学力向上フロンティアハイスクールの取組み                〔高校教育課〕

進路研究を軸に学習意欲を高め、自学自習を促す取組み
−山口県立下関西高等学校−

 1 学校紹介  2 研究内容  3 成果と課題  校長からみた指導のポイント

実 践 の ポ イ ン ト
様々な情報の提供により、生徒一人ひとりの目標設定を支援し、自らが学習の意味を見いだすことで自主的な学習が進んでいくことをねらいとする。
どのような情報提供が有効か、どの時期に実施するのが効果的であるかを検討してきた。

1 学校紹介

(1) 校風
 本校では、「自主・自律」や「自学・自習」の精神に支えられた自主性を大切にする校風が伝統である。大正9年の創立以来、多くの卒業生が国内外で活躍している。

(2) 教育目標
 校是「天下第一関」のもと、高い知性・豊かな情操・強い意志・健やかな身体を育み、円満な人間性と社会性とを備えた真に次代を担うにふさわしい人材の育成をめざす。
 
 生徒の目標としては次の5項目を掲げている。
次代を背負う有能で良識ある社会人となるために、高い知性と豊かな情操と強い意志とを養って円満な人格を完成するように努める。
高校生として必要かつ十分な学力を備えるために、能率的で計画性のある自学自習の態度を身に付けて、たゆまず勉学するように努める。
明るい生活の支えとなる強い身体と正しい心を育て上げるために、自覚的管理ときびしい自己反省とを心がけつつ、心身両面の鍛錬に努める。
積極的かつ自治的な生徒会活動の推進を通して、団体生活における権利義務の正しい遂行の仕方を学びとるように努める。
母校の光輝ある歴史と伝統とを尊びつつも、その上に改善向上の工夫を加えることを惜しまず、天下第一関たろうとする理想の実現に努める。
※「天下第一関」は次の2つの意味を併せ持っている。
  ・天下第一の関中(西高の前身)たれ。   ・中等教育は人生第一の難関、これを克服せよ。

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2 研究内容

(1) 3年間の総合的な学習の時間の展開

[概 要
 3年間を通じて、進路探求や知的生産に必要な次の内容を骨組みとする計画を立てて授業を展開する。
 ○ 自分について知る。(自己知)
 ○ 社会について知る。(社会知)
 ○ 表現方法について知る。(方法知)
 
 各学年で扱う内容と時間数及び担当は次のとおりである。
 

 職業研究や大学研究においては、書物あるいはインターネットを利用した調べ学習の他に、現在活躍中の職業人から直接話を聴いたり、オープンキャンパス参加に学年で取り組んだりして、より具体的なイメージがつくられるようにしている。この過程で自分の興味・適性を確認するなど自己を深く見つめることになる(自己知)。
 また、小論文やディベートにおいては、社会の抱える問題点などを分析し(社会知)、それに対する自分の考えをまとめて表現する力を養う(方法知)。
 さらに、興味・関心の高い事柄を自分のテーマとして課題研究を行い、この総合的な学習の時間のまとめとしている。

<指導体制>
 指導原案は総合部で作成され、担当者(副担任または学年全体)との打ち合わせが行われる。内容によっては会合を開いて、細かい調整がなされる。生徒一人ひとりの実施記録は授業記録シートに記入され、担当者がそれをチェックする。
 また、生徒がこの時間に扱った資料やレポートなどはすべてポートフォリオ化され、担当者はポートフォリオ及び授業記録シートを基に評価を行う。

<課題研究>
 2年の後半から3年にかけて行われる課題研究は、生徒の希望進路に応じて次のようにグループ分けをする。
 1 教育  2 人文科学  3 社会科学  4 芸術・体育  5 工学  6 理学 7 生物農学  8 医療保健  9 生活科
 テーマの設定や発表活動などの節目の活動はこのグループ単位で行い、調査や論文作成活動についてはクラス単位で実施する。2年生ではテーマ探し・資料収集を行い、3年生で本格的に取り組む。

<指導展開の流れ図>

(2) キャリアセミナー及び大学における体験学習

[概 要]
キャリアセミナー
 
(1年生全員対象)  
希望講座調査(6月)→ 講師選定・依頼(講座確定)→ 2講座聴講(10月)
大学における体験学習
 (理数科1・2年生対象)  
1年生 山口東京理科大学(11月)
2年生 山口大学医学部(8月)  九州工業大学工学部(11月)

<キャリアセミナー>
 キャリアセミナーの目的は、生徒が早期に職業への意識を強くもち、主体的に進路を決定していく過程を援助することにあるので、1年次に実施する。6月に話を聴きたい講座の希望調査を行い、その結果をもとに講師を選定して依頼する。生徒は確定した講座から2つを選択して聴講する。本セミナーは単に職業の紹介に留まらず、社会における自己の生き方を考える機会にもなっており、その意義は大きい。以下に、平成16年度の実施要領の概略と分科会の一覧を示す。

