就学前教育と小学校の連携                             [義務教育課]
○就学前教育と小学校の連携に関する総合的調査研究
 
  −周南市立福川南幼稚園 周南市立福川保育園 周南市立福川南小学校−

   1 学校(園)紹介
   2 具体的な活動内容(1)調査研究の趣旨(2)研究主題(3)研究の視点
     (4)研究の仮説(5)滑らかな接続への具体的な取組み
   3 成果と課題
   4 校長から見た実践のポイント
   
実  践  の  ポ  イ  ン  ト

 
地域の教材開発による互恵性をめざした合同保育・授業の実施と教育課程への位置付け
幼児期に体験させたい活動の確認と接続期のカリキュラムの開発
協同的な学びの体験、みなみ学習、遊びタイム
幼稚園・保育所・小学校の保護者の連携
1 学校(園)の紹介

周南市立福川南幼稚園
 本園は、教育目標に「未来の社会に力強く対応できる、心身ともにたくましく心豊かな幼児の育成」を掲げ、「やさしい幼児」「げんきな幼児」「がんばる幼児」の姿をめざし、日々の保育の中に具現化するよう努力している。近辺を山や川に囲まれ、園の近くには長田海岸があり、自然とふれあう場が豊富にある。また、隣接して小学校があり、保育園も川の対岸にあり、徒歩で行き来できる距離にあるため、三者が交流活動を伴う連携をするには恵まれた環境にある。平成11年から、子育て支援活動として、未就園児親子登園の活動を行っている。その活動にボランティアスタッフとして活躍する保護者が多く、また、園の行事に積極的に参加するなど、幼稚園教育に対して協力的である。


周南市立福川保育園

 本園は児童福祉法に基づき、昭和49年4月1日に設立された。設立当初、定数120名のうち3歳未満児は2割でスタートした。その後、出生率低下等で定数90名となったが、母親の社会進出等によりニーズが高まり、平成16年度は100名定数、平成17年度は110名定数となり、0歳〜2歳児数は今も増加傾向にある。また、子育て支援として、延長保育・一時保育を行っている。園の傍には夜市川が流れ、交通量は少なく静かなたたずまいである。山陽本線が近くを通っており、乗り物好きな3歳未満児の散歩コースである。また3歳以上の幼児は、近くの山や海、公園へと散歩に出かけて四季折々の自然にふれるなど自然環境に恵まれている。保育目標を「心身ともに豊かな子ども」とし、「明るく素直な子ども、元気で頑張り抜く子ども、感謝の気持ちをもつ子ども」の育成をめざして保育の充実に努めている。幼児は元気であるが、友達同士のトラブルは少なくない。
  

 
周南市立福川南小学校 

 本校は、本市の西南に位置し、準農村・漁村地域であったが、周南工業地域の発展に伴う人口増加の中で、昭和55年4月、福川小学校から分離し、福川南小学校として開校した。近年、宅地化が進み児童数が年々増加している。校区内の住民の多くは会社員であり、農業人口はわずかである。広い運動場に恵まれ、校舎の周りにはいろいろな木がたくさん植えられている。それを「南の森」と名付け、そこでは児童が伸び伸びと活動している。この環境を生かして緑化活動に取り組み、平成15年に、全日本学校関係緑化コンクール学校環境緑化の部において準特選を受賞した。また、例年10月には、保護者・地域との連携による「愛校フェア」と名付けた学校行事を行い、平成15年度から5・6年生も出店し、販売や劇などに取り組み、企画、交渉販売、表現活動などの体験を積んでいる。「たくましく、美しく、根気よく」を校訓とし、児童会を中心にしてあいさつ運動や気持ちのよい言葉遣い運動にも取り組んでいる。学校行事等の機会をとらえて、児童の活躍する姿を保護者や地域の人に発信するとともに、地域の行事にも積極的に参加して信頼関係を築き、学校教育への理解を得られるように努めている。

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2 具体的な活動内容
(1)研究の趣旨
 幼児期から小学校段階に移行する際、子どもの成長・発達は連続しているにもかかわらず幼児期の教育と小学校以降の教育との間に必要以上の段差や相互理解の不足が見られる。このことから、幼稚園においては、生きる力の基礎となる幼児期の教育が、小学校にどのようにつながっていくのかをとらえ、小学校低学年においては、就学前に身に付けた創造的な思考力や主体的な生活態度を把握して、更に拡充した学習活動へと結び付けていくことが重要である。幼児期の教育と小学校以降の教育との滑らかな接続の在り方を探るため、総合的な調査研究を行う。
(2)研究主題


(3)研究の視点
 
 
就学前教育から小学校教育へのつながりの接点となる5歳児と小学校1年生の時期を手掛かりとし、発達段階に留意した取組みを行えば、生きる力の基礎を培い、自立に必要な生活や学習の基盤づくりができ、幼稚園・保育所と小学校の滑らかな接続が可能になるであろうと考え、3つの研究の視点を掲げた。   
@ 人とのかかわりを豊かにする合同保育・授業を中心としたカリキュラムの工夫
A 教職員の相互理解を深め、指導力や実践力を高めるための共同研究の実践
B 幼・保・小の保護者間の交流と連携の推進

