学力向上フロンティアスクールの取組み                〔指導課〕
 自ら学ぶ意欲をもつ心豊かな児童の育成
 −美祢市立豊田前小学校−

1 学校紹介2 具体的な活動内容3 実践例4成果と課題

実  践  の  ポ  イ  ン  ト
研究の目的・方策・見通し・自校としての方向性や視点を定め、しっかり共通理解する。
授業は子どもを中心に据えたものであることを忘れず、子どもをよく知り(観察・評価)、子どもから出発する(個に応じたきめ細かな指導、子どもによる授業評価など)実践を進めることを確認する。
全教職員の特性を生かし力を合わせて研修し、共同の成果とともに、教師個々の向上にもつながる研修づくりをする。
研修の中間評価をしながら進める。
積極的な情報収集と蓄積により広い視野を持ち、且つ、独自性を保った研修を行う。
多様な機会を活用し、保護者や地域へ発信し理解と支援を得る。

1 学校紹介
 本校区豊田前は、美祢市の西部に位置し、南北に細長い地形をした山間部にある地域である。古来から地区のほぼ中央部を南に流れる日野川に沿って耕地を開拓し、一時は地域は炭坑で栄えた。全校児童は、52名で、特殊学級を含めて8学級ある小規模校である。児童は、明るく素直で伸び伸びと育っている。授業中も素直に教師の話に耳を傾け、熱心に授業に取り組んでいる。
 本校は、平成14年度から3年間、文部科学省から委嘱された「山口県学力向上フロンティアスクール」として、子ども達の学力向上に向けて研究に取り組んでいる。


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2 具体的な活動内容
(1)本校の方針
一人ひとりの実態を把握し、児童主体の学びの場をつくる。

複眼的な児童の見方・考え方を育てる
 研究主題
自ら学ぶ意欲を持つ心豊かな児童の育成
〜一人ひとりが主役になる学びの創造〜 

(2)構想図

(3)算数科の研究方法
算数科では
 児童の実態に合った学習活動を工夫し、児童主体の学びの場をつくっていけば、進んで問題を解決し、複眼的な見方や考え方が育っていくであろう。
研究方法
ア 児童主体にした授業作り
算数的活動を取り入れ、児童の考える力を育成する。
児童の生活体験に基づいた授業を仕組む。
児童の思いや願いの中から出された課題を示し的確な評価をする。
   ≪山口県学力向上フロンティア事業の実施方法@ABC≫
イ 少人数指導の授業の実践
5、6年はコース選択型学習、あるいは課題別学習をし、単元または時間によっては、共学びを高めるためTT方式を行う。
   ≪山口県学力向上フロンティア事業の実施方法A≫
ウ 補充的な学習の場の確保と教材の開発
基礎・基本の力を培う計算タイムの時間を取り、「数と計算」の領域のより確実な定着を図る。家庭学習にも取り入れる。
計算タイムで活用するワークシートの見直しをする。
   ≪山口県学力向上フロンティア事業の実施方法@≫
エ 発展的な学習の教材づくりとその活用
5、6年の習熟度別学習の中での単元研究をする。
   ≪山口県学力向上フロンティア事業の実施方法@≫
オ 指導に生かすための評価
ノートに毎時間学習課題を書き、学習の終わりに「分かったこと」「もっと学習してみたいこと」等を児童に書かせ、教師が朱書きを入れ、児童のやる気を喚起する。また、ノートの感想を見取り、次時の指導に活かす。
単元に入る前に、プレテストを行い、児童の実態を把握する。(5、6年)
単元が終わって、教師の指導がどうであったかアンケートをとる。
   ≪山口県学力向上フロンティア事業の実施方法BC≫
(4)国語科の研究方法
国語科では
 児童一人ひとりの思いや考えを大切にし、児童主体の学びの場をつくっていけば、児童は意欲と自信を持って人とかかわり、生き生きと自己を表現する力が育つであろう。
研究方法
ア 児童主体にした授業づくり
一人ひとりの思いや願いを表出する工夫
多様な自己の表現の場の工夫
児童の興味・関心を持続させる学習課題の設定
児童のやる気を喚起する場の設定
児童に単元計画を明確に示した授業づくり
   ≪山口県学力向上フロンティア事業の実施方法@ABC≫
イ 補充的な学習の場の確保と教材の開発
相手をしっかりと意識した音読を授業の中で取り入れる。また、家庭学習でも行う。
音読の技術を向上させるための手立てを考える。
   ≪山口県学力向上フロンティア事業の実施方法@≫
ウ 発展的な学習の教材づくりとその活用
感性、語彙力を高める「読書タイム」の実践
効果的な読み聞かせの実践をする。
児童が読みたくなるような本の紹介をする。
本好きにする学習環境づくりを行う。
読書教材を単元の中に取り入れる。
   ≪山口県学力向上フロンティア事業の実施方法@≫
エ 指導に生かすための評価
個人カルテを作成し、授業後の記録をとる。記録をもとに、次時の授業を構築する。
授業の後、児童にあしあとカードを書かせ、次時の授業に生かす。
単元が終わった後、教師の指導がどうであったかアンケートをとる。
   ≪山口県学力向上フロンティア事業の実施方法BC≫


