不登校への取組み                       〔指導課〕

不登校の未然防止と対策          
 −柳井市立柳井小学校−

   1 学校紹介2 活動計画と具体的な活動内容3 成果と課題

実  践  の  ポ  イ  ン  ト
 児童・保護者と担任・学校との信頼関係を築き「心の居場所づくり」「絆づくり」を大切にしながら対応する。
 諸問題を担任及び相談者一人で抱え込むのではなく、相談できる協議の場を設け、全校体制で早急に対応する。
 ケースに応じて、専門諸機関等の協力を得ながら、児童の実態に合った対応を検討する。 

1 学校紹介
 本校のある柳井市は、山口県東部に位置し、観光名所としても有名である。商都柳井の風情を残している古い町並みや建物は国の保存地区に選定されている。また、教育を重んずる旧藩時代からの伝統的風土に支えられ、保護者・地域住民の教育に寄せる期待は大きく、学校への協力を惜しまない。しかし、市街地域を校区としているため、児童の健全育成から見た教育環境の悪化や家庭環境の変化などが現れている。
 児童数・学級数とも市内で最も多く、また、転出入の児童も例年数多い。これらの実情は、家庭・養育環境の変化を意味し、また、学校生活においても、児童の心の安定を欠く原因となったり、友人関係までもつまずく原因になったりすることもある。そのため、生徒指導上の配慮も必要となっている。また、仕事の都合で、夜、家を留守にする家庭も多く、基本的な生活習慣の育成や健康管理等の面から問題も生じている。
 さらに、従来から、いじめ問題や不登校等の生徒指導上の諸課題への対応や、発育発達上の課題から集団生活になじめない児童への対応等に苦慮している。
 また、生活体験不足や体力不足、対人関係の未熟さ等により、自己中心的な児童が増えており、友人関係のトラブルも増えている。 
 

