学力向上フロンティアスクールの取組み                〔指導課〕
少人数指導による指導方法の工夫・改善
              
〜指導形態のあり方、指導と評価の一体化〜                    
 −山口市立湯田小学校−

1 学校の紹介2 本校の少人数指導(実践事例)3 少人数指導に対する児童の反応4 少人数指導に対する保護者の反応5 成果と課題6 校長からみた指導のポイント
実  践  の  ポ  イ  ン  ト
 「つながり」を重視した学力向上のための「学びの場」の工夫
 ・人と人
 ・単元と単元
 ・学習内容と生活
 学習内容・児童の実態に応じた指導形態の工夫・改善

1 学校の紹介
 本校は、山口市の繁華街、湯田温泉に位置し、新興住宅地やマンションを校区に持つ。学校規模は、全校児童664名、22学級(特殊学級4学級を含む)である。本校では、平成14年度から文部科学省の「学力向上フロンティアスクール」の研究指定を受け、算数科において、児童一人ひとりを大切にしたきめ細かな指導のあり方、指導形態の工夫について研究を進めている。 


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2 本校の少人数指導(実践事例)
(1)研究主題(平成14年度〜平成16年度) 
自ら学び続け、心豊かにたくましく生きる子どもをめざして 
(2)研究の経過
@ 1年次(平成14年度)
サブテーマ
 「教材の開発と指導形態の工夫改善」
少人数加配の人数・配置
 2人(3・4年算数科)(5・6年算数科)
成果
 少人数指導を取り入れることで、習熟度別コース編成を試み、それぞれのコースに適した、子どもたちにとって魅力ある、理解の手だてとなる教材の開発をすることで、算数科を中心としたより細かな指導のあり方について模索することができた。
A 2年次(平成15年度)
サブテーマ
 「指導方法の工夫・改善と評価の一体化」
少人数加配の人数・配置
 3人(1・2年算数科)(3・4年算数科)(5・6年算数科)
成果
子どもたちにさらなる確かな学力をつけさせるため、評価基準を明確にし、授業の中で実際に生かすことができるよう、指導と評価の一体化を図ることができた。
B 3年次(平成16年度)
サブテーマ
 「一人ひとりの子どもを大切にした「学びの場」の工夫」
少人数加配の人数・配置
 4人(3年算数科・国語科)(4年算数科・国語科)(5年算数科・国語科)(6年算数科・国語科)
(3)3年次(平成16年度)の研究の概要
@ 「つながり」を重視した学力向上のための「学びの場」の工夫
ア 人と人
・ 認め合い、高め合うコミニュケーション能力の育成
・ 共通理解(児童の実態、学習内容、学習方法)による共同指導体制
・ 家庭との連携
イ 単元と単元
・ 単元の特性を吟味し、個の習熟度や興味関心に応じた、苦手な子どもへの適切な個別指導、得意な子どもへの発展的な内容
ウ 学習内容と生活
・ 学習したことを他教科や自らの生活に生かす生きて働く力
A さまざまな指導形態
ア 一斉: 学級TT
イ 少人数(コース別)
(ア)無作為分割 → 出席番号、座席など
(イ)意図的分割
   児童の自己選択+教師のアドバイス
     均一的  :人間関係、発言能力、計算技能、学習態度等
     習熟度別 :理解度等
     課題別  :興味関心等
     学習方法別:筆算・電卓、実体験・パソコン、一人学び:話し合い

   児童の自己選択なし(教師の指名のみ) 
     習熟度別 :理解度等
     課題別  :興味関心等
     学習方法別:筆算・電卓、実体験・パソコン、一人学び:話し合い
(ウ)個別指導: 授業時間外の補習など
B 単元の特質(学習内容)や児童の実態に応じた指導形態の工夫・改善、および評価との一体化
(4)実践事例 その1『単元の指導計画と評価計画』から
@ 3年生「あまりのある割り算」( 全8時間)

A 4年生 「買い物に行こう」(わり算A−1)( 全9時間)

B 5年生 「三角形・四角形の面積」( 全13時間)
C 6年生 「単位量あたり」( 全13時間)