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3 実践例
@2年生の実践
算数的活動を通して思考力を培う授業実践
〜一人一人が主役となり主体的に楽しく学び、わかる授業の展開〜
                           指導者  勝 谷 雅 彦
1 はじめに
 日常生活の中での体験や事象を見渡せば、算数の学習と結びつく素材がたくさんある。教科書の中の教材そのものを膨らませて学習することも方法であろうが、それらの体験や事象を教材化し、子供たちの実態に照らし合わせながら、楽しくわかりやすい授業作りをしていくことも大切なことである。すなわち、身の回りから生きた教材を見つけ創意工夫して算数的活動を仕組み思考力を働かせていくことも児童の学力向上につながると考える。
 これまでに、「長さ」の学習では、生活科の学習と結びつけながら「野菜の生育」を長さとして紙テープで各自の野菜を主体的に測り実測していった。また、それぞれの野菜の苗を植えたときの長さに着目させ、どの野菜が一番長いかいろいろなもので操作し測る活動を通して、それらの任意単位から普遍単位の必要性に気づかせるなど算数的思考力を働かせながら学習に取り組んできた。
 本単元「かけ算九九(1)」においても、日常生活の中で乗法と結びつくものを見つけさせることを基点に算数的活動を仕組み、一人一人が主体的に楽しく学び、自分の考えをはっきり伝えることができるような場の設定を考慮し次の4点を視点に実践を行った。 
日常生活の中の体験や事象を算数的活動として取り入れた授業
 生活場面から乗法となるものを見つけ実際に探しにいくことにより、それらをもとに算数的活動を取り入れ乗法の考え方や意味を深めていった。
基礎・基本を大切にし、思考力を培う授業
 日常生活の場を含め、乗法がどのような場面で用いられるかを知り、それを乗法の記号を用いて表し、式を読み、意味がわかるようにすることの手順と手立てに配慮した。
児童一人一人が主役となり表現の場を重視した授業
 一人一人が主体的に楽しく学び主役になれるような活動や、思考力を働かせはきはきと表現させる場の設定を仕組んだ。
指導に生かすための評価
 理解度やつまずきを把握し、個別指導や次の時間に活かす評価をしていった。
2 日常生活の中の体験や事象を算数的活動として取り入れた授業
(1)身の回りの生活の中には、乗法で求めたほうが総量を効率的に求められる場面がたくさんある。特に、スーパーマーケットでの野菜、果物、魚、ジュース類などは乗法として成り立つ場面が陳列されている。したがって、導入段階で「やおやさんごっこ」の場面から野菜や果物の陳列の仕方に目を向け、規則性や相違性を見つけたり気がついたりする中で「○個ずつ」が「いくつ分」と言う場面がたくさん見つかるところはないだろうかと投げかけ、スーパーマーケットに足を運び、かけ算九九のもとになる「○個ずつ」が「いくつ分」を探しに出かけた。
 児童は、目を輝かせ野菜や、魚などのパックを見つけ主体的に「○個ずつがいくつ分カード」に探し出したものを記入していった。この活動は、かけ算九九のもとを意識化させるとともに掛け算に対する学習の意欲づけになったと思える。
(2)児童が探し出したものをデジカメ資料として残し、掛け算の式にしたり文章問題に活用したりして学習を深めていった。
(3)生活科との結びつきの中で、白菜・大根・ブロッコリーの種や苗を植える際やお世話をする活動の中で乗法場面と関連づけて取り組ませていった。
3 基礎・基本を大切にし思考力を培う場の設定
(1)乗法の意味をとらえさせるためには、単に全体の総量を求めさせるのではなく、全体の数量をとらえる見方として、同じ数ずつならんでいる乗法の用いられる場面を生活の場面から見つけさせ、「1つ分の大きさ」×「いくつ分」=「全体の数」という乗法の意味を理解させていった。その際、具体的場面→半具体物に置き換え図に表す→言葉に表す→式に表す、を明確にすることによって、「一つ分の大きさ」と「いくつ分」の理解を深めさせていった。
(2)学習の流れの中で基礎基本的なことを定着させるために、また、つまずいている児童の個に応じた指導を徹底するために算数的活動だけでなく、その場に応じて絵・図・用具・実物・模型などの活用や操作を繰り返すことにより理解を深めたり算数的思考力を働かせ問題解決をしてきた。
(3)同じ数を何回も数える活動を繰り返し行いある程度定着した段階で、「たしざん早見表」・・2が3つ・・・2+2+2=6、2が4つ・・2+2+2+2=8・・を作り活用させた。作る際に、数のまとまりを意識して数えることが定着するであろうし、かけ算の答えを早く出さなければならない(個人差)時に役立つと思えるからである。
4 児童一人一人が主役となり表現の場を重視した授業
(1)一人一人が主役となり主体的に楽しく学び、わかる授業を展開するために、児童の意識の流れを考慮した学習計画を立てた。たとえば、「○個ずつ」が「いくつ分」をさがしにいこう。・・・同じ数ずついくつ分かあるときの全部の数をみんなが探し出したものから求めよう・・・同じ数ずつあるものを探してかけ算の式に表そうなど、児童が次時に学習したいことを認識させながら取り組んでいった。
