学力向上フロンティアハイスクールの取組み             〔高校教育課〕

進路意識の高揚と学習意欲の向上に向けた授業改善 
                       −山口県立下関南高等学校−

1 学校紹介2 教科における指導の研究3 学習意欲を高める指導の研究4 将来の生き方や進路の適切な選択決定の指導の研究5 成果と課題校長からみた指導のポイント

実 践 の ポ イ ン ト
授業研修プロジェクトによる授業改善
生徒による授業評価を生かした授業改善
LHRや総合的な学習の時間を活用した進路意識の高揚と履修指導

1 学校紹介
 
 本校は、明治38年に創立された下関市立下関女学校を前身として、以後いくつかの変遷を経て現在に至り、平成17年に創立100周年を迎える歴史と伝統のある学校です。
 平成13年度にホームルーム棟が建て替えられ、古い樹木に囲まれた新築の校舎で学校生活を送っています。
 平成15年度より全日制単位制高校へ移行し、多くの選択科目から自分の興味・関心や希望進路に適した科目を自分で選ぶことができるようになるとともに、総合的な学習の時間の活用により自分の未来像を描き、行き届いたガイダンスにより進むべき道を探すサポート体制も整えられています。
 生徒の95%が進学をめざしていますが、部活動も盛んです。学校行事においても生徒の自主性を支援し、明るく活発な活動が行われています。
 単位制への移行と並行して学力向上フロンティアハイスクール事業の指定を受け、「進路意識の高揚と学習意欲の向上に向けた授業改善」を掲げ研究を進めることで更にこうした体制を充実したものにするために取り組んでいます。

校門から見た下関南高校

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2 教科における指導の研究

 授業研修プロジェクト
 
 授業研修プロジェクトとは、年度当初に前年度の反省をもとに、各教科年間指導目標を設定し、観点別評価を含んだシラバスを作成して生徒に配布する。

 シラバス内の観点別評価の例(英語T)
評価の観点 観 点 の 趣 旨
関心・意欲・態度
【関】

コミュニケーションに関心をもち、積極的に言語活動を行い、コミュニケーションを図ろうとしているか。
理解の能力
【理】
 
日常的な話題について、英語を聞いたり読んだりして、情報や考えなど相手が伝えようとすることを理解することができるか。 
表現の能力
【表】
 
日常的な話題について、情報や考えなど伝えたいことを英語で話したり、書いたりして表現することができるか。
知識・理解
【知】
日常的な話題についての英語の学習を通して、言語やその運用についての知識を身に付けるとともに、その背景にある文化などを理解しているか。
評価の方法(上記の四つの観点から学習評価をします)
1.中間と期末の定期考査の成績、小テスト、課題レポート、プリント、演習ノートなどの提出物、学習活動への取組みなどにより評価します。
2.学習全体の評価は、【関】は10%、【理】は20%、【表】は20%、【知】は50%の配分で行います。
 
 そして、すべての教科において年2回(6・11月)、生徒による授業評価を実施し、各評価後の教科会議で、次回へ向けた課題の設定、授業改善の目標の設定を行い授業改善に努めていくものである。
 また、すべての教科で年1回の研究授業を実施することを通して授業改善にも努めている。

 授業評価質問表
 
 生徒の皆さんへ
 このアンケートは、南高の授業をよりよいものにしていくためのアンケートです。授業について尋ねるものですが、授業は教員側だけの努力で成立するものではありません。君たちが予習・復習をきちんとして、授業に対して真剣な態度で臨んで初めて成立するものだということも頭に入れてアンケートに答えてください。決して、先生の好き嫌いだとか、自分たちの状況を無視して答えないようにしてください。教科によっては裏もあります。
 以下の質問で「1」を付けた場合には、右側にその理由を書いてください。
  