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2 活動計画と具体的な活動内容    
(1) 「心の居場所づくり」「絆づくり」の場としての学校
@ 豊かな人間関係づくり
 生徒指導の今日的最重要課題として、いじめや不登校児童等の早期発見と適切な指導・支援に努め、速やかな対応を図ることが、まず第一にあげられる。また、不登校はどの子にも起こり得るという認識に基づき、不登校についての正しい理解を深め、すべての児童に対するきめ細やかな指導・援助の在り方についての研修を充実させることが大切である。
 さらに、児童が不登校にならないための魅力ある学級づくりも大切となってくる。児童が自己の存在感を体感し、精神的な心のゆとりのもてる「心の居場所づくり」、児童が社会性を身に付ける「絆づくりの場」としての学校・学級づくりに努めなければならない。
 そこで、本校では、全教職員の共通理解に基づく全校指導体制の確立、そして、豊かな人間関係づくりを基盤とした学校・学級づくりをめざして、下記の項目を課題として日々取り組んでいる。
(ア) 教師と児童との間に好ましい人間関係を醸成すること。
(イ) 問題行動等の早期発見と、愛情と思いやりのある指導・支援をすること。
(ウ) 問題行動等を持つ児童だけでなく、全ての児童を対象として行うものであること。
(エ) 基本的生活習慣を確立させること。
(オ) 児童の自発性・自主性を尊重して行うこと。
(カ) 児童のよき理解者となること。
(キ) 全教師の共通理解に基づく、指導体制の確立を図るとともに、家庭・地域社会との密接な連携を図ること。
A 不登校傾向の見られる児童の事例
 朝の登校しぶり傾向の見られる児童の対応については、まず担任との信頼関係を第一に考えている。しかし、担任のみで対応できない場合は、養護教諭との連携により、支援するケースも多い。担任が教室へ誘っても、なかなか教室に入ることのできない児童については、保健室で養護教諭とゆったりと落ち着いた時間を過ごした後、養護教諭とともに教室に入るという形をとる。こういった児童の多くに親との分離不安の傾向がみられるため、保護者も一緒に保健室で過ごすこともよくある。
 そういったことの積み重ねにより、自分の力で教室に入ることができるようになる。それでも時々登校をしぶったり、教室に入りたがらなかったりすることがあったとしても、担任が声をかけただけで、教室に入ることができるようになる。
 こういったケースの児童の場合、ほとんどが、新しい環境・新しい担任とのコミュニケーションづくりが不得意で、環境の変化に適応できるまでに時間がかかる。学年が上がり、担任が変わり、クラスが変わるごとに、また、長期休業や連休明けにこういう不登校傾向がみられる可能性がある。そのため、継続的な経過観察が大切である。こういったケースの児童の支援には、生育暦、日々の生活における基本的な生活習慣や生活リズム、児童を取り巻く家庭環境などの把握が重要な鍵となる。幸い、本校では、保護者(特に母親)からの担任や養護教諭への信頼が厚い場合が多く、心を開いてくれ、学校・家庭の連携による支援が可能なケースが多い。
 今後も、保護者の子育てへの不安などの心理面の支えも含めて、担任と養護教諭の連携の下、児童の支援にあたりたいと考えている。その際、日頃から保護者との信頼関係を保つよう努力するとともに、決して保護者を追い詰めることがないよう、保護者との悩みの共有を図りながら支援にあたることを心がけたい。保護者への支援のために、気軽に相談することができる窓口づくり、保護者同士のネットワークづくりも視野に入れながら、見守っていくことが大切である。 
(2) 学校全体の組織的な指導体制の充実
@ 全校体制による教育相談活動の充実
 不登校の予防には、学校や家庭、地域社会が日常的に児童にかかわっていく部分と、予兆をとらえて早期に対応する部分とがある。そこで、本校では、一人一人をより深く見つめるという目的で、教育相談活動を年3回実施している。教育相談を実施して、不登校の兆候、精神的不安定、さらには、怠学的な傾向が認められたとき、また、いじめを訴えてきた児童がいたときには、担任一人でその問題を抱え込まずに、全校体制(本校では「心の窓口会議」)で組織的に対応していくことが大切となってくる。その際には、単に情報交換に終始するのではなく、踏み込んだ児童理解の場として、その後の指導・支援の方針を具体的に検討するように努めている。しかし、そのような努力にもかかわらず、児童が不登校状態におちいってしまった場合には、組織的な指導体制のもと、子ども及び保護者と常に関わりを持ち続けることが必要となってくる。
 さらに、年3回実施する定期的な教育相談の時だけでなく、日頃の児童観察・日記・会話(雑談)・遊びの様子などから、気になることがあったら、教育相談を行うように努めている。また、不登校の予兆が見受けられる児童に対する、保健室からの情報も大いに活用することで、不登校児童の早期発見と早期対応ができ、不登校の予防につながると考える。
A 「心の窓口会議」について
 本校では、児童の心の悩みや不安からくる問題、特に不登校(登校しぶり)やいじめなどの諸課題の早期解決へ向けて、情報交換や対策等を協議するための会議「心の窓口会議」を平成9年度より設置している。これは、不登校傾向の児童が増えているということから、組織的な指導体制による対応を充実させるために始めた会議である。
 児童が不登校となる要因や背景については、「学校生活に起因するもの」、「家庭生活に起因するもの」、「本人の問題に起因するもの」など様々で、要因や背景は特定できないことが多い。また、担任及び相談者が一人で抱え込むことで、解決の糸口が見えにくくなることも考えられる。このことは、いじめの問題についても同様のことが言える。そこで、児童の諸問題の解決へ向かうことで、児童だけでなく、担任及び相談者が安心し自信をもって、児童と接することができるようにするためにも、関係のある教職員で支援の在り方を協議する「心の窓口会議」は有効である。
      