(2)「なぜかけ算になるのか、かけ算にならないのか」など算数的思考力を働かせ、自分なりにわかったことを表現できることはより理解を深めていくものだと言える。したがって、毎時間、算数的思考力を働かせる場では、少人数学級のメリットを生かし、全員が自分の考えを表現するようにしてきた。カードにまとめたこと、文章問題作りなど自己表出の場を設定することにより自分の考えを確かめたり、友達の考えと比較することにより理解力・思考力の自信につながった。
5 指導に生かすための評価
 評価の観点をもとに、「評価カード」を作成し今後の個別指導に活かしていった。評価においては、◎・○・△だけでなく、学習中の活動や理解度、つまずきなどを記入し次時の学習に役立てるようにした。また、各時間の終わりに児童にわかったこと、難しかったこと、感想などをノートに記入させることにより指導に役立てたり学習の足跡として残るようにした。
6 算数授業の実際
 本時では、みんなが探し出した「○こずつ」が「いくつ分」や用具・絵図の中から選んで掛け算の文章問題作りに挑戦していった。準備物として、みんなが探し出したデジカメ資料、足の数、チーム数、タイヤの数を求める絵図・生活科で植えた野菜・ビン・ペットボトル・みかん・りんごの模型・花の苗などを準備した。
 「問題作りシート」には、問題文、図、式、答えを記入する欄を設け、問題を作る人とその問題を解く人(チャレンジャー)に別れて取り組ませた。
 どのように問題を作っていったらよいのかわからない児童には、これまで学習した式を求める学習カード「みかん2こずつ」が「6こ分」で式は2×6やかけ算は「1つ分の大きさ」×「いくつ分」=「全体の数」を想起させることにより問題作りに意欲的に取り組むことができた。
 最初、児童は、自分たちで探し出した興味関心のあるデジカメ資料ばかりに着目していたようだが、その他の絵図や用具なども活用するように仕向けた。
 デジカメ資料の中には、かけ算にならないものも何枚か提示しゆさぶりをかけた。Y児が問題作りをする際に、かけ算にならないりんごを選びなやんでいた。りんごは、各パックに2個・3個・4個となっており本人もかけ算にならないのは理解していたが、なぜかけ算にならないのか説明をすることができなかった。そこで、後でみんなと一緒に考えようというワンクッションを置くとともに、再度かけ算は「○個ずつ」が「いくつ分」で「全部の数」が求められることを確認し問題作りに取り組ませた。その活動の中で、Y児も、なぜかけ算にならないのかに気づくことができ、みんなで考える際にもその理由を発表することができた。また、りんごの数を求めるには、たし算で求めることが理解できた。
 作られた文章問題を解き合い発表する際には、一人一人が主役となり前に出て大きな声ではきはきと問題を読みかかれた図の説明、式、答えを発表した。図の説明では、○個ずつを囲み単位量として数を6・12・18・24といったように説明した児童をもとに、そのわかりやすさに視点を置き、他の児童もその方法で説明することができた。
 かけ算の式の理解を深めるために「1つ分の大きさ」が「いくつ分」の計算が逆になっている問題を用意しゆさぶりをかけてみた。アジさんからの問題は、「アジが1パックに3匹ずつ入っています。5パック分でアジは全部で何匹になるでしょう。」
 式 5×3=15・・
この式から児童は、最初みんな「いいで〜す。」であったが、その後「あれ?」になり算数的思考力を働かせながら「3匹ずつだから5×3はおかしい」「意味が違ってくる」「逆になっている」「3×5でないといけない」・・・「なぜ?」・・・「かけ算は、○個ずつがいくつ分でこの問題は5パックずつが3匹じゃないから」ということから、かけ算は「1つ分の大きさ」×「いくつ分」=「全体の数」といったかけ算の基礎基本となる式のあり方を再度理解することができた。
 また、本時の学習で扱った式と答えやこれまで学習してきたかけ算の式と答え(既習の式を求めた学習カードの掲示)を見て何か気がついたことはないかと投げかけ、答えが同じになっていることや数字が入れ替わっていることなど新しい発見をさせた。児童は、はじめに答えが同じであるかけ算を見つけ、それらを1箇所にまとめていくことにより、式に目を向け数字が逆になっていることを捉えた。そのことから、「一つ分の大きさ」と「いくつ分」が逆になっていることと答えは同じであることを確認した。
 本時のまとめと感想では、「1つ分の大きさが○個ずつ、同じでないとかけ算にならないことがわかった。」「問題作りが楽しかった。」「なぜ、りんごがかけ算にならないのかがわかりました。それは、同じ数ずつじゃないからです。」「式にするとき1つ分の大きさといくつ分が逆になったら意味が違うことがわかりました。」「かけ算には、同じ答えになる式があって1つ分の大きさといくつ分が入れ替わっている。」など全員が学習を振り返り表現することにより、理解力を深めることができた。
7 終わりに
 本単元の学習において、児童は興味関心を持ち目をきらきらと輝かせながら取り組んできた。それはやはり、生活に密着した身近な素材をもとに算数的活動を仕組み思考力を働かせる場の設定がある程度できたからであろう。また、誰もが表現する場を設けることにより、つまずきのある児童も算数に対する自信が少しではあるがもてるようになってきた。
 いつも思うことは、どのような授業を仕組めば児童が、意欲的に楽しく学び一人一人が主役となって活動し算数の力を身につけていくかということを原点に考える。また、学習したことが児童の楽しい思い出になっていれば幸いだとも思う。これからも、一人一人が主役となり主体的に楽しく学び、わかる授業の展開に努めていきたい。