(5)実践事例 その2『習熟度を加味した課題別コース学習』から
6年生 「単位量あたり」の実践から
@ 単元の指導形態
A 単位量あたりを使って@(3時間)
 学級を解体して、
課題(興味関心)に応じて2コース習熟度に応じて2分割 計4コースにおける実践
ア 教材「問題作り」を発展的な学習の場として取り上げた理由
<定着>
学習内容を適応させる場面を通して学習内容の理解を深めることができる。
<意欲>
興味関心にもとづいた問題場面から、意欲的に取り組むことができる。
<発展>
学習したことを日常生活の中の場面につなげることで学習内容を生活化することができる。
イ 各コースでの学習の様子
比べ方(じっくり)コース
 小グループを組み、何を単位量とするかに目をつけながらグループごとに学習を進めた。
比べ方(ぐんぐん)コース
スーパーの買い物の場面、「100gあたりいくら?」「牛乳1mlあたりのタンパク質の量はどのくらい?」というような具体的な問題作りをし、取り組んだ。
速さ(じっくり)コース
 「時速、道のり、時間」の3つの要素を使って基本的な問題作りをし、友達同士で作ったオリジナル問題を解き合った。
速さ(ぐんぐん)コース
 各自の作った単位の換算を含めた問題を各自がどんどん解いていき、終盤では解き方をそれぞれに発表した。
○ 学習を終えた児童の感想
復習のときに、自分がやりたいところを選べたのがよかった。
問題づくりが楽しかった。
教室のいつもの友達と違った友達を学習できて楽しかった。
またやりたい。


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3 少人数指導に対する児童の反応
 少人数指導による学習をしてきた児童に、4月当初と9月末に「算数の学習についての感想」を聞いたところ次のような結果が得られた。このアンケートは児童の主観的な算数に対するイメージではあるが、算数の学習そのものというより学習する単元・内容に大きく影響されていることがわかる。また、4月当初と比べ、9月末になると算数が嫌いという児童の数が少なくなってきていることは、少人数指導によるきめ細かな指導の成果ともいえよう。
○ 好きになった理由
いっぱい教えてもらってよくわかるようになった。
割り算の計算が得意。
勉強すると少しずつ覚える。
いろいろなことができるようになった。
難しいけどおもしろいから。
○ 嫌いになった理由
問題がだんだん難しくなった。
文書問題が少し嫌い。
計算が苦手。
1学期より難しくなったから。
頭が疲れるから。
○ 好きになった理由
難しい問題もあったけれど、できたときうれしかったから。
すらすら計算できるようになってきて、自分で決めた1学期の目標が達成できたから。
よくわからない問題でも、先生に教えてもらったり、自分でよく考えたりしたら解けたから。
難しい問題もあるけど、考えるのが楽し
くなったから。
1学期の勉強が楽しかったから。
○ 嫌いになった理由
苦手な文章問題があったから。
好きなところもあるけれど、少し難しいところもあったから。
だんだん難しくなったから。
かけ算は得意だけど、わり算(特に、あまりのあるわり算)はすらすらできないから。
ひき算が苦手で、時間がかかってしま
うから。
○ 好きになった理由
計算が好きだから、楽しいから。
夏休みに苦手なところを勉強したから。
どうしたら問題が解けるか考えられるから。
問題が解けたとき、すごくうれしいから。
○ 嫌いになった理由
計算がめんどうくさい。
文章問題が解けないから。
勉強が少しずつ難しくなってくるから。
わからない問題がたくさんあるから。
○ 好きになった理由
「たのしい」「そんなんだ」と思えたから。
先生がていねいに教えてくれたから。
わかりやすくて楽しかったから。
やり方がよくわかるようになったから。
勉強したらよくできるようになったから。
○ 嫌いになった理由
・だんだん難しくなったから。
・図形の問題があって難しかったから。
・計算が苦手だったから。
・覚えないといけないことがたくさん出て
 きたから。
・意外に難しいので。


