学力向上フロンティアハイスクール               〔高校教育課〕

3年間の体系的なキャリア学習プログラムの開発 
                       −山口県立下関中央工業高等学校−

1 学校紹介本校でのキャリア教育3 学習プログラムのテーマと能力領域4 キャリア学習プログラム5 成果と課題校長からみた指導のポイント

実 践 の ポ イ ン ト
教育活動全体をキャリア教育の視点から見直す。
発達段階に応じた組織的・系統的な学習プログラムを作成する。
教員全体のキャリア・カウンセリング能力等の資質を向上させる。
地域の協力を得る。

1 学校紹介
 
 本校は、明治43年(1910年)開校以来、一貫して職業教育の推進と発展に力を注ぎ、社会に有為な人材を輩出してきた。
 下関市内中央部の文教地区に位置し、施設設備の充実した、すばらしい教育環境の下、学習と部活動の両立を図りながら、意欲あふれる工業技術者の育成に努めている。
 設置学科は、機械・造船科、建築科、土木科、化学工業科である。平成10年度から「一括くくり入学」、「進学コースの設置」を導入し、下図のような教育システムとなっている。
 卒業後の進路先は、約7割の生徒が就職し約3割の生徒が進学している。就職者の約7割が県内に就職し地元への貢献が高い。進学については進学者の半分が四年制大学・短期大学・高専編入で、残りの半分が専門学校への進学である。毎年3〜5名国公立大学へ合格している。
 このように本校は、「特色ある工業高校」、「生徒中心の教育」をめざして、日々教育改革に取り組んでいる。

教育システム図

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2 本校でのキャリア教育

平成9・10年度文部省教育課程研究指定を受け、「教育改革実行委員会」を組織し、学校改革を実施した。平成10年度入学生から「一括くくり入学の導入」「進学コースの設置」を行った。「工業に関する学科」としてくくり入学した1年生に「学科・コースの選択指導」を1年間かけて行っているが、これはまさしくキャリア教育であるといえる。
平成13・14年度キャリア教育実践モデル地域指定事業(文部科学省)を受け、種々のキャリア講話(企業経営者、労働行政、年の近い卒業生等)を開催した。特に平成14年度からは本校独自で2年生全員によるインターンシップ(2日間)を実施した。
平成14・15年度高大連携教育下関地域実践研究会(山口県教育委員会)の指定を受け、進学コースの生徒を中心に大学訪問・出前授業等を多く行った。
平成15〜17年度学力向上フロンティアハイスクール事業(文部科学省)を受け、インターンシップやキャリア講話等の一過性のイベントだけでなく、教育活動全体をキャリア教育の視点から見直し、発達段階に応じて、組織的・系統的にキャリア教育を推進するための、3年間の学習プログラムを開発することにした。

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3 学習プログラムのテーマと能力領域
 3年間の学習プログラムの策定にあたり、発達段階を考慮して、次のテーマと達成目標を設定した。
 
学年のテーマと達成目標
学 年 テーマ 達 成 目 標
1学年
 
探 索
 
自己の個性を理解するとともに、職業全般に関する知識を増やし、進路の方向性を選択する。
2学年
 
行 動
 
目標とする職業に関する体験的理解を深めるとともに、勤労観・職業観を確立していく。
3学年
 
実 現
 
進路を決定し、その実現に向けて取り組む。また、決定後、将来のライフプランを具体的に設計する。

 また、それぞれの学年の目標を達成するための学習プログラムを考えるとき、下表の進路発達にかかわる4つの領域・能力で見直すことが重要である。この領域を考慮しながらキャリア教育学習プログラムを作成し、評価・改善を行った。
 