A 5年生の実践
児童童主体の国語科学習の実践
  〜ディベート的要素を用いた授業を通して〜     指導者  竹 内 弘 美
1 はじめに
 児童が主役になる授業とは、どんな授業だろう。知らず知らずのうちに、私たちは教師中心の授業をしているのではないだろうか。児童が一時間の授業の中で「楽しかった。」「また、やりたい。」と満足する授業をめざして、工夫を試みた。
 国語科における「生きる力」の中に、少し前からコミュニケーション能力が注目されていることは周知の通りである。「話す・聞く」力の育成は、教科書のみを使っての学習では限界があると感じていた。生きた言葉の力をつけるためには、視点を拡げた試みが要るのではないかと考え、次の3点を視点にし、実践を行った。
実体験を取り入れた授業
 学習の中に、意図的に体験を取り入れた。児童の実態や興味関心をもとに体験を取り入れ、やろうという意欲を持続するようにした。また、その体験をもとに、「話す・聞く」力がつくように学習の計画を立てた。
ディベート的要素を取り入れた授業
 学習の中で、拮抗する2つの意見を提示し、自分の立場をはっきりさせて考えさせた。それぞれの意見の長所、短所を考えて「話す・聞く」学習をさせた。
児童の評価をふまえた授業
 児童の学力を診断する評価ではなく、次の時間に生かす評価をしていく。児童の振り返りを見取り、次の授業を流動的に変えていく。
2 実体験を取り入れた授業の展開
 国語科5年光村出版の教科書に「伝え方を選んでニュースを発信しよう〜ニュースを伝える、伝え方を工夫して発信しよう〜」という単元がある。この単元では、新聞、テレビ放送の長所、短所を学習し、実際に新聞を書いたり、テレビ番組を作ったりする。
 身近な新聞、テレビの学習であるので、情報の発信者としての新聞社や放送局の生の学習ができないかと試みた。見学したのは、下関市に本社がある山口新聞社である。
右の写真は、制作室を訪れた時の写真である。パソコンが並び、緊張感のある現場に、児童は報道に携わる人の意気込みを感じ取ったようだ。児童の感想の中にも「新聞の作り方をくわしく説明してもらったので、新聞についてすごく分かりました。私は、『新聞を作るのは大変だな』と思いました。働いている人は真剣で集中していました。」というのがあった。
 放送局は、美祢の町にあるMYT(美祢有線放送センター)に見学に行った。そこで、スタジオ録画、カメラの使い方、編集方法も習った。「カメラをのぞいて動かしてみました。それから、肩に乗せてカメラをのぞきました。7キロあるそうです。カメラの人は重たいのを持っているので大変だなと思いました。」「原稿は何に気をつけて書いていますかという質問に、いろいろなことを教えていただきました。例えば、差別用語は使わないことや、編集して、なるべく全員の顔が映るようにしているなど、メモ帳がいっぱいになるほど教えていただけました。」〜児童の作文より〜
 MYTで教えていただいた山田さんが、教室でビデオを撮る学習する時、講師として来ていただいた。右の写真はその時の様子である。ビデオカメラを撮る方法として、次の3点を教えていただいた。
(1)三脚を使う。(ぶれないことが大切)
(2)カメラの位置は被写体の顔の位置
(3)5秒待ってからスタートし、ビデオを撮る。

