちを含むすべての子どもたちの状況を早期に把握し、特別な教育的支援が必要な子どもへの手だてを講じるために、定期的または臨時に校内支援委員会を開催した。会の開催・運営及び校内支援体制づくりに当たっては、特別支援教育コーディネーターが中心的役割を担い、関係機関との連絡調整も行った。
 平成16年度の校内支援委員会は、定例の職員会議や研修職員会議の中に位置付け、年間約15回実施し、約20名の子どもについて実態の報告をしたり、支援の在り方について全教職員で協議したりした。そのうち通常の学級に在籍している3名については、専門家による教育相談(発達検査)を実施し、具体的な支援方法を保護者と共に考えた。
 また、公開授業を通して、学級の中での配慮の必要な児童の様子を観察したり担任の具体的な支援の在り方について協議したりすることも試みた。右の写真は、第2学年の授業風景である。
 校内支援委員会での協議を中核としながら他との連携を図っていく様子の一部をまとめると次のようになる。

(第2学年 研究授業)

(3)校内特別支援教育コーディネーターの活動状況

 特別支援教育コーディネーターは、2ー(2)で述べたように、軽度発達障害等を含め特別な教育的支援の必要な子どもの実態を把握し、保護者や関係機関とも連携しながらよりよい支援が進められるようにするためのサポーター役として活動している。また、校内研修の時間を意図的に設けて、全教職員が特別支援教育に対する理解を深めることができるような計画を立てたりしている。
@ 特別支援教育に関する基礎研修等の場の設定
 校内特別支援体制の構築(システムづくり)や軽度発達障害についての基礎知識・子どもの実態把握の方法・支援方法等、特別支援教育にかかわる研修の場を平成16年度は、年間12回程度設定し、全教職員で研修した。その際、萩市立大井中学校や萩市立明倫小学校との合同研修会も行い、研修の機会を広げることに努めた。 また、センター校である萩養護学校による『特別支援教育コーディネーター研修会』に参加し、研修したことを教職員に復伝し、特別支援教育に対する理解が深まるように心がけた。 
A 地域特別支援教育コーディネーターや関係機関との連携
 関係機関(地域特別支援教育コーディネーター・巡回相談員・専門家チーム等)との連携を図ることは、特別支援教育の構築において大変重要である。そこで、まずは、子どもの実態をよく知っておられる方(機関)や、身近な立場でサポートしていただける方(機関)との連絡調整からスタートした。具体的なかかわりについては、2−(2)参照のこと。

B 保護者との連携
 情報の共有を通して子どものよりよい支援を目指したいという立場から、保護者と気軽に懇談をしたり連絡帳や電話等を利用したりして、意志の疎通に努めてきた。その結果、学校と家庭のよい関係を保ち、互いの願いや試みを共通理解しながら子どもに接することができた。また、様々な教育相談機関を紹介したり、通院先での子どもの様子を保護者と一緒に見学したりするなど幅広いかかわり方もできた。個別の教育支援計画の作成についても段階的に保護者と共に作成できるように工夫していきたい。さらに、本年度は、来年度入学予定の保育園年長児2名の保護者が、本校低学年で行われている特別支援教育への取組みの様子を参観する機会を2回設けることができた。保護者のニーズにこたえ、学校側の意図も伝えることができ、有効な機会提供となった。


(地域の方との交流学習)


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3 成果と課題

(1)成果として

 平成16年度、萩地域が文部科学省委嘱事業『特別支援教育推進体制モデル事業』の推進地域の指定を受けたことを機に、本校では、画一的な教育を見直し、一人ひとりの子どもや個を取り巻く学級集団の実態把握に努めながら子ども一人ひとりに向き合い、きめ細やかで柔軟性のある支援を模索し、校内支援体制の確立を目指してきた。特殊教育から特別支援教育への転換が求められている中で、“目の前の子ども一人ひとりを知り、教育的ニーズを把握し、必要な支援を教職員全員で!”を合い言葉にして取り組むことが出来たことは、今後につながる大きな実りであった。具体的な成果としては、次の点があげられる。

校内支援委員会を中心に校内支援体制の構築が進められ、関係機関との連携を図ることが可能になってきた。
子どもや保護者の心のケアや組織的な相談活動を推進し、どの子にとっても心の居場所のある学級・学校をつくることを重視することができた。
子どもの抱えている課題を担任が一人で悩み解決していこうとする意識から、教職員全員で子どもをみて支援していこうとする意識が芽生え、協力体制の構築ができた。
子ども一人ひとりに目を向けて個々の実態をとらえ、その子に応じた声かけを工夫したり、内容が理解しやすいような授業の進め方を工夫したりするなどの手だてを講じてきたことが、結果的には、どの子にとっても分かりやすい授業を提供することにつながり、学級全体のレベルアップにつながった。    〔 第4学年 研究授業 〕
個を取り巻く学級集団の在り方やかかわり方にも目を向けたことで、子どもたちに共生を意識させる場面を設けることができた。

(第4学年 研究授業)

 これらのことは、子ども一人ひとりの顔の見える教育へと改善していくことにつながってきているものと考える。その一方で、様々な課題も見えてきた。

(2)課題として

学習面での個に応じた具体的なかかわり方や支援の在り方については、明確になってきているものの、学級経営の中でいかに個を認め、一人ひとりを生かしていけばよいのか。
軽度発達障害のある子どもに対する専門的な指導はどう進めていけばよいのか。
特別な支援を要する子どもの保護者とのかかわり方については成果がみられたが、支援を必要とする子どもの保護者全員の理解を得ることは難しかったと感じている。今後は、子どもはもちろんのこと、窓口を広げ保護者も気軽に相談できるような機会を設けていけるようなシステムづくりに取り組む必要がある。


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4 実践に当たってのポイント

 特別支援教育は、大きな節目を迎えようとしている。個に応じた適切な支援を教育全体の中で展開していくことが今後一層求められそうである。本年度の私たちの試行錯誤の取組みが、より確かなあゆみとなるように、軽度発達障害等を含め、特別な教育的支援の必要な子どもの支援を全校体制で進めながら子ども一人ひとりを大切にした教育を展開し、心の居場所のある学校づくりを進めていきたい。そのためのポイントとして次の内容が考えられる。
校内委員会や児童理解の場をできるだけ設けること
なかなか会議をもつことができない現状の中で、職員会議、研修職員会議、職員朝礼などを利用して、短時間でも構わないので、学級の中で気になっている子どもたちの情報を伝え合い、支援方法をみんなで協議していくことは、大変有意義である。まずは校内の先生方との連携を深め、日ごろから学級の情報を伝え合うことが、具体的な支援の在り方を考えるヒントにつながると思われる。
情報を共有すること
子どもたち一人ひとりのよりよい成長を願う立場から、学校・家庭・地域が子どもの情報を共有し合い、必要に応じて関係機関や他校とも連携していく姿勢が大切であると思う。開かれた特別支援教育を目指したいものである。


(異学年交流 なかよし班活動)


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