進路発達にかかわる諸能力
領 域 領 域 説 明
人間関係形成能力   他者の個性を尊重し、自己の個性を発揮しながら、様々な人々とコミュニケーションを図り、協力・共同してものごとに取り組む。
 ・自他の理解能力
 ・コミュニケーション能力
情報活用能力   学ぶこと・働くことの意義や役割及びその多様性を理解し、幅広く情報を活用して、自己の進路や生き方の選択に生かす。
 ・情報収集・探索能力
 ・職業理解能力
将来設計能力
 
 夢や希望をもって将来の生き方や生活を考え、社会の現実を踏まえながら、前向きに自己の将来を設計する。
 ・役割把握・認識能力
 ・計画実行能力
意志決定能力
 
 自らの意志と責任でよりよい選択・決定を行うとともに、その過程での課題や葛藤に積極的に取り組み克服する。
 ・選択能力
 ・課題解決能力
 
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4 キャリア学習プログラム
 学年のテーマや4つの能力領域を考慮しながら、下表の3年間のキャリア教育学習プログラムを作成し、これをもとに修正・追加を行っている。

本校のキャリア教育学習プログラム表
学 年 1学年 2学年 3学年
テーマ 探 索 行 動 実 現
領 域 実際の学習活動と発達が期待される具体的能力

人間関係
形成能力


 
◎新入生オリエンテーション
◎職業適性検査
◎挨拶の励行
◎体育大会
◎中央工祭(文化祭) 
◎インターンシップ
(異年齢とのコミュニケーション)
◎インターンシップ発表会
◎挨拶の励行
◎体育大会 
◎中央工祭(文化祭) 
◎キャリア講話
(社会人としての礼儀やマナー)
◎課題研究及び発表会
◎挨拶の励行
◎体育大会
◎中央工祭(文化祭) 

情報活用
能力



 
◎選科ガイダンス
(学科・コースの説明・見学)
◎工業技術基礎
(ローテーションで体験)
◎キャリア講話
(ハローワーク)
◎職業調べ 
◎インターンシップ
(事業所調べ・理解、ノートの整理)
◎キャリア講話        (年の近い卒業生)
◎工場見学
◎大学体験講座
 
◎進路ガイダンス
(就職・進学の方法や手続き)
◎進路情報
(求人会社、受験学校)
◎オープンキャンパス
 

将来設計
能力

 
◎学科・コースの選択
(自分の適性・進路を考えながら)
◎資格試験への挑戦 
◎インターンシップ
(社会での果たすべき役割を自覚、目標に向けてやるべき課題)
◎資格試験への挑戦
 
◎ライフプランの設計
(進路決定から次のステップへの準備…キャリア・アップ・セミナー)
◎資格試験への挑戦 

意志決定
能力
 
◎学科・コースの決定
◎チャレンジ目標の設定
(自ら目標を設定し、実現に向けて努力する) 
◎チャレンジ目標の設定
(将来設計や進路希望の実現を目指して、課題を設定し、その解決に取り組む) 
◎キャリア・カウンセリング
◎進路の決定
(選択した結果に責任をもつ)
◎チャレンジ目標の設定 

 1年次の学習プログラム
 本校では、平成10年度入学生から「くくり入学」「進学コース」を導入している。選科ガイダンスにより、生徒は自己の適性を認識しながら、多くの情報を得て、自らの責任の下に将来の進路を考え、学科・コースを選択していく。また、決定に向けては、個々にカウンセリングを十分に行っている。
 また、「総合的な学習の時間」が導入されたが、本校ではテーマを「進路学習」として1年次に実施している。その中で選科ガイダンスやキャリア講話を組み込みながら、さらに自らの生き方・在り方について考える機会を増やしている。