 児童は、自分達で計画し、撮影した番組にとても満足していた。MYTの山田さんへのお礼の手紙の中にも「山田さんに来ていただいたので、とても良いビデオレターになりました。お母さんがビデオレターを見たとき、ほんとに良くとれているねと言っていました。とってもうれしかったです。」というのもあった。
 このように、国語科の中に実体験を取り入れたことで、児童は、「ニュースを伝える」報道 の仕事を身近に感じ、自分達も「ニュースを伝えること」をやってみようという意欲が引き出せた。
 児童の主体性を引き出すためには、児童の興味・関心を持続させることが大切である。実体験を単元の中に仕組むことにより、生き生きと学習に取り組む児童の姿が見られた。
3 ディベート的要素を取り入れた授業の展開
 5年生を受け持って、児童主体の話し合い活動を仕組みたいと考えていた。そこで、2つの拮抗する論題を示し、グループに分かれて討論すれば、児童の「話す・聞く」力が伸びるのではないかと考えた。これをディベート的要素を取り入れた授業と呼ぶことにする。
 4月よりしばしばこの方法で、論題を考えさせたが、日頃ほとんど自分から手を挙げない
 児童も、この授業で進んで発表するようになった。
(1)説明文「海にねむる未来」の実践
 未来の良薬を発見するために活躍するザスロフ博士、バング博士の立場に立って、ディベートを行った。それぞれの博士の立場に立つには、教科書を詳細に読み取ることが
 必要になってくる。最初に、自分の立場をはっきりさせ、それぞれの博士の研究を読み取っていった。さらに、相手の研究も読み取らなければ、反論ができない。児童は、必要感を持って説明文を読み取った。また、それぞれのグループで意見をまとめたり、修正したりするという仲間意識も生まれた。その中で、全員発表の機会も持てた。
(2)「伝え方を選んでニュースを発信しよう」の実践
 論題を「ニュースを伝えるには、新聞とテレビ放送、どちらがよいだろうか。」とした。けれども、この論題では、論点がずれて、話がかみ合わなくなるということを校内研修で来ていただいた山口県教育会の田中淳夫先生から教えていただいた。それで、論題を次のように変えた。
 「なかよしフェスティバルで英語劇をすることを家の人に伝えるには、新聞、テレビ放送(ビデオレター)どちらの方がよく伝わるだろうか。」
 田中淳夫先生が言われる良い論題の要素は、次の通りである。