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4 少人数指導に対する保護者の反応
授業参観後に寄せられた保護者からの感想から。
3年生は、今年度から3クラスになったため、1クラス40人で多くなったということを子どももいろいろな場面で感じているようです。今日は3人の先生(※)について頂き、いろいろフォローがされていたように思います。・・・・
(※)担任、少人数、基礎・基本定着推進事業補助教員の3人によるTT
参観した授業では、クラスの子どもたちに3人の先生(※)がかかわって下さっていました。それぞれの子どものノートを見ながら理解度を確認して、個別に指導して下さっていたことは、一つ一つ確実に理解ができていないと今後困るであろう3年生の段階での課題を、わからないまま過ごすことが少なくなり、とてもよいことだと感じました。
 親としては、一人の先生だけの授業のときより、より多くの先生にかかわって頂けることは安心してまかせられます。ゆとりの教育になり、子どもたちの学ぶ力が落ちているなどと聞きますが、多くの先生方にかかわって頂き、一人ひとりに応じた教育を望みます。ただ、できない子ばかりに集中的にかかわるのではなく、それぞれの子を伸ばして欲しいと期待しています。
(※)担任、少人数、基礎・基本定着推進事業補助教員の3人によるTT
少人数指導をされているので、子ども一人ひとりに目が行き届いていると思いました。子どもたちも先生が来られたとき、わからないところなどが聞きやすいように思いました。
先生が2人おられるので、子どもたちの゛待つ時間゛がなくされ、時間が有効に使えていたように思います。
小数の学習で、後半の時間、前後2グループに分けて、プリントで確かめながら取り組むの見て思ったことは、子ども一人ひとり意欲的に問題に取り組んでいたところ、子どもが「解けた!できた!」と声があがっていたところが大変良かったと思います。(子どもたちが生き生きしていた)
 先生も机を(子どもの様子を見ながら)順番にまわりながら、声かけ、丸つけ、どこまで理解しているのか先生自身も理解できるし、一人ひとりを大切にした授業ができるなど、グループに分けてするといい点があるようです。
 子どもも、先生に声かけしてもらえるのがうれしいようです。我が子は進んで発表するのが苦手なようなので、゛花マル゛゛100゛をつけてもらうとき、とてもうれしそうで自信につながるみたいです。
 今後も、子どもたち一人ひとりを大切にした授業の取り組みをお願いいたします。
・・・我が子に聞いてみると、少人数の方がわからなかったとき、ききやすい」と話していました。一斉指導より、少人数指導を取り入れた授業の方が、より子どもたち一人ひとりに目が届くし、子どもたちも゛先生に「ここがわからない」とききやすい→わからない部分がわかる→算数が楽しい ゛ということになるのでは?と思います。
私たちが小学生だった頃の授業は、わかった子、わからない子がいる中、一方的に授業が進められていたように思われますが、今日の授業では、算数担当の先生と担任が教室を回り、それぞれの子どもの理解度をはっきりとつかむことができ、とても良かったと思います。数人の子どもが前で自分たちの考えを説明したり、理解した上で、すぐその場で問題を数々解いていったり、授業がとても効率よく進められていて、見ていて楽しかったです。
先生一人に対して、生徒30人あまりでは、子どもによって理解度も違うので、それが半数に減って見て頂くことでずいぶん違うと思う。
 同じ問題を解くにしても、時間をかけてじっくりやる子や、かんちがいをしている子等いろいろあると思うので、先生の目が行き届き、個々の状態がよくわかり、とてもいいことだと思います。
いつもお世話になっております。この度の授業をとても楽しみにしておりました。少人数クラスを3年生から経験している子どもたちはそうでもないのかもしれませんが、やはり一人ひとりに目をかけて頂いて、発表の場も多くなるこの指導形態を、とてもありがたく思っております。今回の授業は、私自身が゛分数のわからない子゛のつもりで聞いておりました。・・・・・
少人数指導が導入されて4年目ではじめて参観することができ、当日、とても楽しみにしておりました。算数の新しい分野での学習を15人位を一人の先生が教えられ、確かに先生の目も行き届き、子どもたちの間を一人ひとり何度ものぞき込んで指導され、目的がより達せられている取り組みだなと感じました。・・・・・子どもたちの色々な面での力が、これからもますます伸びていけるよう、大変だとは思いますが、よろしくお願いいたします。
・・・一人ひとりに目が届き、子どもたちみんなが理解するまで指導されているようで、安心しました。これから算数は特にきびしくなり、一度つまずくとますます苦手な教科になりやすいので、少人数制の授業はとても有意義で、心強いものと感じました。


