特別支援教育体制推進事業                                    〔特別支援教育推進室〕
○「特別支援教育体制推進事業」の実践
                          −山口県立萩養護学校−
1 学校紹介2 研究の実践3 成果と課題4 今後の計画・展望
実  践  の  ポ  イ  ン  ト
 校内支援体制の整備
 養護学校のセンター的機能の活用 
 学校の紹介
  山口県立萩養護学校は、小学部15名、中学部18名、高等部42名、計75名の児童生が在籍する知的障害養護学校である。平成4年に山口県立宇部養護学校から独立開校した。児童生徒の通学区域は萩市、長門市、阿武町等で、北浦のほぼ全地域からそれぞれ通学バスや自転車、公共の交通機関を利用して通学している。
 本校は、独立・開校以前から現在に至るまで地域の障害のある幼児・児童生徒の地域の教育相談機関としての役割を果たしてきている。その業務を主として担当するのが「幼児教育相談室」である。幼児教育相談室の利用者は年々増加の傾向にあり、最近では、特にLD、ADHD、高機能自閉症等の児童生徒への対応がクローズアップされ始めてからは急激に件数が増えた。 さらに、平成11・12年度は文部科学省事業、「早期教育相談等の在り方に関する実践研究」、平成13・14・15年度には「教育相談体系化推進事業」、昨年度は「特別支援教育推進体制モデル事業」の指定を受けた。また、関係機関連携協議会の設置(県単独事業)、特別支援教育コーディネーター研修会の企画・実施など新たな事業にも取り組んできた。平成17年度には「特別支援教育体制推進事業」の指定を受け、特別支援教育コーディネーター4名を、他の校務分掌組織と兼務という形で位置付けた。
TOPへ戻る
 研究の実践
(1)センター的機能の充実
@ 幼・保、小・中学校、高等学校等に訪問しての教育相談
相談件数の内訳(単位:件)
幼稚園・保育園等 小学校 中学校 高等学校 合計
相談件数 101 184 54 344
                                            ※平成18年2月末現在
  幼稚園・保育所、小・中学校、高等学校へ訪問し教育相談を行う。その他、来談による相談や電話、E―mailによる相談も受け付けている。相談件数は年々増加の傾向にある。
A 小・中学校、高等学校等への授業等支援
・小学校2校に対して授業支援を行う。計14回訪問する。(打ち合わせ等も含む)   
・小学校での巡回相談では、全学級の様子を観察後、学年単位でケース会議を行った。
B 関係機関連携協議会やその他諸機関との連携
  関係機関連携協議会を2回実施。各関係機関の取組みについて情報交換を行い、また、関係機関連携協議会のもとに設置する専門家チームのメンバーには、今年度の特別支援教育コーディネーター研修会での講師を依頼した。
C 特別支援教育コーディネーター研修会の実施
  萩市、長門市、阿武町の小・中学校の特別支援教育コーディネーターおよび特別支援教育に携わる教職員を対象に研修会を行った。今年度の研修会は主に関係機関連携協議会の専門家チームのメンバーを講師に招き、各機関の取組みや、当該機関との連携の図り方について助言を受けた。また、萩養護学校の授業の様子を見てもらうため、公開研究授業日を設け実施した。
 
平成17年度特別支援教育コーディネーター研修会実施状況

実施日

講 師

内   容

参加人数

812

萩市立明倫小学校地域特別支援教育コーディネーター

「校内委員会の持ち方について」

27名

817

山口県立萩養護学校

「特別支援教育コーディネーターとしての心構え」

57名

学校心理士

829

長門総合病院小児科

「軽度発達障害についての基礎知識」

50名

107

支援センターぴゅありんく

「地域生活支援の方法と実践について」

27名

萩市福祉事務所

「施設や作業所の改革について」

1129

ふたば園児童部

「就学前の子ども達の支援〜幼児療育の現場から〜」

25名

コーディネーター

129

 