討論するための良い論題の留意点
(1)子どもの日常生活の中から出たもの
(2)子どもの言葉の具体的内容が引き出せるもの
(3)論点がかみ合うように内容がしぼられているもの

 前記の論題の中の「なかよしフェスティバル」というのは、この授業の1ヶ月後に行う学校の行事である。そこで5年生の児童は、「3びきのこぶた」の英語劇をすることにしている。そして、この英語劇を1人でも多くの家の人に見てもらいたいという願いを持っている。このことを論題にすると、身近な自分の問題として討論するのではないかと考えた。討論では、児童は、「ニュースを伝える」ことを自分の問題としてとらえていた。また、「自分達の英語劇を見に来てもらうことを家の人に伝える」という共通の土俵の上で討論をしていたので、視点がずれていくことはなかった。また、「作戦タイム」を設けたことにより、小グループでの話し合いも活性化した。自分の考えを伝える相手(新聞派にとってはテレビ派、テレビ派にとっては新聞派)がはっきりしているため、児童は積極的に発言していた。
 討論は、予想通りそれぞれの長所、短所をあげ、平行線になっていった。結論はその授業だけでは出ずに、次時に持ち越した。結局、新聞派が「新聞」を作り、テレビ派が「ビデオレター」を中心になって作ることになった。しっかりと討論した上での選択であったので、児童はそれぞれの伝達方法に熱意が感じられた。
 なかよしフェスティバルの前日にビデオレターも新聞も出来上がったが、児童は家の人にそれらを見せ、満足していた。家の人からも「よく、子ども達だけでつくったね。」とほめられたようだ。
3 児童の評価をふまえた授業の展開
 児童の学力を診断するための評価ではなく、次時の授業を構築するための評価として、「あしあとカード」を書くことを試みた。児童は、1時間の授業が終わると、自分の活動を振り返り、言葉であしあとを残す。担任は、その児童の思考をたどり、次の授業に活かす試みをする。1時間の中で自分がどうであったかを振り返るには、時間の初めに自分のめあてを持つことがとても大切である。また、どのように学習していくのか、見通しを持たせることも忘れてはならないと思った。
 しっかりとしためあてがあった場合、児童の「あしあとカード」の記述も生き生きとしたものが書かれてあった。
4 終わりに
 児童主体の授業づくりをめざして実践を重ねているが、大切なことは、目の前にいる児童の心をよく観ることだと考える。綿密な単元計画をしていても、児童の実態に即さなかったら、思い切って路線を変えることもありうる。今回、学習指導案を「学習活動案」と呼んだり、12人一人一人の実態を学習活動案の中にすべて載せたりしたのは、その気持ちの表れである。
 アンケート調査をしたところ、「国語の授業が楽しい」という児童は増えてきている。一人ひとりの実態に即して授業づくりをしていった結果が少しずつ表れてきている。
 また、平成16年10月29日の公開研究発表会では、たくさんの方々に来ていただき、ご示唆をいただいた。とりわけ、田中淳夫先生には、的確なご指摘と授業に対する構えを教えていただいた。授業者としては、まだまだの自分ではあるが、児童の事実から出発するという気持ちを今後も持ち、情熱を持って授業づくりをしていきたい。