実 施 日   月  日  限 年 ・ 組
授 業 名    教科担任名  
 基準    4…そう思う・そうである         3…どちらかといえばそう思う
       2…どちらかといえば・そう思わない    1…そう思わない・そうでない
質問項目  あなたの意見・判断  「1」をつけた理由
(1)私は、チャイムが鳴った時に着席している(移動教室の場合、移動を完了している)。 4−3−2−1  
(2)私は、チャイムが鳴ったとき机の上に教科書など授業を受ける態勢は整っている。 4−3−2−1  
(3)私は授業に関するものをきちんと持ってきている。 4−3−2−1  
(4)私は、授業中、私語をしない。 4−3−2−1  
(5)私は、授業中、居眠りをしない。 4−3−2−1  
(6)私は、授業中、別のことをしない。 4−3−2−1  
(7)私は、授業の予習・復習ができている。 4−3−2−1  
(8)私は、自らの予習・復習を踏まえて授業が理解できている。 4−3−2−1  
(9)先生の説明の仕方は、わかりやすいですか? 4−3−2−1  
(10)先生の授業の進め方(スピード)はちょうどよいですか? 4−3−2−1  
(11)シラバスがこの授業の年間計画を理解する上で役立っていますか? 4−3−2−1  
(12)シラバスがこの授業でどう評価をされるのか理解する上で役立っていますか? 4−3−2−1  
 
 実際の授業研修プロジェクトの流れについて、世界史を例にみていくことにする。

(1)「世界史」の授業目標
    ア 歴史的思考力の育成
    イ 入試に対応した学力の育成

(2)授業評価(6月)における結果
 「考える世界史・歴史的思考力を身に付けるという教科の目標に関して、入学以前と比べて力はつきましたか」という問いに対して以下のような結果であった。3分の1程度の生徒は目標に達していると考えられるものの、目標達成に向けて2学期以降の授業改善が必要と感じられた。

 授業評価(6月)の結果
 
問 考える世界史・歴史的思考力を身に付けるという教科の目標に関して、入学以前と比べて力はつきましたか
(3)2学期に向けての教科検討会 
 レポート等により、3割弱の生徒は考えるようになったが、授業の中でさらに考える場面を設定する。

(4)2学期の授業実践  
 日常の授業の中で、図版やグラフの読み取りを通じて、「なぜ?」を大切にすることで歴史的背景や原因などを考えさせることができた。
 研究授業の「世界恐慌とファシズム」では、次の指導案の評価の観点に見られるように、思考・判断に重点を置いた展開を心がけた。これは日常の授業でも心がけている点である。 

 観点別評価の方法を示した研究授業の指導案(抜粋)
展 開  ウォール街の暗い木曜日

世界恐慌期の各国の工業生産の推移のグラフから世界への拡大の様子をみていく。
なぜ世界恐慌が起きたのかを考えさせる。

世界恐慌がアメリカで起きた背景について理解させる。
グラフの読み取りをさせる。

アメリカで起きた事が世界に拡大した理由を考察させる。
1920年代と関連付けて世界恐慌を考えようとしているか(関心・意欲・態度)。

世界恐慌発生の背景を多角的に考察しているか
(思考・判断)。
グラフの読み取りができているか(資料活用の技能・表現)。
恐慌拡大の理由を多角的に考察しているか(思考・判断)。

 「WORLD HISTORY-A」の発行により、現在の社会について自ら考え、表現する取組みを行なった。
 テーマ学習「現代から考える植民地」の中では「調べる−討論する−模造紙に書く−発表する」という作業を通して、考えることに重点をおく学習ができた。

 テーマ学習での発表場面

(5)授業評価(11月)とその後
 11月に実施した授業評価の結果は、次のとおりである。結果として、多くの生徒が考えるようになってきたと言える。今後の授業において、考える作業を効果的に取り入れていくことが大切だと考える。

 授業評価(11月)の結果

 入学時学習オリエンテーションの計画・実施
 
 本校に入学する生徒の実態として、家庭での学習習慣が確立していないことが課題となっていた。
 そこで、入学時から2学期当初までの間、英語・数学・国語の3教科において、予習−授業−復習のサイクルを体験させる試みを実施した。
 国語の実践例
1時間目