(4)研究の仮説

@
 
 幼稚園・保育所と小学校による合同研修会を重ね、それぞれの教育内容や指導方法を理解して指導に当たることにより、連続性のあるカリキュラムを開発できるのではないか。
A  合同保育・授業において人とかかわる場や活動内容を工夫することにより、「人と豊かにかかわる力」を育てることができるのではないか。
B  保護者・地域との連携を図り、保護者間の交流を活発にすることにより、「人と豊かにかかわる力」を育て、連携教育の成果を高めることができるのではないか。

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(5)滑らかな接続への具体的な取組み
@ 幼・保・小共通のめざす子ども像の設定

A 合同保育・授業

 
 合同保育・授業とは、保育・各教科のねらいを達成するとともに、「人と豊かにかかわる力」を育むことをねらった活動・学習である。幼児にとって、遊びや日々の生活を豊かにする活動を中心に、児童にとっては、学習への関心・意欲を高め教科のねらいを達成する視点から共通の教材を選び、単元を構成し、小学校の教育課程において、生活科や総合的な学習の時間等に位置付けた。

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【実践事例】幼稚園5歳児、保育所5歳児、小学校1年生合同・保育授業
            『うちにおいでよ』
活動の流れ
本時案
B 教職員の相互理解・共同研究
C みなみ学習(接続期の学習)

 「みなみ学習」とは、就学前教育と小学校教育の接続期に当たる独自のカリキュラムであり、本園・校では、年長児(5歳児)から小学校1年までの長期の期間としてとらえている。就学前教育から連続した発達課題を設定し、幼児の遊びを中心とした学びが、小学校以降の学習のどのような基盤となっているか、どのように発展していくのかを理解して工夫したカリキュラムである。
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 ウ 学ぶ方法の工夫
  
 ○「遊びタイム」の設定・・・・・学びの基礎・道徳性の基礎を培う
 ○意図的・計画的な環境の構成
 ○1単位時間の弾力的な運用
 ○作業的体験的な活動を取り入れた学習の展開

 
 エ コミュニケーションの視点からみた発達課題の設定

D 保護者間の交流、保護者や地域との連携


@ 合同保育・授業参観・・・・・・・・子どもの発達の理解
A 子育て講演会・・・・・・・・・・・積極的に学ぶ場や機会の設定
B 連携だより「ひまわり」の発行・・・研究の趣旨理解と、園や学校の取組みの発信

C 周南市幼・保・小連携推進協議会の設置・・・地域・関係機関との連携
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3 成果と課題
(1)成果として
【人とのかかわりを豊かにする合同保育・授業を中心としたカリキュラムの工夫】
@






















A
合同保育・授業について
○保育や教科のねらいの達成を大切にすることにより、幼・保・小連携だからこそ実現できるような互恵性のある単元を開発できた。
○合同保育・授業において、幼児・児童の思いを生かした活動を仕組むことにより、幼児・児童の主体性を育むとともに、地域教材の開発につながった。
○合同保育・授業の中で発生した問題を、自力で解決しようとする意識が育ち、主体性と課題解決力の育成の時間となっている。
○コミュニケーション力に視点をあてた発達課題に即して、共通の視点で幼児・児童を見ることができるようになり、9年間を通して共通の子ども像を追求することができるようになった。また、発達に沿った保育や授業を工夫するようになった。
○幼・保・小の合同保育・授業により、教育相談的(ガイダンスの機能)な学びが展開できた。幼児・児童は、自分たちの質問や新たな発見に耳を傾けてくれる大人の数が増えること、保育士・教師は、幼児あるいは児童の学びの支援に当たることなどにより、幼児・児童、保育士・教師共に自尊感情を育むことができ、肯定的な自己理解の確立と他者を尊重する態度を醸成する時間となった。
○合同保育・授業において、「遊びを中心とした単元構成」や「幼・保・小の幼児・児童が共に話し合う時間」を設定するとともに環境を工夫することにより、学びの必要感と学びの見通しが生まれることが分かった。さらに、教職員が綿密に情報交換し、役割分担を明確にすれば、幼児・児童に主体的な学びが展開され、意欲が持続できることが分かった。多くの「人」との出会いとコミュニケーション力を育む場を設定した「学び合い」の結果、活動的で、協同的な学びが実現し、幼児・児童に達成感や成就感を味わわせる活動になることが分かった。

