学力向上フロンティアスクールの取組み               (指導課)

豊かな人間性とたくましい実践力をもつ心身ともにすこやかな誠意っ子の育成                        
 −下関市立誠意小学校−

1 学校紹介2 本校の研究主題と仮説
3 本校における「数学的な考え方」のとらえ方と算数的活動への効果的な生かし方/
4 「基礎・基本」及び「確かな学力」の解釈5 取組み実際6 研究の成果と今後の課題
実  践  の  ポ  イ  ン  ト
 子ども一人ひとりの学びを大切にする授業を進めていく。
 目的を明確にし,教師一人ひとりの持ち味を生かした研修を行う。
 子どもの成長した姿や研究の内容を,保護者や地域に発信する。

1 学校紹介
 本校は,山口県の西部,下関市の隣に位置し,南東に鬼ヶ城が聳え,西は日本海に面している。校区の概要としては,
(1)校区全体に田が広がり,米作りが中心である。
(2)山手にはみかん畑があり,海岸には養殖場がある。
(3)国道沿いに,住宅団地が広がっている。
ことが挙げられる。
 本年度は開校130周年を迎え,学級数は14学級(特別支援学級2),児童数は296名,教職員数23名の伝統のある学校である。
 平成14年度から3年間,学力向上フロンティアスクールの指定を受け,算数科における児童の学力の向上をめざし,授業実践を中心に研究に取り組んでいる。


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2 本校の研究主題と仮説
(1)研究主題
「学力向上をめざした算数学習(3年次)」
〜考える楽しさを味わい,数学的な考え方が高まる指導の工夫〜
算数的活動を生かしつつ,考える喜びや算数を学ぶ楽しさ(発見する楽しさ・考える楽しさ・それを活用する楽しさ・算数をつくる楽しさ)を,子どもたち自身が自分の手や目・耳・口などを通して主体的に関わり体感できるような算数の指導はできないかと考え,研究主題を設定した。
(2)仮説
研究主題を解明していくために,次のような研究仮説を立て,研究に取り組んでいる。
@ 低学年においてはTT指導,中・高学年においては少人数グループの編成をし,きめ細やかな指導を行うことで,基礎・基本の定着を図ると共に,一人一人に応じた学習が展開できるのではないか。(1年次からの継続研究)
A 少人数指導やTT指導など,個を大切にする授業を展開し,支援や指導を工夫することにより,児童一人一人の学習の場が保障され,「数学的な考え方」の学力を向上させることができるのではないか。(2年次からの継続研究)
B 教材・教具を工夫したり,算数的活動を効果的に生かしたりすることにより,子どもたちが算数を学ぶのが楽しい,考えるのが楽しいと思うようになるのではないか。
C 学習集団や指導形態に弾力性をもたせ,子どもたちが楽しく考えようとする指導法を工夫することにより,多様な考えが促され,考える力(数学的な考え方)が高まっていくのではないか。


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3 本校における「数学的な考え方」のとらえ方と算数的活動への効果的な生かし方
(1)本校における「数学的な考え方」のとらえ方
@ 数学的な考え方を高めるには,問題に直面したときに,それを解決していこうとする力が必要である。
A 数学的な考え方を高めるには,自分の立てた式をきちんと説明したり,求めた答えを振り返って見直して考えたりする力が必要である。
B 数学的な考え方を高めるには,学習したことを生活の中に生かしたり,日常生活の事象を数理的にとらえたりしていく力が必要である。
 本校では,定義付けをする際に,「数学的な考え方」そのものを定義していくのではなく,より実践的に考え,子どもたちの力をどう伸ばしていくかということを大切にしていくために,「数学的な考え方を高めるには」という表現で定義付けを行った。
(2)算数的活動の学習への効果的な生かし方
@ 問題作りや問題把握・学習の動機付けに生かす。
A 経験を豊かにし,イメージ作りに生かす。
B 結果や解決の方法の見通しに生かす。
C 概念や原理・法則などを発見したり,それらの理解を助けたりするのに生かす。
D 筋道を立てて考えるのに生かす。
E 解決の方法を明らかにするのに生かす。
 算数的活動の学習への効果的な生かし方については,実践研究の中で,さらにその方途を検索していくことにしている。


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4 「基礎・基本」及び「確かな学力」の解釈

「基礎・基本」とは,学習指導要領(教科書)に示された内容そのものであり,学力の基礎的部分である。
「学力」とは,知識・技能だけでなく,学ぶ意欲や思考力・判断力・表現力等の学力を含めた総合的な力である。則ち,学力1と学力2を総合した力である。
「確かな学力」とは,基礎・基本を身に付け,それを転移・応用・発展させる力である。