[実施要項]
対象 1年生 240名
日程 2学期中間考査直後の金曜日 2限〜4限の時間帯を利用する。
第1部(60分) 第2部(60分) アンケート(10分)
運営 全体の計画・運営については進路指導部が行うが、当日の進行は学年が担当する
事後指導 アンケートの他に感想文を提出する。さらに、参加した分科会に即したテーマ
で小論文を書く。

[分科会]
分 科 会 講 師 所 属 等

キャリアセミナー
1 法曹 法律事務所(弁護士)
2 税務 税理士事務所(税理士)
3 国際 代表取締役社長
4 公務員 市役所
5 マスコミ 新聞社(記者)
6 工学 大学助教授
7 コンピュータ 銀行システム部
8 農学 農学部獣医学科助教授
9 医師 脳外科医師
10薬剤師 病院薬剤師
11教育 県立学校教諭
12教育 小学校教諭
13芸術 画家

<大学における体験学習>
 年度当初に、1実施の可能性を打診し、2大学側の会議を経て内諾をいただき、3正式な依頼文書を送っている。(AとBが逆になる場合もある。)詳細な実施要項はメールに添付して送っていただく。メールと電話を併用し、連絡漏れなどがないように注意する。これまで実施した体験学習の概略は以下のとおりである。

1年理数科
 山口東京理科大学
ア 講義「熱を電気に変える仕組み」
イ キャンパス見学
ウ 実験実習「太陽電池パネルを使ったデモンストレーション実験」
エ 事後指導 レポート作成

2年理数科
山口大学医学部 九州工業大学工学部
ア 講義「大学で学ぶこととは」
イ 体験学習「人体組織の実習」
ウ 事後指導 レポート作成
ア 学内施設見学
イ 実験実習(10名×4班)
ウ 事後指導 感想文、実験実習のまとめ

(3) 小論文・ディベート

[概要] 
 社会の仕組みを理解し、その問題点を見極めて、自己と社会とのかかわりについて考える。
     
小論文  論理的な文章で表現することにより自分の考えを客観化し、他の人に理解してもらえる表現力を身に付ける。
ディベート  相対する考えを戦わせることで理解を深め、物事のもつ多面性を認識した上で自分の考えを確立していく。

<小論文>
 事前に小論文講演会を実施して講義を聴き、演習にも取り組む。

1 統一テーマでの小論文
 全員が「環境問題」をテーマにした小論文に取り組む。
  ア テーマ理解  イ 構想  ウ 下書き  エ 清書  オ 評価(相互・自己)
 それぞれ1時間ずつ、計5時間で構成する。
2 グループ別小論文
 興味・関心の強いテーマグループを選択し、その中で自分のテーマを決めて小論文を書く。以下に、グループ名と生徒が書いた具体的なテーマ例を示す。

[国際] 国際協力は必要か   
[現代社会] 古いものとの共存について
[文化文明] 若者の文化や人間関係の特徴  
[教育] 日本の教育について
[福祉] 現在の日本の福祉の在り方について
[情報・メディア] デジタル・デバイド
[科学技術] 著作権と科学技術
[政治経済] イラクへの自衛隊派遣について
[医療] 現代における医療の問題点について
 また、担当者で優秀作品を選び印刷・配布し、生徒・教員の参考にしてもらう。

<ディベート>
 ディベートについて学習を進めてクラス内でのディベートを実施し、さらにクラス対抗ディベートに取り組む。以下、その流れの概略を示す。
 なお、次の1〜8のうち7のみ2時間、他はそれぞれ1時間で実施する。
 
1 ディベートの概要を知る
 ディベート入門及び昨年度実施のビデオを 見せて、ディベートの流れの概略を理解する。
 
2 模擬ディベート
 模擬ディベートで各役割の生徒が原稿を読んでいく中で用語や流れの確認を行う。
 
3 クラス内ディベートの準備
 チーム作り、ブレインストーミングシートと リンクマップの説明・作成
 
4 原稿作成・シミュレーション
 各チームリーダーで肯定側か否定側かを決め 立論・質疑・応答・第一反駁・第二反駁の役及び司会を決める。リンクマップと役割に応じたシートを作成し、シミュレーションを実行する。
 
5 クラス内ディベート1
 机の配置を整え、フォーマットの時間割を板書して、ディベートを行う。論題は「西高はアルバイトを自由化すべきである」とした。
 
6 クラス内ディベート2
 前回のディベート担当と審判担当を入れ替えて実施する。
 
7 クラス対抗ディベート
 武道場・体育館・図書室を利用し、トーナメント形式で実施する。2時間続きの時間割を組む。論題は次の中から事前に決定された。
 ア 日本は夫婦別姓を認めるべきである。
 イ 日本は炭素税を導入すべきである。
 ウ 日本は原子力発電所の新規建設を止めるべき である。
 エ 日本は死刑制度を完全廃止すべきである。
 オ 日本は外国人労働者を受け入れるべきである。
 
8 クラス対抗ディベート決勝戦
 予選を勝ち抜いた2チームで決勝戦を行う。 論題は「日本は安楽死を法的に認めるべきである」で2年生全員でディベートの学習を締めくくる。