 2年次の学習プログラム
 本校では、平成14年度から2年生全員によるインターンシップを実施している。本年度で4年目を迎えているが、一過性のイベント的なものに終わらせないように、年々、事前・事後指導の充実を図っている。
 事前指導では、キャリアコーディネーターによる講演や企業の安全担当者による講演を実施し、よりよい体験になるようにしている。
 事後指導では、感想文やアンケートを書くことにより、将来を考える材料としている。また、平成17年度から、3学期に1・2年生全員参加のインターンシップ発表会を実施している。これにより生徒のプレゼンテーション能力を向上させたいと考えている。
 さらに、学科・コースごとに、工場見学(大学体験講座)や年齢の近い卒業生を招いて講演会を行うなど、体験的な活動を多く行っている。また、PTAの企業見学会を実施し、保護者への啓発も行っている。


キャリア講話(インターンシップコーディネーター)

建築現場でのインターンシップ

 3年次の学習プログラム
 3年次では、まず、就職・進学の進路をそれぞれ決定していく。この進路指導は、今までと同等に大切なことである。
 本校では、平成15年度に、過去5年間本校生徒が就職した事業所にアンケートをとった結果、33.4%の者が離職しており、そのうち、50.3%の者が1年目に離職している。このことから、入社1年目を乗り越えれば、かなり早期離職が減少するものと考えられる。
 そこで就職者のほとんどが内定した後の11月頃のLHR等を利用して「職場生活の心得」「仕事の基本」「安全対策」等の内容を「キャリア・アップ・セミナー」と称して講話を行い、次の社会人へのステップへつながるものとしている。

 キャリア・アップ・セミナー

期  日 平成17年11月8、15、22日(火)
講  師 教頭、進路指導課長、3年学年主任
テキスト プロをめざす新製造社員のための「ものづくり百科」 日本HR協会
内  容 第1章 ものづくりの今
     ・ものづくりの役目   ・組織の仕組み
第2章 職場生活の心得
     ・社会人と学生の違い  ・職場で求められるもの
     ・やる気のバロメーター ・チームワーク
第3章 仕事の基本
     ・真心をこめて     ・話の聞き方   ・ほうれんそう
     ・失敗は隠さずに    ・仕事の手順   ・見て学ぶ
     ・目標を持とう     ・時間管理の重要性
第4章 生産職場の基礎知識
第5章 職場の安全対策
第6章 地球にやさしいものづくり

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5 成果と課題
これまで行ってきた学習活動をキャリア教育の観点(理念、学年のテーマ、4つの領域等)から、見直しながら整理し関係付けていくと、不足していた部分や改善点が見えてくる。
キャリア教育の「体験的な学習」や「キャリア講話」を実施するためには、地域の協力が必要である。それを得るためのメンバーを組織し、キャリア教育を推進していくべきである。
キャリア教育に必要な機能は、「キャリア・ガイダンス」と「キャリア・カウンセリング」に大別されるが、本校では「キャリア・カウンセリング機能」がまだまだ不足している。最終的なキャリアは生徒個々人のものであるため、このことは非常に重要なことである。そのためには教員全体の共通認識が必要となる。

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 校長からみた指導のポイント
就職・進学を問わず生徒の進路希望は年々多様化しており、また、進路をめぐる環境も大きく変化しています。
 このことは、本校のように職業教育を主とする工業高校においても同様であり、工業を学ぶ過程の中で、生涯に渡って生き抜く力を身に付けながら、自立できる存在としての進路実現を積極的に支援することがますます重要になってくると思います。
本来、工業高校では、将来、ものづくりを担う有為な人材を育成するという目標のもとで、ものづくりを通した人づくりを合い言葉に、日々の学習活動が行われていますが、このような教育は、決して工業科の教員だけが行うべきものではなく、学校全体の教育力が有機的に働いてこそ効果的な成果が得られるものです。
本校では、このたびの研究で開発した「キャリア学習プログラム」をより効果的に実践し、併せて、学習指導、総合学習、特別活動のそれぞれがつながりあった教育活動として行われてこそ、有益なものとして生徒に機能すると捉えています。
 今後は、こうした取組みを全校挙げて組織的に行い、毎年の検証を加えながらの指導体制を作り上げていくことが重要なポイントと考えます。

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