(1)まず予習・復習の必要性を改めてプリントを配布して説明して、その大切さを強調するとともに、7月実施の模  擬試験の結果をもとに、関連内容の理解と、学習していく力と偏差値について説明した。
(2)そして、実際に予習の仕方を説明し、取り組ませた。予習の内容は、以下のとおりである。
 ア 漢字の読み方をどう調べるか(漢和辞典の使い方ほか)
 イ 言葉の意味をどう調べるか(辞書的意味と文脈上の意味)
 ウ 教科書への書き込みをしよう
  (ア)指示語とその内容 
  (イ)接続語の扱い 
     言い換え・対比・因果関係
  (ウ)言い換え言葉を探そう
     繰り返される言葉がキーワード(話題)
  (エ)対比されている言葉を探そう
     論説文の基本は「比べて評価する」
 エ ノートの使い方
  (ア)上段に内容のまとめを書き、下段に言葉調べを書き込み、図にして表そう
  (イ)図にしたことを要約文にまとめよう

2時間目

(3)板書形式の授業を初めに行った。授業では、指名して、応答形式で範囲の音読や予習内容にそった質問と板書を  行った。
(4)残りの時間で復習の仕方と次に向けての予習の取組みを行なった。復習の内容は、以下のとおりである。
 ア 教科書への書き込みや訂正
 イ ノートの訂正や整理

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3 学習意欲を高める指導の研究

 「総合的な学習の時間」を活用しての指導
 
 「未来工房」と名付けられた本校の「総合的な学習の時間」を利用して、大学等の先生方の出張講義を通じて社会問題への興味・関心を高めるとともに、各教科への興味・関心を高める指導を行った。

 
「未来工房」のカリキュラム
 
学年 テーマ 実施内容
1年
−自分探しの道−








 
はじめに
 
南高の総合的な学習の時間のガイダンス
ポートフォリオ評価について
自分探しの道に


 
(1)自己理解
(2)職業研究
(3)学問研究
オープンキャンパスへ行こう
社会問題から進路を考える

 
(1)視野を広げる
  (小論文)
(2)課題研究
おわりに
 
1年次振り返り
2年次に向けて
2年
−自己実現の深化−



 
自己理解の深化へ
 
(1)国際理解を通じた自己理解
(2)学部学科研究
社会問題から進路を考える
 
課題研究(ディベート含む)
視野を広げる(小論文)
おわりに
 
2年次振り返り
3年次に向けて
3年
−夢の実現へ−

 
自己理解 自己理解
進路研究 進路研究
夢の実現へ
 
(1)勝負ポートフォリオ作成
(2)小論文

 また、この時間を進めていく上で、総合的な学習の時間の進め方、パワーポイント、小論文指導など教員のスキルアップ研修会をいくつかもつことで生徒の興味・関心を失わせることなく指導できるようにした。
 出前講義1  出前講義2

 授業評価の結果を通じての教員の指導の工夫
 
 授業研修プロジェクトの一環として行われた「生徒による授業評価」を通じて行われた授業改善の過程の中で、学習意欲を高める指導の工夫が行われた。
 学力向上フロンティアハイスクール事業アンケートの結果においても、70%の教員・生徒から肯定的な回答を得ており、生徒による授業評価の実施が授業改善につながっているといえる。