 会議を開くまでの主な手順及び組織は(図1参照)、まず、担任が事象を発見・察知した場合、或いは相談があった場合は、速やかに保健主任、または養護教諭、生徒指導主任に連絡する。次に、連絡を受けた生徒指導主任と保健主任は話し合い、校長へ報告し、開催の決定を受ける。そして、保健主任は、教務主任との日程調整後、開催日時を内定し、校長から日時と出席者の決定を受け、開催日時を出席者に知らせる(図2参照)。以上の手順で「心の窓口会議」を開催していくが、その時々の問題内容によって、構成メンバーを決めていく。構成メンバーは、校長、教頭,教務主任、生徒指導主任、特別支援教育主担当、保健主任(司会)、養護教諭(記録)、該当学年主任、該当学級担任、該当学年部、前学級担任となる。しかしながら、この全てのメンバーの時間調整が難しい場合が多く、対応を急ぐ場合は、担任及び相談者と、主たる構成員の参加のみで開催することもある(校長、教頭、教務のいずれかは出席することを原則とする)。
 これらの手順、組織によって会議を行った後、会議の結果は、必要に応じて生徒指導主任から職員朝礼などの場で、全教職員に連絡し、共通理解のもと、対応にあたったり協力の要請を行ったりする。ケースによっては、担任・同学年から協力要請を行うこともある。担任及び相談者を中心に全教職員で対応に取り組み、その後の経過及び事後報告を生徒指導主任が行う。
   
〈図2 心の窓口会議 開催案内〉
B 「心の窓口会議」を活用した不登校傾向の見られる児童の事例
 「心の窓口会議」を中心に進められた不登校児童への対応の実際について紹介したい。いつからとはなく、教室に入ることができなくなった不登校児童への対応は、当初、学級担任を中心に同学年で行われていたが、登校しぶりの原因が母子分離不安によるものであることが予測され、専門的な助言が必要と考えられたため、特別支援教育主担当を中心に会議を開催した。会議では、担任及び特別支援教育主担当から児童の様子や家庭状況についての情報が提供された後、今後の対応について協議した。このケースでは、登校刺激を与えるのではなく、家庭で過ごす時間を増やすことにより、母子関係を築いていくことが最重要と考えて対応した。結局、学年が変わるまでは、登校できなかったが、その間も担任からの連絡や教室での居場所づくりは行われた。また、特別支援教育主担当の方では、対象児童のかかりつけの医師及び母親との情報交換が行われ、随時担任の方に連絡された。
 進級して、学級開きにうまく入ることができたこの児童は、しばらくの間は、登校することができたが、まだ完全に母子分離不安が取り除かれていなかったため、再び教室に入ることができなくなった。そこで、児童の両親、医師、担任、学年主任、特別支援教育主担当による話し合いの機会を設け、児童への対応について共通理解を図った後、再度、家庭で母子関係を築いていく方向で進めていくこととなった。現在は、担任と児童、保護者によるメール等のやりとりによって、学校とのつながりを保ちながら、児童の学校復帰に向けての支援を行っている。
 このケースでは、登校刺激をどこまで行うかということが、当初から検討課題としてあげられてきた。母子分離不安が要因として考えられたことから、無理に声をかけることが、かえってプレッシャーになると考えた。専門機関の協力を得て、担任と保護者の願いを調整しながら、児童の心理面の対応を進めていくことの重要性を考えさせられたケースである。