4 成果と課題
(1)算数科の取組みについて
ア 児童主体にした授業づくりについて
 年間3回の授業研究会(2年の「長さ」、3年の「わり算」、6年の「分数」)と10月29日の研究発表会の公開授業(2年の「かけ算」、6年の「比」、みどり学級の「長さ」)では、学習活動案に、一人ひとりの児童の実態を載せ、一人ひとりに合った支援をしていこうという試みを行った。「算数的活動」を授業の中で行うことにより、基礎・基本の定着と創造性を培うことをねらった。アンケート結果(50ページ)からも分かるように、児童は算数の学習が好きになり、意欲も上がってきた。

イ 少人数指導の授業の実践について
 3年間の少人数指導の授業の実践において、児童の基礎・基本の力は確実に上がってきている。下図のグラフは、ある学年の学力テストの結果である。研究が始まった1年次と2年次の比較である。「数と計算」以外の領域の伸びが顕著に表れている。
ウ 補充的な学習の場の確保と教材の開発について
 基礎・基本の力を培う計算タイムの時間を取り、「数と計算」の領域のより確実な定着を図った。1年次の計算タイムは、2校時のモジュールの時間に行い、2年次は1校時のモジュールの時間に行った。3年次は、計算タイムが習慣化したので、朝学の時間に行うようにした。また、学年によっては、フラッシュカード、計算ビンゴ等、児童が意欲を持って楽しく取り組めるような工夫をした。高学年では、計算コーナーを作り、自分に合ったプリントを選んで進んで行うように工夫をした。

エ 発展的な学習の教材づくりとその活用について
 2年次に作成した計算プリントは、基礎、基本の課題だけであったので、3年次は応用問題も作った。進んで発展的学習に取り組める児童は、応用問題にも挑戦した。また、5年生の算数科の授業では、ジョギングコースとチャレンジコースに分かれて学習したが、チャレンジコースでどんどん発展的な問題が出ているプリントに挑戦した。

オ 指導に活かすための評価について
 算数科では、ノートに毎時間学習課題を書き、学習の終わりに「分かったこと」「もっと学習してみたいこと」を児童に書かせ、教師が朱書きを入れた。児童の感想を見取り、次の時間の授業の展開を考えた。また、「分からなかった」と書いている児童には、時間を見つけ、復習をするようにした。

(2)国語科の取組みについて
ア 児童主体にした授業づくりについて
 年間3回の授業研究会(1年「好きなものを知らせるね〜ぼくんちのゴリ、よく見てかこう」4年「本の世界を広げよう」5年「海にねむる未来」)と10月29日の研究発表会の授業(1年「好きなものを知らせるね〜ぼくんちのゴリ、よく見てかこう」5年「伝え方を選んで、ニュースを発信しよう」ひかり学級「敬語で話そう」)では、算数科同様に、児童一人ひとりの実態を掲載し、一人ひとりの支援を行うように努めた。また、実体験に基づいた言語活動を多く取り入れ、「伝え合う力」の育成に力を入れた。

イ 補充的な学習の場の確保と教材の開発について
 音読を授業の中に多く取り入れ、「読むこと」での基礎・基本の定着を図った。また、3学期から、「今月の言葉」として、全学年共通の朗誦教材を選び、朝の会や終わりの会で声に出して読むようにした。