 学力向上フロンティアハイスクール事業 アンケートより


問(教員へ)  学習意欲の向上に努めた授業展開がなされていますか。  

問(生徒へ) 先生方は学習意欲の向上に努めた授業展開をしていますか。

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4 将来の生き方や進路の適切な選択決定の指導の研究

「総合的な学習の時間」を活用しての指導
 
 「総合的な学習の時間」を利用し、1年生は卒業生による講演や職業研究・課題研究を通じて、2年生は国際ボランティア活動を実践された方の体験談や学部学科研究・ディベートを通じて、自らの進路や生き方についての興味・関心を高める指導を行った。また、小論文日誌を行うことで日常的に社会に目を向けさせることができた。
 「総合的な学習の時間」に積極的に実施することにより、進路を考える上で参考となる外部の催し物に積極的に参加する生徒も出てきた。具体的には、1年生は全員参加を義務付けているが、2・3年生も積極的にオープンキャンパスに参加したり、国際関係に興味のある生徒がアジア高校生会議、JICA中国の高校生国際協力体験プログラム、JICA九州での研修員との交流プログラム、様々な韓国への研修旅行に参加したり、農学部に興味・関心がある生徒が、滞在型農村・農業体験へ参加したり、医療・福祉系に関心がある生徒が看護体験や介護体験に参加したり、総合的な学習の時間をきっかけに、ディベート甲子園中国大会へ参加したりするようになった。
 このような校外の活動を通じても、自らの進路について考えを深めることができ、履修指導を進めていく上で、「総合的な学習の時間」とともに大いに役立っている。
 課題研究発表風景  ディベートの風景
  JICA中国の高校生国際協力体験プログラム




 履修指導の計画・実施

 平成15年度の単位制以降にともない、今までのコース・科目選択よりもきめ細かな履修指導が必要となってきた。そこで、履修指導を含めて、学校生活全般にわたる「ハンドブック」を平成15年度から作成している。
 また、保護者向けにも学校生活全般について記した「保護者のための便覧」を作成し、入学時に配付している。

 ハンドブック目次

  はじめに
 [第1部]下関南高校の概要、高校生活について
    1 学校の沿革概要
    2 校歌
    3 校訓と教育目標 南高が目指すもの
    4 高校生活の心構え
 [第2部]学習、履修登録について
    1 学習について
    2 履修登録について
    3 教育課程表
    4 講座一覧表
    5 進路別講座グループ表
 [第3部]講座科目の案内(シラバス)
    (略)全教科掲載
 [第4部]各分掌から
    (略)全分掌・事務室掲載 
 履修指導は、主にLHRと個人面談を通じて実施しており、本校の履修手続きは以下のとおりである。
 1年次に文理分けを行う。1・2年生ともに1学期のLHRで説明を重ね、6月の個人面談を経て仮登録を済ませる。その後、夏季休業中の保護者会において保護者を交えて話し合い、9月〜10月にLHRや個人面談等を通じて本登録するという流れとなっている。
 履修指導の中心として用いるのがハンドブックであるが、各クラスの足並みをそろえるため、1学期には履修指導について話し合う学年会を週一回設定した。
 また、担任による個人面談だけでなく、平成16年度からは、各学年に2名ずつガイダンスアドバイザーを設置し、個人面談を強化した。
 それ以外にも、研究研修部・教務部・進路指導部の教員の協力を仰ぎ、多数の教員による相談の機会を提供した。
 このような取組みにより、生徒は多くの先生方と相談する機会を得て、様々な角度から進路希望・履修登録を考えることが可能となった。

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5 成果と課題
 成 果
本事業を通じて、授業評価の必要性、シラバスや観点別評価の必要性・総合的な学習の時間の重要性などについての教員・生徒の意識が変化した。
学習意欲の向上に努めた授業展開がなされ、授業を意欲的に受ける生徒が増えてきた。
学習習慣の必要性の理解が深まった。
総合的な学習の時間が進路意識を高めるのに役立っている。

 課 題
年間指導目標の不徹底やシラバスの年間を通しての活用が不十分である。
授業アンケートによると、授業改善についての生徒と教員の意識の差がある。
学習習慣の必要性は理解されたが、予習―授業―復習のサイクルの定着が不十分である。
生徒が多くの教員に相談できる仕組みを作ったことで、教員間の連携を十分に図っていく必要がある。

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 校長からみた指導のポイント
授業研修プロジェクトや生徒による授業評価、観点別評価等を有効に取り入れ、教員の意識改革や連携を深め、授業改善の工夫を図ること
「学び方指導」を通して、「予習―授業―復習」のサイクルを重視した学習スタイルを確立し、学習習慣の定着を図ること
「未来工房」の効果的な活用により、生徒の興味・関心や進路意識の高揚に努め、進路目標を明確にするとともに、担任やガイダンスアドバイザーによる個人面談を充実し、生徒一人ひとりの夢の実現を図ること


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