地域特別支援教育コーディネータの実践               〔指導課〕

地域特別支援コーディネーターの活動
                          −下関市立山の田中学校−

 1 学校紹介2 具体的な活動内容3 指導事例4 関係諸機関との連携
 5 成果と課題6 実践に当たってのポイント

実  践  の  ポ  イ  ン  ト
 周囲とつながることが大切。
 情報発信、情報受信に心がけること。

1 学校・地域の紹介
 下関教育事務所管内には、小学校54校(うち下関市内小学校33校)、中学校27校(市内17校)がある。その中で、下関市内のほぼ中央に位置する下関市立山の田中学校は全校生徒539名、学級数18学級(うち通常の学級16クラス、特殊学級2クラス)の中規模校である。中でも特殊学級在籍生徒は知的障害学級4名 情緒障害学級7名という状況にある。(平成16年1月現在)




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2 具体的な活動内容
 地域特別支援教育コーディネーターの主な業務内容は、次の内容である。
 教育相談(校内・外):管内の小・中学校の児童生徒とその担任及び保護者等
 担任への助言・資料の提供等
 管内の特殊学級の担当者への助言等
 関係機関との連携:情報交換等
 校内や地域における研修の推進
 特殊学級での指導
 その他

 今年度の活動の主なものは、コーディネーター初年度ということもあり、本校特殊学級生徒に対する指導、及び担任への助言(授業内容、指導法、個別教育計画作成等)・資料提供、関係機関との連携作り、研修の推進であった。他校からの教育相談事例は、こちらの予想よりは少なかった。
 本報告では、通常の学級在籍生徒の相談事例・関係機関との連携等を中心に紹介する。




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3 相談事例
(1) 事例
 小学校時代にLDと診断を受けた生徒の事例
(2) 相談のきっかけ
 対象生徒に対する周囲の生徒によるいじめをきっかけに問題が表面化した。いじめの原因は、善悪の判断が十分育っていないことから起きる問題行動等、本人のソーシャルスキルが十分に備わっていないことから、周囲の生徒たちとのトラブルが絶えないということが原因であった。
(3) 提案した対応方法
 本人の落ち着きのなさや情緒の不安定さの状態、周囲の生徒との関係の悪化などから、リソースルームでの個別指導の必要性、周囲の生徒へ本人の状態を説明することを提案した。
 日頃から本人の様子を観察し、調子が悪い時間帯や教科等について記録することで、焦点を絞った対応や無理のない対応ができることや、また、リソースルームの活用にあたっては、該当生徒の学年の教員を中心に、全教職員が交代で担当するなど全校体制での対応が必要であることを説明した。
(4) 対応後の様子
 リソースルームでは、学年の教員を中心に、全教職員が全校体制で、週1から5時間程度の個別指導を実施することで情緒の安定化を図った。その結果、友人とのトラブルも軽減され、周囲の生徒との関係も改善され、本人もクラスも相談前に比べ、落ち着いてきている状況である。
 しかしながら、将来へ向けての進路等への不安が消えたわけではない。リソースルーム担当者、担任等へ情報提供を続けている。
(5) その他
 本生徒の同級生に同じような状態を示す生徒がいたが、担任からその保護者に医療機関での受診を勧め、ADHDと診断された。投薬の効果があり、その生徒の行動も落ち着いてきた。担任からの共感的な言葉かけと医師の助言により、生徒の落ち着きのなさが自分の子育てのせいではないことがわかり、保護者自身の心の安定にもつながり、生徒、保護者共に落ち着いている。




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4 関係機関との連携
 児童相談所、地域の医師、子ども発達センター、社会福祉協議会等の関係機関との連携を図ることができるよう、諸会合にできるだけ出席するように心がけた。関係機関の職員とつながることが一番の連携になるということを痛感した。相手の顔が見える連携を図ることができれば、非常にスムーズに話をすすめることができる。様々な情報も、それらの機関から受けることができるようになってきた。


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5 成果と課題
◎ 成果として
@ 関係機関との連携づくり
 周囲の人に恵まれたこと、自ら動いたことで、人とつながることができた。人とつながることが、関係機関とつながることだという実感がある1年間だった。 
A 研修の推進
 校内において障害児の教育に関係した研修資料の提供、および、地域での研修会の企画運営、また様々な研修会への参加を心がけた。特に地域での研修会を企画した際、特別支援教育の方向性や気になる子どもへの対応等について悩みを抱えた先生方も多く、地域特別支援教育コーディネーターの活動へのニーズの高さが伺えた。 
○ 課題として
@ 地域特別支援教育コーディネーターの認知度の低さ
 通常の学級在籍児童生徒の相談事例は、当初の予想より少ない感じであった。特に、子どものことでの情報は関係機関等から得ていても、実際に学校側からの相談依頼が少なく、地域特別支援教育コーディネーターをどのように活用してよいのか、周知徹底が図られていないこともその理由の一つではないかと考えられる。
 実際に学校や保護者から相談がない場合は動くことができず、ジレンマを感じることも多かった。地域での広報ということも大切な仕事の一つであろう。そのために1学期の早い段階でリーフレットを用意したが、地域の小・中学校において、地域特別支援教育コーディネーターをどう活用してよいか、また、存在すらもおそらく知らない教職員が多くいたのではないかと予想される。
A 気づきの目
 相談事例の少なさは子どもの抱えている困難さにどのように気づくかということも大きく関係してくると考えられる。特に中学校では、生徒の問題行動を軽度発達障害の視点での理解することは少なく、既に何らかの診断名を受けている生徒以外は、生徒指導上の問題であると認識されることが多い。また、中学校では教科担任制のため、担任している生徒との関わりが小学校での担任とは違い、すべての場面で関わるわけではない。そのため、子どもの困難さに気づきにくく、大きな問題になって初めて気づくことも多いが、逆に、中学校では、多くの教師と関わる場面が多いということから、支援体制さえ整えば、担任一人で抱え込まなくてもよい状況を作りやすい。
B 連携について
 顔が見える連携を成果としてあげているが、実際に多くの事例を抱えることになると、それが物理的に難しくなってくる場合も、今後は予測される。そういった場合のために、また、前述の気づきの目をすべての教職員が持つために、個別の教育支援計画を機能させる必要があると考える。そのために、通常の学校でも取り組みやすいのは、家庭環境調査票の書式を工夫し、個別の支援の視点を加えるのがよいのではないかと考える。


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6 実践に当たってのポイント
(1)担当者として
 コーディネーターとは、「調整者」「調整機関」という意味である。一番大切なのは周囲とつながることであると感じる。つながることで、困難を抱える本人を救える手だてがみつかるかもしれないからだ。そして、つながるためには、こちらからの情報発信が欠かせない。特に地域特別支援教育コーディネーターの認知度が低い現状ではなおさらである。もちろん情報を受信するためのアンテナの感度も高めておかなければならない。
(2)校長として
 地域特別支援教育コーディネーターの活動は、地域の小・中学校や保護者への支援(相談・助言等)が中心である。そのために、地域特別支援教育コーディネーターが活動しやすい配慮が必要である。

 掲載されている写真は、山の田中学校特殊学級の活動風景であり、本文の相談事例とは関係ありません。


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