接続期の学習「みなみ学習」について

○小学校は、就学前教育の遊び(学び)を生かしたカリキュラムを工夫し、1年生の教科学習のカリキュラム編成を試みた。その結果、幼稚園や保育所で培ってきたことを生かしたり、学びの過程を参考にしたりして、授業を行うようになった。
○幼稚園・保育所も、小学校に向けて、一人ひとりの幼児にどのような体験が必要なのかということを意識して保育をするようになった。
○「遊びタイム」で遊び込んだ後は、児童の表情が随分生き生きとして満足感に満ちており、学習への移行がスムーズにできた。また、落ち着きのない児童も、授業に集中して臨むことができるようになった。
【教職員の相互理解を深め、指導力や実践力を高めるための共同研究の実践】
○保育・授業参観及び協議により、幼稚園・保育所と小学校のそれぞれの教育内容及び指導観等について相互理解ができ、教育の充実を図ることの大切さを再確認した。
○合同保育・授業後の情報交換では、その日の活動で見取ることができなかった幼児・児童の様子を知り、幼児・児童理解を深めることができた。また、援助や指導の留意点を振り返ることができた。
○次の活動の内容などを話し合う過程では、教職員の指導観の違いや共通点を認識することにより、多様な観点で活動を工夫することができた。
○合同保育・授業の実施は、保育士・教師の役割の質的な変化が求められることが分かった。つまり、「知識の伝達者」あるいは「教えることの専門家」としての役割だけでなく、学び合いの授業を企画し、演出し、発表するというプロデューサーやディレクター、あるいはコーディネーターの役割が求められ、共同研究はその力を付ける研修の場にもなった。また、教師としての専門性を再認識できた。
○合同保育・授業により、「観る」「観られる」の関係ではない「共に学び合う」関係が生まれた。また、幼稚園・保育園・小学校の保育士、教師、保護者、地域の人々との「きょうどう性」(協同、協働、共同)が芽生えた。
【幼・保・小の保護者間の交流、保護者・地域との連携の推進



○幼・保・小連携推進協議会において、幼・保・小保護者連絡部を発足させ、連携だより「ひまわり」の発行により、取組みの理解を得ることができた。
○合同保育・授業参観の場の設定により、幼児・児童の成長の姿を理解してもらうことができた。
○積極的に学べる場や機会の設定(子育て講演会)により、家庭教育の大切さに関心をもってもらうことができた。
○地域・関係機関との情報交換や地域の協力を得る単元構成により、地域で子どもを育てる気運が高まった。

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(2)課題として
【人とのかかわりを豊かにする合同保育・授業を中心としたカリキュラムの工夫】
@












A
合同保育・授業について
○幼児・児童の思いや願いを大切にし、地域の特色を生かした地域学習教材を開発するとともに、年齢差に応じた単元や内容を工夫する。その中で、幼・保・小連携だから育むことができるコミュニケーション力を高めていけるようにする。
○幼児・児童の主体的な学習活動を意図的・計画的に支援するために、教職員のチーム力による指導を強化し、地域の専門家をはじめ関係機関とも十分な連携を図る。
○他教科・特別活動での合同保育・授業について研究し、指導や展開を工夫する。
○幼児・児童が主体的に考え、判断し、表現したり行動したりする学習活動を支援する指導と評価を工夫する。
○発達課題が具体的な活動の中でどのように現れることが望ましいか、評価規準を作成し、幼児・児童の姿を見取り、合同保育・授業の振り返りの材料とする。
○幼児・児童のコミュニケーションが深まるための環境構成を更に工夫する。

接続期の学習「みなみ学習」について
○小学校は、就学前教育の遊び(学び)を生かしたカリキュラムを工夫し、1年生の教科学習のカリキュラム編成を試みた。今後は、道徳、特別活動等のカリキュラムの工夫について検討する。
○保育所や幼稚園では、就学前に体験させたい活動の見直しを行い、教育課程に位置付けた。その活動の意義を検証していく。
○「遊びタイム」については、実施期間・実施時数の再検討、環境をどう構成するかなどをさらに深める。
【教職員の相互理解を深め、指導力や実践力を高めるための共同研究の実践】
○幼児・児童の学びや発達の連続性を踏まえ、「コミュニケーション力」育成の視点から発達課題を設定した。今後、この発達課題をさらに検証していくとともに、どのような指導・援助を行えばよいか研究を深める。さらに、共通の視点をもって共同研究を進め、幼児教育と小学校教育の一層の相互理解を図る。
○2年間の研究成果や開発した単元を教育計画や年間指導計画に位置付けるとともに、これまでの資料や指導計画を活用し、打合せ時間を削減し、スムーズに連携できるようなシステムを構築する。
【幼・保・小の保護者間の交流、保護者・地域との連携の推進】
○幼・保・小連携推進協議会における幼・保・小保護者連絡部において、保護者から見た成果や課題をアンケート等で調査し、回答を参考にして更に連携の推進を図る。
○ 合同保育・授業の参観の場をさらに広げるとともに、合同保育・授業に保護者の「学習参加」という方法も取り入れたい。保護者に授業の意図を十分理解してもらうため、打合せの時間の確保を工夫する。

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4 校長から見た実践のポイント

 本調査研究を学校教育目標、めざす児童像の実現の一方途としてとらえる。

 幼・保・小との交流活動を合同保育・授業として教育課程に位置付ける。

 合同保育・授業は、教科のねらいを達成する内容(独自性)であり、幼児と一緒に 活動することでメリットのある内容(互恵性)を探る。

 幼・保・小の保育士・教師が共に取り組む中で、互いのよさを見取り指導に生かす 。さらに、課題や成果を共有する。

 実践を通して保護者の理解を得るとともに、信頼関係を深めながら幼・保・小の滑 らかな接続につなげる。

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