「萩養護学校地域公開授業・小学部研究授業における授業参観」

10名

125

関係機関連携協議会

「保護者から見た特別支援教育」

24名

保護者代表

     企業

「山口県特別支援教育ビジョン策定に関わって」

※本研修会には本校教職員49名も参加

D 小学校校の内研修の講師
  配慮を要する児童についての全校研修会に、講師として招かれ、具体的な支援の在り方について助言を行った。
E 特別支援教育コーディネーター連絡協議会の開催
 今年度の新しい取組みとして、各コーディネーター間での情報交換等を含め、ネットワーク構築のために特別支援教育コーディネーター連絡協議会を開催した。
 実施した内容は
 ・ 特別支援教育コーディネーターの業務について
 ・ 特別支援教育体制推進事業について
 ・ 情報交換
 参加人数は42名(小19名、中15名、養護学校6名、教育委員会2名)
F 高等学校担当者連絡協議会
 高等学校との連携を図るため、高等学校の教育相談等の担当者を対象に連携協議会を開催した。
 実施した内容は
・平成17年度山口県特別支援教育体制推進事業の概要について
・高等学校を対象に実施したアンケートの結果について
・協議・情報交換





 現在、研究指定校となっている高等学校では軽度発達障害ではないかと疑われる生徒もおり、その対応に苦慮しているという実情が報告された。今回の連絡協議会が開かれたことによって、今後も萩養護学校と情報の面や教育相談の面で積極的に連携していこうという雰囲気が生まれてきた。
                                      参加人数は13名
G 資料・情報の提供及び施設設備、教材の貸し出し
 性教育に関する資料を中学校特殊学級に対して提供した。個別の教育支援計画、指導計画の様式について問い合わせが多く、情報提供を行った。
 特別支援教育コーディネーター研修会の際に、教材を見せてほしいと依頼をされることがあり教材の貸し出しを行った。
H 地域公開授業の実施
 地域公開授業は、年間2回行った。1回目は、主に集会活動、2回目は、主に公開の研究授業を行った。2回目は特に特別支援教育コーディネーター研修会として設定したので、市内のコーディネーターの参加が多かった。
I 学校紹介のWebページ作成
今年度、萩養護学校を紹介するホームページを立ち上げ、本校の取り組みの様子をネット上で紹介した。月一度の更新を心がけている。今後さらに内容を深めながら、地域に学校の様子を紹介していく。
http:www.hagi-s.ysn21.jp
(2)「個別の教育支援計画」の作成
@ 平成17年度個別の教育支援計画作成日程
 今年度から個別の教育支援計画を作成し、運用を開始した。下記の日程に従って作成を行った。

個別の教育支援計画・個別の指導計画 作成日程 

4月

同意書の記入

夢と希望の調査の記入

家庭訪問での懇談

5月

個別の教育支援計画原案修正、提示・懇談

意見交換、情報交換(連絡帳、電話連絡、参観日等の機会で)

6月

個別の指導計画(1学期課題)作成、提示(6月初旬)
意見交換、情報交換(連絡帳、電話連絡、参観日等の機会で)

7月

学期末懇談会での個別の指導計画(1学期末評価)の提示、
  指導経過・結果の説明、意見交換

個別の教育支援計画の内容等についての確認

通知票の提示

8月

学部単位での個別の教育支援計画についての事例会議

9月

個別の指導計画(2学期課題)作成、提示(9月初旬)

意見交換、情報交換(連絡帳、電話連絡、参観日等の機会で)

10

意見交換、情報交換(連絡帳、電話連絡、参観日等の機会で)

11

意見交換、情報交換(連絡帳、電話連絡、参観日等の機会で)

12

学期末懇談会での個別の指導計画(2学期末評価)の提示
指導経過・結果の報告、意見交換

個別の教育支援計画の内容等についての確認

通知票の提示

1月

個別の指導計画(3学期課題)作成、提示(1月初旬)
意見交換、情報交換(連絡帳、電話連絡、参観日等の機会で)

