へき地・複式教育の充実                            [義務教育課]
○へき地・複式教育センター校の取組み    −萩市立大島小学校−
   1 学校紹介
   2 研究の概要(1)研究主題(2)研究の仮説(3)研究の視点
   3 研究の実際
   4 成果と課題
   5 校長から見た実践のポイント
実  践  の  ポ  イ  ン  ト
少人数のよさを生かした支援の在り方
単元の構想を工夫した授業づくり
スキルタイムの有効活用の方法
1 学校紹介

萩市立大島小学校 
 萩市大島は、日本海に浮かぶ島で、萩港から定期船で約30分の船旅である。大島港
から徒歩で約10分も坂を登れば、萩市立大島小学校である。現在の児童数59名、学
級数は8であリ、3年前に開校130周年を迎えた伝統ある学校である。「たくましく
生きる力を身に付け、夢をもち未来に翔く児童を育成する」を学校教育目標に、諸活動
を展開している。


(上空から見た萩市大島)      

(運動場から見た萩市立大島小学校)
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2 研究の概要
(1)研究主題
 校の子どもたちは少人数であるため、一人ひとりの個性がよく見え、縦割り班活動
により、他学年との結び付きが強いというよさをもっている。しかし、普段は限られた
人間関係の中での生活であるため、多様な意見や考えにふれにくく、社会の出来事に積
極的にかかわりながら、見通しをもって解決していこうとする力が十分に育っていない
という実態がある。
 そこで、自分の考えをしっかりともちながら、社会の変化に主体的に対応し、創造的
に生きるための資質や能力として、「表現力」の育成を図りたいと考え、「自ら問いや
願いをもち、生き生きと表現する子どもの育成」を研究主題に掲げて、すべての教科の
中で、子どもたちが主体的に表現活動に取り組むことをめざして研究を進めてきた。
 
 本校では、「表現力」を「自分の思いを相手によく分かるように説明したり、人の話
をよく聞いて考えを理解したり、相手の気持ちまで感じ取ったり、話し合って問題を解
決したりする力」、さらに考えを広げると、「自分なりの方法を使って、自分の考えや
思いを具体的な姿に表し、心の交流を図る力」であるととらえている。そして、「表現
力」を培うことは、自分を出し切る、自分らしさを表現する、創造的に表現するなど、
豊かな人間性や社会性を育てるための力ととらえ、「生きる力」に直結するものと考え
ている。


(2)研究の仮説
 
 研究主題に迫るために3つの研究の仮説を立てた。    
仮説1  子どもたちの問いや願いを生かした単元を構想すれば、意欲的に学習に取り組み、表現することの喜びや楽しさを味わうことができるだろう。
仮説2  自分なりの問いや願い・追求の方法・表現方法を生かすことができるよう、個に応じた支援を工夫すれば、確かな表現力を培うことができるだろう。
仮説3  表現する「場」や「機会」、「時間」を計画的に設定した学習過程を工夫すれば、進んで表現しようと試み、その過程で友達との豊かなかかわりをもつことができるだろう。

(3)研究の視点
 研究の仮設をより分かりやすい形で示し、普段の授業実践の中に生かしていくことが
必要であると考え、研究の視点を設定した。
少人数のよさを生かした支援の在り方
元の構想を工夫した授業づくり

スキルタイムの有効活用の方法
スキルタイムとは、2校時後の10分間を、読み・書き・計算といった学習の基礎となる力の習熟を図るとともに、子どもたちの表現力の育成を図るための時間として設定したもの。

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3 研究の実際

仮説1


 子どもたちの問いや願いを生かした単元を構想すれば、意欲的に学習に取り組み、表現することの喜びや楽しさを味わうことができるだろう。 
この研究では、次のようなことに取り組み、効果を上げることができた。
 
(1)教材の工夫
 

(教材開発して行った授業)

(2)発表の場の工夫
 低学年では、できるようになったことを見てもらうことをとても好むことから、発表
の場を設けることが効果的である。今年度は参観日に保護者に向けて発表することや2