ウ 発展的な教材づくりとその活用について
 国語科の発展的な学習を読書ととらえた。感性・語彙力を高める「読書タイム」の実践を行った。1年次は、2校時のモジュールの時間に読書タイムを行い、2年次は、1校時のモジュールの時間に行った。そして、3年次の今年は、読書が習慣化してきたので、朝学の時間に読書タイムを行った。児童の読書に対する意欲・関心は随分上がってきた。アンケート結果を見てみると、2年〜6年の93パーセントの児童が、「読書タイムが好きになった」と答えている。読書量も確実に増え、感性・語彙力も徐々に上がってきている。

(3)指導に生かす評価について
 国語科では、「あしあとカード」を作り、授業の後に感想を書かせた。その感想を見取り、次の授業を構築した。また、児童の感想に教師が朱書きを入れ、意欲が持続するように支援した。単元が終わった後に、教師の教え方がどうであったかのアンケートも実施した。児童一人ひとりの思いを受け止めた授業づくりをしていくように心がけた。
平成16年10月29日 研究発表会のアンケートより〜
授業について
身近なでき事を教材として取り上げていた授業に、子ども達は本当に生き生きと取り組んでいました。
子供達が大変明るくのびのびと学習、発表している姿にまず感動しました。日々の先生方のお取り組みの賜と思います。地域素材をうまく生かされているのもすばらしいと思います。一人ひとりの子供達の生かされた授業だと思いました。
生活に密着した授業を仕組んでおられ、子ども達もとても活発で感心しました。まさに生きて働く力が備わっている様に感じました。
生活に密着した教材が使われていたので、とてもすばらしいと思いました。子どもたちの意欲は、やはり生活の中から教材を持ってくることが必要だと思いました。
生活にねざしたもの、身近なものを学習に取り入れていらっしゃることがよかったと思います。算数が苦手だ、難しいものだと感じている子ども達に、算数の楽しさを味わわせるのにも、是非取り入れていきたいことだと思います。
人数が少ないとはいえ、子ども一人ひとりの実態を把握して授業に取り組むという姿勢はすばらしいと思います。日常生活とのからみを意識しており子どもの学習意欲は高まると思いました。

研究発表について
全教職員の先生方が一致団結して、研究に取り組まれていてすばらしい研究でした。
研究のねらいや方法等、子どもの実態に立った研究のあゆみがとってもよくわかりました。
学校でされている研究がよくわかりました。計算タイムもいろいろ工夫され、たのしく計算をしている姿をみてすばらしく思いました。
国語の指導と算数の指導を関連づけて研究されたことで、それぞれの教科で身につけた力が子どもたちの「生きて働く力」となっているのだなあと実感させられました。やはり、それぞれの教科の性質にしばられた実践ではなく、他教科領域と関連させた教材開発・実践が大切だということが本当によくわかりました。
少ない人数ですのに、算数や国語などよく分担されて研究を深めておられたように思います。授業ばかりではなく、読書タイム、計算タイムにもいろいろと工夫がありとても参考になりました。
国語と算数の両方を力を入れて研究されている成果が今日のほんのわずかな時間ではありましたが見受けられました。計算タイムなどすぐに取り入れてやってみたいと思いました。
いろいろな取り組みがよく分かりました。特に、計算、読書は様々な趣向がこらしてあり、実践をまねしてみたい気持ちになりました。少ない人数で一人ひとりによりそった取組み、すばらしいです。
児童のアンケート結果より〜(2年〜6年)
理由
ア・分かりやすい。(6年)
 ・おもしろくなってきた。(5年)
 ・やさしく教えてくれるから。(4年)
 ・わり算がすごく楽しくなった。(3年)
理由
ア・文を書くのがおもしろい。(5年)
 ・グループ活動が多くなったから。(4年)
 ・漢字をおぼえたから。(3年)
 ・人の前で発表がよくできるようになった。(2年)
理由
ア・いろんな計算ができて楽しい。(6年)
 ・すらすらととけるようになったから。(4年)
 ・九九リレーで新記録を出したときうれしい。(3年)
理由
ア・いろんな本が読めるから。(6年)
 ・想像がふくらむから。 (5年)
 ・先生が読みにきてくれるから。(3年)
 ・文をよく読めるようになったから。(2年)


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