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5 取組みの実際

(1) 授業実践部の取組み
@ 考える楽しさを味わうための教材・教具の工夫
考える楽しさを味わうためには,教科書の問題を先生が説明して解いたり,公式に当てはめて解くだけの学習をするのではなく,試行錯誤を繰り返したり,帰納的類推的に考えたりして子どもたちが問いをもって主体的に取り組むような活動を仕組んでいくことが大切である。そこで,子どもたちが,「えっ!」「なぜ?」「なるほど!」と心が動かされる場面を算数の学習の中に取り込んでいくことにした。つまり,算数の学習をもっと子どもたちが創り出す場とすることにより,数学的な考え方が高まるものにしようと考えた。そのためには,子どもたちが考える楽しさを味わい,算数が好きになっていくような活動を促す教材・教具を工夫していく必要があると考えた。しかし,教材・教具の開発はそう簡単にできることではない。そこで,身近なところから授業で提示する問題や,授業で使う教具の活用を自分達なりに工夫したり,教科書の問題であっても,提示の仕方を工夫したりすることから始め,徐々に実践事例を増やしている。
A 「数学的な考え方」についての意識調査(誠意小算数チェック)
 児童の「数学的な考え方」を高めるためには,まず,児童が算数での学習において,どのような意識をもって取り組んでいるかを把握することが大切だと考えた。そこで本年度は,「誠意小算数チェック」と題した意識調査をアンケート形式で行うこととした。
B 児童の「数学的な考え方」の定着をみる評価テスト
 数学的な考え方が,
児童にどの程度定着しているかということを市販のテストだけで把握することは,なかなか困難なことである。本校では,「数学的な考え方」に対する意識調査も実施して,児童理解に役立てているが,より具体的な形で児童の考え方の傾向をつかみ,日頃の授業に生かす目的で,評価テストを実施している。
数学的な考え方テストの一例〜5年生)
C 指導力を高めるための児童による授業評価
   授業における学習の主体者は児童である。本校では,このような考えのもと「児童の側から見た授業評価」を行い,その結果を真摯に受け止めたいと,各学年でアンケート実施後,考察を行い,日々の授業に役立てている。
(児童による授業評価)

(主体的な学びへとつなげる学習記録〜算数ファイル)

(算数ファイルの一例)
D 主体的な学びへとつなげる学習記録(算数ファイル)
学習で使ったプリントやテストなど,子どもの学習の足跡を蓄積することにより,子どもたちが自らの学習過程を振り返り,新たな自分の目標や課題をもって学習を進めていくことができるように,算数ファイルを使用している。単元の終わりや学期の終わりにそれらを見直すことで,子ども自身が自分の学習の状況を把握し,自分に必要な学習を主体的に考えることで,子どもの学習意欲を喚起することができる。
(2)学習環境部の取組み
@ 算数おたすけ教室
  子どもたちの算数学習の悩みを聞いたり,つまずいているところを個人指導したりする目的で,算数相談室を設置している。子どもたちに相談室の名前を募集したところ,「算数おたすけ教室」に決まった。昼の放送で全校児童に「算数おたすけ教室」の開設のお知らせをしたところ,翌日からさっそく利用者が現れた。利用できる時間帯は,昼休みと放課後で,少人数指導の担当者2名で指導にあたっている。現在も,たくさんの子どもたちが利用している。 

(おたすけ教室看板)

(お悩み相談箱)
                          









おたすけ教室学習の様子)
A 算数コーナーの設置
 全校児童が見やすいように,購買部ホールの掲示板を利用して算数コーナーを設けている。ここにはよく書けている児童のノート,算数クイズ,雑学,授業実践の様子などを定期的に展示したり,いつでもだれでも使える,算数プリントボックスを設置したりして,算数に対する児童の興味・関心を高めるための工夫をしている。
B 学習規律の基本
 本校は,発表・ノート・板書・学習用具などにも研究の視点をあてている。学習の基盤となるこれらのことを徹底し大切にすることにより,確実に学力が向上していくと考えているからである。
C 教材・教具の収集と整理
 学力向上フロンティアスクールの指定を受けた初年度,教材室をはじめ校内を整理整とんし,算数科の備品(教材や教具)を学年ごとに並べた。また,算数科教材教具一覧表を作成し,授業で活用できるようにしている。

 (教材教具一覧表の一部)

(算数プリント集〜自作)
D 広報活動の推進
 様々な場面で広報活動を行っている。ホームページには,本校が行った研究授業の指導案をすべて掲載している。また,校報・学年通信・学級だよりなどはもちろんのこと,「算数新聞」や「算数だより」など,少人数指導の担当者が独自に発行しているものもあり,広く広報活動を行っている。

(ホームページ映像)

(算数新聞の例)