年生と1年生がお互いに発表し合うことを実践した。国語学習発表会を設け、1年生は
『おむすびころりん』、2年生は『スイミー』の学習の成果を発表し合った。1年生は
、登場人物の気持ちを読み取るために登場人物やナレーター役になりきり、動作化を大
いに取り入れた音読を発表し、2年生は、場面の様子を想像して主人公の気持ちに同化
できるよう、ペープサートをしながらの音読を発表した。

 
(登場人物になりきって、『おむすびころりん』の音読劇を行う)

(3)行事と教科の学習の関連 
 5年国語科『インタビュー名人になろう』の学習では「修学旅行」や「大島タイム」
との関連をもたせることにした。


(健康科学館でインタビューし、脳の働きについて教えていただく)

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仮説2   自分なりの問いや願い・追求の方法・表現方法を生かすことができるよう、個に応じた支援を工夫すれば、確かな表現力を培うことができるだろう。
この研究では、次のようなことに取り組み、効果を上げることができた。

(1)一人ひとりの活動の場の確保
 学習の過程では、子どもが思考している時を大切にしたい。自分の苦手なところを知り、それを課題として受け止めて、自分で“できる”ようがんばろうとしているときには、考える時間を十分に確保したいものである。
(2)スキルタイムの効果的な活用
 
学年ではスキルタイムを活用して、修学旅行や1年生を迎える会などの行事や委員会活動の連絡や準備、話し合いを行った。スキルタイムを活用すれば、授業時間を割り当てることなく、短時間で共通理解を図ったり、簡単な話し合いや準備をしたりすることができる。
(3)異学年との交流

(2年生、3年生の教室で音読を披露する4年生)

(4)地域の方との交流
 本校は地域との結び付きが強い学校で、子どもたちも幼い頃から地域の方の温かさを感じながら育っている。そのため、学習を進める際には、地域の方に参加していただくことで、大きな成果をあげることが期待できる。


(定期船の中を見学し、船長さんから説明を聞く)

(5)学校間の交流
 平成17年度から、本校は見島小学校と修学旅行・宿泊学習を一緒に行うことになった。少人数の学校間の交流であるため、一人ひとりがメールを活用して事前に情報交換を行った。

 
仮説3   表現する「場」や「機会」、「時間」を計画的に設定した学習過程を工夫すれば、進んで表現しようと試み、その過程で友達との豊かなかかわりをもつことができるだろう。
この研究では、次のようなことに取り組み、効果を上げることができた。
 
(1)振り返り活動の重視
 国語の音読発表会や生活科のまとめの発表などは、各自の発表練習が終われば学級全員の前で発表することになる。児童数が多ければ、その機会は一回しかもてないことが多い。しかし、少人数であれば、一人数回の機会がつくりやすい。そのため、発表時に指導・助言を繰り返し加えたり、振り返りをしたりすることができる。

友達のインタビューを聞いて記録用紙の評価項目に記入する)

(2)学習形態の工夫
 個別学習・小集団学習・一斉学習といった学習形態を、学習の目的や子どもたちの実態に応じて柔軟に授業に取り入れていくことが可能である点が、少人数のよさとしてあげられる。子どもたち一人ひとりの追求の過程での疑問やつまずき、考え方の違いなどを短時間のうちに見取り、学習形態の工夫を行い、その後の学習の展開に役立てるようにしてきた。

(3)個別指導の重視
 表現力を育成するにあたっては、子どもたちに基礎学力を付けていくことが必要である。子どもたちの能力に応じた課題に取り組ませ、段階を追って力を付けていくようにした。

(4)スキルタイムの効果的な活用
 スキルタイムでは、基礎学力の定着や個人の学習能力の伸張を図ってきた。めあてを立てて取り組み、それができるようになったことから自信と意欲が高まり、学習に取り組む姿勢がさらに意欲的になった。


(スキルタイムで「聞き取り漢字テスト」に取り組む)
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4 成果と課題
(1)成果として

@少人数のよさを生かして、個に応じた的確な支援の在り方を考える
〈低学年〉




1時間の中で必ず全員が発言をするという意識をもたせることにより、簡単な質問や
感想は全員が言えるようになった。友達の発表に対して、全員が意見を述べるように
したことから“みんなで学習をしているんだ”という意識が高まりつつある。