2月

進路先への引継ぎ事項(卒業生)の確認
学部単位での個別の教育支援計画についての事例会議

3月

学期末懇談会での個別の指導計画(学年末評価)の提示
指導経過・結果の報告、意見交換

個別の教育支援計画についての確認

通知票の提示

A 個別の教育支援計画作成に関する成果と課題
ア 成果
(ア) 保護者とともに個別の教育支援計画を作成することによって、児童生徒に対する指導方針について話し合い共通理解することができた。
(イ) 児童生徒によっては、各関係機関に協力を求め、かかわり方や指導内容を考えなくてはならない場合もあったが、個別の教育支援計画によりスムーズに連携を図ることができた。
(ウ) 個別の教育支援計画をもとにした、児童生徒についての情報交換がケース会議以外の場でも増えてきた。
(エ) 個別の教育支援計画が卒業後の進路決定にあたり、大いに役立ったケースがあった。
イ 課題
(ア) 教務課を中心に計画的に作成を進めていったが、実際に運用を始めて1年目なので、作業が繁雑になった部分もあった。個別の教育支援計画をより効果的に運用していくために作成日程について検討が必要である。
(イ) 個別の教育支援計画策定委員会(教務、研修、進路、教育相談の各分掌課長と特別支援教育コーディネーター)をうまく機能させることができなかった。個別の教育支援計画を運用する際に出てきた問題点を細かく検討するために、中心的な役割を果たすような動きをするべきであった。
(ウ) 保護者の希望、思いを受け止めて、個別の教育支援計画に反映させることがまだ十分ではない。保護者が担任とオープンに児童生徒のことを情報交換・意見交換ができる雰囲気作りが必要であるように感じた。
TOPへ戻る
 成果と課題
@ 成果と課題
(ア) コーディネーター連絡協議会、高等学校担当者連絡協議会などを開催することで、新しいネットワークを構築することができた。
(イ) 通常学級の授業等支援に関する相談件数や、個別の教育支援計画作成に関する相談が昨年に比べて増加した。
(ウ) 特別支援教育コーディネーター研修会の講師に関係機関連携協議会の専門家チームを招いたことで、各学校と関係諸機関とのつながりがいっそう密になった。
A 課題
(ア) 特別支援教育のセンター校としてコーディネーターの配置のあり方など、校内組織をよりよいものにしていくためにはどうしたらよいか、いっそうの検討が必要である。
(イ) コーディネーター研修会に本校教職員が参加できるような体制を整えることが必要。このことによってより全校体制でセンター校として何をしていけばよいのか考えていくことができる。
(ウ) LD,ADHD、高機能自閉症等の児童生徒の授業実践に関する研修会を開いてほしいとの小中学校のコーディネーターの意見から、コーディネーター研修会の内容についてもさらに検討が必要である。
TOPへ戻る
 実践に当たってのポイント
@ 担当者から
  本校は以前から教育相談活動として萩市、長門市、阿武町を中心に子どもへのかかわり方に関するアドバイスを行ってきた。加えて、最近の小・中学校の先生方のニーズとして、具体的な授業の組み立て方や内容に関するものを求められる傾向にある。今後、本校はLD、ADHD、高機能自閉症等の児童生徒への具体的な授業実践に関する研究が必要になってくる。この研究を進めるためには、まずは各小中学校の実態をつかむこと。LD、ADHD、高機能自閉症等の児童生徒を指導した経験のある教職員を中心に研修を積んでいくこと。そして例えば小中学校の先生方と共同研究授業するなどの実践の場を設けることが必要になってくる。萩養護学校がセンターとしての役割を果たすためには、周辺小中学校の教員のニーズに応えることができるような実力を身につけることが今後さらに必要となる。
  今年度の実践では、小学校の教員と共同で実践研究もしたが、件数も訪問回数も少なく、深めることがなかなか難しかった。こういった実践は年度の初めから計画的に行っていくことも必要である。
  実践していく中で、高校担当者や医師など新しいネットワークをつくることができた。必要に応じて協力を仰ごうと考えている。
A 校長から
  本年度も本校は北浦地区の特別支援教育の中心となって、センター的機能の充実・発展を図ることができ、従来から築かれていたネットワークをより強固なものにできた。
  特に本年度は、高等学校との連携が図れるようになったこと、及び個別の教育支援計画の作成がスムーズにいき、実際に卒業後の支援に繋げることができたケースがあったことなどが特筆できる。
  しかし、1名の加配がついたとはいえ、コーディネーターの負担が増し、学校内における指導面では教員数等がやや手薄になった。直接携わる教職員以外の者の協力態勢ができていないと、さらなるセンター的機能の充実は困難である。次年度は協力態勢の構築を図るとともに1名でも多くの教員の確保を図りたい。
TOPへ戻る