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6 研究の成果と今後の課題
(1)研究の成果
@ 基礎的学力の向上と算数への興味・関心の高揚
 「表現・処理」「知識・理解」を中心に基礎的学力の向上を図ると共に,算数への興味・関心を高めるために,次のような実践に取り組んできた。
朝の学習や家庭学習などによる反復指導の徹底(1年次からの継続研究)
算数コーナーの設置やお昼の放送での算数クイズの取組みなどによる算数の学習に対する興味・関心の啓発
習熟度別指導や「算数おたすけ教室」の運営による補習体制の充実
 昨年度の観点別到達度学力検査(CRT)や諸テストの結果から,児童個々の基礎的学力の着実な向上が見られる。また,算数学習についての啓発活動を行ってきたところ,児童の算数に対する興味・関心が高まってきた。 
A 「数学的な考え方」を伸ばすための実践   
 2年次からは,学力向上の質を高めたいという願いや児童の実態から,算数科教育の中でも学力の向上が見えにくい「数学的な考え方」を伸ばす指導の工夫に取り組んできた。本校で考える「数学的な考え方」を高めるための方途を求め,日々の授業や研究授業を中心に実践に臨んできた。その成果は数値として表すことは難しいものの,教師全体の手ごたえとして,次のようなことを感じている。  
問題を解く過程において,進んで絵や図などをかいて筋道を立てて考えている。
考えたことや立式の説明など,自分の考えがもてるようになった。
 2年間にわたる「数学的な考え方」を伸ばすための実践の中で,子どもたちは考える楽しさを味わいながら,数学的に考える力が高まっているものと確信している。
B 児童から見た授業評価の実施
 指導法の改善を図ることを主な目的として,「児童から見た授業評価」を,2年次と3年次の2年間にわたり実施してきた。「学習する主体は児童である」という考えのもと,「児童から見た授業評価」を行い,その結果を真摯に受け止め考察を行うと共に,その後の指導に生かしてきた。
 この取組みにより,より楽しい授業・より分かる授業づくりのための指導方法や指導体制の糸口が見えてきた。
C TT指導や少人数指導による学習指導の充実
 本校では原則として,1・2学年は教頭や教務または少人数指導担当が入り,担任と共にTTによる指導を行ってきた。3〜6学年は少人数指導の担当者が入り,2つのクラスを解体した3つの学習集団を中心に指導にあたってきた。TTの指導においては,従来の教師一人の一斉指導では十分に対応できなかった児童一人一人の能力や個性に応じた指導を,二人の教師による協力的な指導によってきめ細かにかつ効果的に行うことができた。少人数指導においては,習熟度別学習を年間指導計画の中で多く位置付け,様々な指導法を探りながら実践を行ってきた。これらの取組みにより,次の2点の成果がみられた。
発展的な学習の取り扱いが容易になり,学習の進んでいる児童を中心に,様々な問題に取り組ませていくことができるようになった。
補充的な学習の時間が確保でき,十分に理解ができていない児童に対し,学習内容を確実なものに近付ける指導ができた。
(2)今後の課題
@ 学習意欲を高めていくための教材開発
 基礎的な学力の向上をめざすためにも,思考力や判断力を育てたり数学的に考える力を身に付けさせたりするためにも,授業で使用するワークシートや繰り返し練習に使用するプリント,算数的活動の素材等,教材・教具の果たす役割の大きさを認識した。教材・教具を更に効果的に活用し,子どもの学習意欲を高め継続させていくために,1年生から6年生までの6年間を見通しての教材作りや,単元や学習内容ごとの個に応じた指導のために役立つ教材・教具をチェックし,開発・整理する必要がある。
A 指導形態の工夫
 本校では,3年前に学力向上フロンティア事業の研究校として指定を受けてから,TTによる指導・単純分割による少人数指導をはじめ,習熟度別指導や興味関心別指導など,様々な学習形態を探ってきた。また,TT指導や少人数指導の中でも,さらにその形態を細分化して授業実践を行ってきた。今後も,効率よく,また児童一人一人が進んで授業に臨めるような指導形態を工夫していく必要がある。
B 児童の学力の評価を生かした授業改善
 児童の学力を客観的に把握し学習計画の作成に役立てていくために,観点別到達度学力検査(CRT)や学力検査の積極的な活用が重要である。また,単元前のレディネステストや本校オリジナルのショートタームテスト(単元の習熟度をみるためのテスト)について,評価基準を明確にしながら検討し,今後の授業改善に効果的に生かしていく必要がある。
C 指導と評価の一体化
 評価のための評価であってはならない。よく耳にする言葉であるが,多くの授業でこのことがうまくいかないことをよく見かける。本校では学習指導案の中に, 
内容のまとまりごとの評価規準
単元の評価規準
学習活動における具体的な評価規準
 の3点を明確に表記することで,評価を的確に指導に生かすように努めてきた。評価については,研究を進めれば進めるほど重要であることが分かった。今後,更に深く研究をしていく必要がある。


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