(4) シラバス
[概 要] 学年別に編集

[自主的な学習に役立つシラバスの作成]
 本校では、生徒自らが明確な進路目標をもち、その実現のために自主的・主体的に学習を進められるような環境を提供できるよう努めている。シラバスの作成に当たっても、自主的な学習活動に役立つように、授業内容にとどまらず勉強の仕方の基本に関する各教科からの助言を加えている。これを基にして自分なりの勉強スタイルを確立してほしいと考えている。さらに、1年生用には3年間の動きが見通せる授業計画概要を盛り込んでいる。
 また、書き込み可能な年間カレンダーを入れて、定期考査や模擬試験の位置を確認し、学習計画を立てやすいようにした。 教員にとっても授業計画として利用でき、実施した授業の記録や気付き・反省を書き込むことで、次年度の計画作りに生かせると考えている。
《学習方法の基礎》(例:数学)
1予習 予習をして授業にのぞむこと。
・教科書を一通り読み、教科書の問題を演習し、疑問点をはっきりさせておく。
2授業 学習の中心は授業である。
・集中して時間中に理解する。そのためには、疑問点はどんどん質問する。
・ノートはぎっしりつめないで、自分の解いた問題について解答の誤りを訂正したり、別解を書き込んだりできるように余裕をもっておくこと。
3復習 その日のうちに復習すること。
・宿題はその日のうちにする。
・内容がきちんと理解できているかどうか、習った範囲の問題を演習する。
・解けた問題と解けなかった問題ははっきりさせておき、疑問点は翌日友達や先生に聞く。
・つねに自分の“手と頭”を働かせることが必である。

[シラバスの改善と作成方法]
 2学期にシラバスについてのアンケートを実施し、生徒及び教員から使いやすさや改善点についての意見をまとめる。その結果を示して、次年度の編集方針を確認した後は、各教科が責任をもって原稿を作成する。校内LANを利用し、今年度の原稿を取り出して修正を加え、次年度用のフォルダに入れるという作業を各教科にお願いしておくことで担当者の負担は大幅に軽減される。これで学年毎の原稿が電子ファイルの形でまとまるので、印刷については、そのままMOに移し替えて印刷業者に依頼している。
《シラバスの仕様について》 (平成17年度版作成用資料)
1 名称 平成17年度 高校生活の手引(1年生・2年生・3年生)
2 体裁
ア B5版70ページ(今年度はA4版であったが、生徒が扱いにくいのでB5版に変える)
イ 紙質(表紙も含めて)は今年度と同程度
3 内容
ア 平成16年度の内容に準ずる。
イ 1年生の手引きには3年間の授業計画概要を加える。
ウ 定期考査・模試の日程などが書き込めるような年間カレンダーを加える。
エ 生徒アンケートも参考にして、より利用しやすいものをめざす。

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3 成果と課題

総合的な学習の時間について
多くの生徒が真面目に取り組んでおり、授業内容にも興味をもち、意義を感じている。
すべての教員が協力して成り立つ授業であるから、教員全体の理解と支持が必要である。
調べ学習が十分できるような環境を整える必要がある。(図書室・インターネット)
学習教材の開発及び3年間の教材の配列について引き続き検討が必要である。

キャリアセミナーについて
感想文においても、「その職業の深いところを知ることができて参考になった」など、意義を認める内容のものが大多数であった。

大学における体験学習について
生徒は熱心に、かつ楽しく取り組んでいた。感想文においても、学びへの積極性を示したものが多かった。
事後指導は行っているが、事前学習をより充実することができれば、さらに有意義なものになる。
学校行事として実施するため継続性が求められるが、来年度以降はその年度毎の対応が求められる。
連絡事務の負担は大きい。

小論文について
自分の考えを論理的な文章でまとめる基礎を学ぶことができた。
大学受験の小論文との関連性を深めていければ、実践的な効果も期待できる。

ディベートについて
初めのうちは戸惑いを感じる生徒もいたが、次第に盛り上がり、難しさを乗り越えて「楽しかった」と答えた生徒が多かった。
資料準備の大切さ、反対意見を予測する想像力の必要性、相手の反論に素早く対応することの難しさ、自分とは異なる見方の多さを学ぶことができたという生徒の意見を得た。
ディベーターとして参加できない生徒がいた。クラス内では全員がディベーターとして発言できる場が作れるように計画すると良い。

シラバスについて
文系・理系のコース選択や科目選択のときに、学年で活用している。
個人的な利用度はまだまだ高いとは言えないが、「役に立っている」と答えたものも多くいるので、生徒の学習活動により密着したものになるように改善していきたい。

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4 校長からみた指導のポイント 
 生徒が進路先を決めていくとき、将来の生き方までしっかりと考えて大学・学部選びをしていくことが大切です。
 そのため、高校3年間で、調べ学習や先輩からの話、体験学習等を計画的に実施しており、その中で自分自身で考えて決めていくようにしています。
 本校では、こうした教育活動を実施していく上で、次のような点に留意しています。

高校3年間を見通した教育活動にきちんと位置付けること。
担当者だけでなく各分掌が連携し、学校全体で取り組むこと。
生徒一人ひとりの実態を把握しながら、学期ごと、年度ごとに評価し改善すること。



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