(3) 学校・家庭・関係諸機関との連携
@ 不登校の未然防止のための関係諸機関との連携体制づくり
 日ごろから家庭との信頼関係づくりに努めるとともに、「不登校は誰にでも起こり得る」ことの意味や、学校生活の意義など、不登校に対する正しい認識を保護者が持つよう、啓発活動に努めることも大切である。不登校状態にある児童の家庭への対応は、家庭訪問を基本とし、保護者と直接会って話をすることが大切である。その際、保護者の焦りや不安を率直に受け止め、担任として何ができるのか、親として何ができるのかについて、ていねいに話し合うことが必要である。子どもの不登校で悩んでいる保護者の気持ちを理解し、不登校解消に向けて相互に協力して取り組む姿勢が求められる。
 また、日ごろから、児童相談所、スクールカウンセラー、市保健センター、市社会福祉関係者等との情報交換を行うなど積極的な連携が必要である。そして、不登校児童への対応の方針が決定した後も、学校、家庭、関係機関の三者が連携しながら対応していくことが大切である。さらに、不登校児童が学校外の施設に通う場合であっても、家庭への訪問、学習状況の把握、学校外の評価の工夫など、継続的な関わりを持つことが大切である。
A 親の育児への関心が低いため、自立への支援が必要な児童の事例
 親の子どもに対する愛情が、児童の心身の成長に大きな影響を及ぼすことは明らかなことである。しかしながら、親の育児への関心の程度や家庭の仕事上の理由等により、十分な愛情を児童が感じとることができないため、心の不安定を招き、登校をしぶる事例も時に見られる。担任からの電話連絡は毎日行われるが、電話での連絡をとることが困難であったり、児童の状況が把握できにくかったりする場合等は、家庭訪問という形をとることが大切である。児童と保護者の、担任に対しての信頼関係は保たれてはいるものの、「学校へ登校させる」という、保護者との共通の課題意識をもつことが困難な家庭もあり、苦慮することもある。
 本校では、日頃から、民生児童委員や市の保健センター、場合によっては、その他の関係機関との連携を深めているので、それらの機関と情報交換をしながら、児童・家庭を数多くの目で見守り、支援を進めているところである。その際には、当然のことながら個人情報の取扱いに十分配慮しつつ進めることが原則である。そのような配慮を欠くと、担任を含めた学校との信頼関係にも影響するので、極めて慎重な対応を心がけている。
 また、そういった連携が、単なる情報連携にとどまることなく、行動連携をめざして具体的な実効をあげることができるよう、学校と地域社会・関係諸機関との連携を保ちつつ、対応するよう心がけている。このような取組みにより、担任や学校が信頼関係を保ちながら、保護者の意識の改革及び家庭の協力を得て、成果をあげた事例もある。


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3 成果と課題
 これまで、不登校状態の児童に対する対応として、対処療法的な対応が中心となり、予防にかかわる指導や援助が不十分な面があった。また、不登校状態の児童の現状理解が十分でないまま、一律に登校刺激を与えたり控えたりすることが、学校や家庭において不登校児童へのかかわりを消極的にしてしまう場合もあった。そこで本校では、不登校の兆候が見受けられる児童に対して、未然防止のために、
@ 「心の居場所づくり」「絆づくり」の場としての学校のあり方
A 「心の窓口会議」を活用した学校全体の指導体制の充実
B 専門諸機関との連携を図りながらケースに応じた対応
という3つのポイントをもとに取り組んでいる。@の取組みで、集団の中で様々な体験をしながら、人とふれあい、互いを認め合うことで、より豊かな人間関係を築くことができるようになった。また、当該児童と保護者とのかかわりについて保護者の声を聞くことで、不安や焦りをやわらげ保護者の児童への接し方にも余裕が生まれ、母子分離不安や親の育児不安による不登校の防止に成果を上げている。Aについては、不登校傾向児童との関係を考慮しながら、中心的にかかわりを持つメンバーを選定し、児童の内面の理解と行動の変化、学校や家庭における人間関係などの理解をふまえ指導・援助の方針を決め、全校体制で適切なかかわりを深めることにより不登校防止に成果を上げている。Bについては、児童の今の状態の理解に努め、関係諸機関と連携しながら指導方法を見直していくことで成果を上げている。
 しかし、保護者の意識の改革の難しさ、支援の難しさがあり、ケースに応じた適切な対応を行うために、学校の指導体制のより一層の充実を図ることが課題として残る。また、不登校は、原因・背景等の理由により一律には捉えられない面があるにもかかわらず、一括りにされる傾向が見られるため、ケースに応じた登校刺激、支援のあり方について、職員間の共通理解のもとに指導を進めていくことがこれからの課題である。
 さらに、児童の「自己存在感」「自己有用感」をはぐくむ魅力的な学校、学級づくりについての研修を進めていくことも、不登校の未然防止につながると考えている。


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