1時間の中での学習の流れを工夫して、発表回数を増やしたり、発表の練習や修正を繰り返し行っ
たりして、一人ひとりが活躍する場を設けることができた。

〈中学年〉





国語の音読では、様子や人物の気持ちを表現する際、一人ひとりのこだわりが出しや
すい雰囲気に恵まれ、一人ひとりの思いや考えを学習の中で生かすことができた。

一人ひとりの役割が決まってくるので、取り組む姿勢や責任感が高まり、誰もが役割
を果たせるように友達同士でアドバイスし合うなど、相手を思いやるかかわり方が見
られるようになった。

全員が様々な授業の中で発言したり活躍したりする場があるため、取組みが自信につ
ながり、自信が意欲につながり、進んで自分から取り組むようになった。

〈高学年〉


時間をとってゆっくり個別指導ができるため、一人ひとりの実態に応じた課題を設定
することができた。
全員が一単元時間の中で、自分の活動を振り返ったり評価をもらったりすることがで
きるので、自分の学習活動を改善したり、自信をもって学習に取り組むことができる
ようになった。
また、日々の授業の中で全員が活躍する場があり、やることによって力が付く。力が付くから自信になり、自信があるから自分からやるようになる、といったよい循環が見られるようになった。
A単元の構想を工夫した授業を組み立てる
〈低学年〉


体験活動を好むため、身体表現(音声化、劇化、動作化)を多く取り入れ、意欲を高
めることができた。 

異学年への発表を最終目標とし、学習への意欲を高めることができた。

〈中学年〉






音読テープ作りや異学年への発表を最終目標とするなど、単元のゴールを子どもの興
味・関心や必要感に沿ったものになるように工夫することにより、楽しく積極的に学
に取り組むことができた。

地域の方の協力を得る活動を通して、どのようにすればより分かりやすく伝わるかを
意識しながら、相手の立場に立って表現を工夫するなど、人とのかかわり方を考える
ことができた。

社会科では地図作り、新聞作り等、算数では具体的操作や理解した内容の説明、音楽では曲調や歌
詞内容から感じたことを絵と文章による表現活動などを取り入れることにより、自分の思いや考え
を積極的に述べたり、イメージを膨らませたりすることができるようになってきた。

〈高学年〉






行事と教科の学習を関連させて学習計画を立てることにより、教科の学習で身に付け
たことを、他の学習や活動でも生かそうとする姿が見られるようになった。

身近な自分たちに関係のある問題を取り上げ、話し合い活動を行うことにより、主体
的に話し合い、自分
の伝えたい事柄を相手に分かるように、そして相手が納得するよ
うに話そうとする意識をもつようになった。また、話を聞く時には、相手の話の要点
を汲み取りながら聞くことができるようになった。

メールを活用して他校と情報交換を行った。同じクラスで一緒に学習し理解し合って
いる
友達であれば、多くを語らなくても自分の思いが伝わるが、他校の友達との交流
により、より分かりやすく正確に伝えようとする姿勢や意識を育てることができた。

〈特殊学級〉

身の回りの物や実物を活用した学習により、学習に対する興味や意欲が増し、集中力
が持続した。日常の生活の中の課題を学習に取り入れることにより、自分の生活に必
要であるという意識をもち、自分から解決しようという意欲をもつことができた。ま
た、
繰り返し学習する内容は、ゲームや遊びを取り入れ楽しく学習できるようにする
と、飽きずに取り組むことができるので、学習内容の定着につながった。

Bスキルタイムを有効に活用する
ア「読む」ことに関して
〈低学年〉

「大きな声を出す」「すらすら読む」「抑揚をつけて読む」という音読の力が付いて
きた。また、音読練習を習慣化することにより、「読む」「声を出す」ということに
抵抗なく取り組むことができるようになってきた。一人ひとりが音読の成果を担任に
聞いてもらえるという楽しさから、積極的に練習することができた。

〈中学年〉


音読詩集を活用し、好きな表現を見つけたり、表現の工夫を探したりすることを通し
て、言葉や表現に関心をもつようになった。

学級内外の読み聞かせ活動で、異学年とのかかわりをもつことができた。また、読書への関心が高
まり、進んで読み聞かせにふさわしい本を選んだりする姿が見られるようになった。