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5 成果と課題
(1)成果
@児童
指導形態を工夫することで、子どもたちの算数の学習に対する意欲的な取り組みを喚起することができ、進んで発表し「わかった」「できた」と感じる児童が増えている。
つまずきに応じた個々へのきめ細かな指導により、わかる・できる児童が増え、学年に応じた計算が速く正確にできるなど、基礎学力の定着が見られる。
学習形態(1クラスが分かれて学習する)になじんできた
高学年においては、担任以外の教師と学習をする中学校での教科担任制にむけての移行期として有効である。
常に教師の目が届き質問しやすくなるので、情緒的に安定し、落ち着いて学習に取り組むことができた。
A保護者
安心感(じっくり声をかけてもらえる、丁寧に教えてもらえる)を抱いている。
保護者自身が少人数指導を経験したことのないので、学習の形態や流れなど、授業の仕方に興味を持ち、授業参観への関心も高い。
算数だよりや、参観日等での課題別・習熟度別の授業参観を通して、保護者の理解を得ることができた。また、保護者の期待も大きい。
B教師
話し合いの時間を持つことで、教材研究に幅が広がり、学習内容の多面的解釈、学習方法の多様化などが進んだ。
同一学年内において評価基準の一層の統一が図れたと同時に、授業時数が確保できることで、一定レベルの指導内容、指導の質が保証できた。。
多くの教師が関わることで、児童の成長や日々の学習でのつぶやきを多面的に、かつきめ細かに理解することができ、柔軟な対応ができるようになった。
指導すべき内容、児童の実態による湯田小としての学習方法・形態が確立しつつある。
(2)課題
@自ら求める子
少人数ならではのきめ細かな指導もやり方によっては、児童を受け身的にサポートを待つ姿勢に陥らせることになるが、問題解決に向けて自らが求めていこうとする姿勢を育てることが大切である。
自らの考えを友達に伝え合ったり、教え合ったりすることで、個々の学びはより確かとなる。学習集団での発表や交流など子ども相互のコミュニケーションを今後も大切にし、集団で学び合う場を工夫すべきである。
学びの場の工夫にあたっては、その基盤となる総合的な力(意欲・態度・話す・聞く…)が不可欠であり、読書活動、モジュールでのドリル的な学習、個別指導の時間など、本校に根付いたものを継続していきたい。
Aきちんとできる子
基礎基本のさらなる定着を目指し、学習内容における基礎的計算技能などを今後も大切にしていきたい。
基本的な操作活動の技能(紙を切る、定規で線を引くなど)を低学年を中心として確実に身につけさせたい。
B見守るまなざし
・児童の学習意欲を高める上で、友達の考えを認め合う学級集団温かい人間関係の育成に今後も努めていかなければならない。
C魅力ある授業 <確かな指導力>
・効果的な指導形態の研修を深めるためにも、教科の特質をとらえ、児童にとって満足感と成就感のある授業づくりを大切にしていきたい。
・学級担任同士、担任と少人数担当との打ち合わせ時間を確保すること、また、見いだすことが今後も必要である。
・せっかく根付いてきたこの指導形態を今後も継続するために、加配教員の確保等ハード面の整備にも努めていきたい。


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6 校長から見た指導のポイント
(1)「生きる力」を育む上で、「確かな学力」の形成は豊かな心の育成と不可分であり、相手を思いやる心の豊かさにつながるような学力形成を目指す。

(2)分かる・できる学習を支えるのは、子ども同士の前向きで安心できる関わり合いである。子どもが友だちと関わりながら生き生きと学び、やる気を高めるような『学びの場』を創りだす。

(3)教師の役割りは、やる気を高め、生き生きした学習が生まれるような子ども同士のいわば“上向き”の関わり合いを組織することである。

(4)一つの学級をどのような小集団にするかは、教育的に配慮を要するところである。子どもの実態を基に、単元の特質や指導者の力量など具体的条件を考慮し分ける。

(5)少人数指導においても授業づくりで大切な事は、教師の教材研究と教材開発である。操作活動や体験活動など、子どもがわかるプロセスを大切にした学習を仕組み、「学ぶ力」を育てたい。


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