〈高学年〉




音読詩集の暗唱により、詩への関心を高めることができ、短時間で集中して詩を覚え
る訓練にもなった。また、国語や歴史の学習とのつながりを感じることができ、語彙
が増えた。

家庭学習で暗唱の課題に取り組み、スキルタイムで練習の成果を発表した。家庭学習
に目的意識をもって取り組むようになった。また、友達の様子を見て、さらに意欲的
になる姿も見られた。

〈特殊学級〉

初めは一文字ずつ読む状態であったが、読む練習を重ねることにより、一文節ずつ読
めるようになり、さらに一文ずつ読めるようになった。日ごろの会話も以前と比べて
スムーズになった。

イその他
〈低学年〉






10分間の漢字テスト・練習の中で、採点と訂正を行い、間違った漢字は繰り返し練習した。とめ
やはらいに気を付けて正しく書くことができるようになりつつある。

個別の課題を設定した毎日の積み重ねにより、基礎・基本の定着と一人ひとりの学力
の伸長が見られた。それは自信と意欲につながり、学習に取り組む姿勢がさらに意欲
的になった

スキルタイムの内容を単元に沿った内容にすることにより、日々の授業がより充実し
、必要感をもってスキルタイムに取り組むことができた。
 

(2)課題として

@少人数のよさを生かして、個に応じた的確な支援の在り方を考える
〈低学年〉




個人差が大きいため、今後も個に応じた課題設定や支援の仕方を工夫していきたい。
二人組や少人数で、話し合い活動を仕組む際に、場の構成やメンバーの組合せを工夫
したい。
話し合いのルールを身に付けさせ、リーダーを育てたい。

〈中学年〉
○○

話し合い活動では人間関係が固定化されやすいので、場の構成を工夫していきたい。
最後まではっきり述べるなど、グループ学習での話し合いの力を付け、対話力を高め
ていきたい。
話し合いや活動を前向きに発展させる意識を育て、建設的な意見の出し方を身に付けさせたい。
〈高学年〉


教師の指導がゆきとどき、そのことに慣れて学習が受け身にならないよう、教師の出番に配慮したい。
人間関係に左右され新たな人間関係が育ちにくい面がある。今後も社会性を育む指導の工夫をし
たい。
A単元の構想を工夫した授業を組み立てる
〈低学年〉
パソコンを利用する学習を計画的に効果的に仕組みたい。
〈中学年〉


学習のめあてを明確にし、一人ひとりが見通しをもって活動できるように配慮してい
きたい。

離島のため、市内の様子を調査したり、公共施設を見学したりする活動が制約される。

〈高学年〉
離島である本校は交通手段や費用等制約が多いが、他校と継続的に交流ができる場をもつことに
より、学習活動がさらに充実し、深化し、広がると考える。また、パソコン教室の設置やインタ
ーネット環境の整備により、
テレビ会議システム等を活用した授業を計画できるとよい。

Bスキルタイムを有効に活用する
〈低学年〉

マンネリ化しないよう、変化をつけるようにしていきたい。

〈中学年〉



言語の力が不足していると、理解や表現が不十分なまま終わるので、多様な修飾語や
オノマトペ、比喩、掛詞等を用いた表現にふれさせるとともに、活用する活動を多く
取入れていきたい。

子どもたちが進んで取り組めるよう、取り組む内容を曜日によって明確にしていきたい。

〈高学年〉

スキルタイムで身に付けたことを生かす場面を設定し、児童に見通しをもたせ、目的意識や意欲
へとつなげていきたい。

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5 校長から見た実践のポイント

(1)少人数のよさを生かして、個に応じた的確な支援の在り方を考える  
(2)単元の構想を工夫した授業を組み立てる (3)スキルタイムを有効に活用する
学習課題を工夫する
一人ひとりの活動の場をつくる
友達やまわりの人々との豊かなかかわりをもつ
個別指導を充実する
振り返りを生かした学びを育てる

体験活動を重視する
発表の場づくりを工夫する
異学年との交流を図る
地域を生かす
子どもの興味・関心や必要感を生かした単元構成を行う
総合的な学習の時間や行事との関連をもたせる
教材を工夫する

音読練習を行う
語彙力を育成する
教科や行事と関連させる
基礎学力を習得させる


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