キャリア教育の推進                        [義務教育課] 
キャリア教育の推進−木のおもちゃ作り名人に弟子入りしよう−
山口市立中央小学校
1 学校紹介 / 2 大人に学ぶ小学生サポートプランの実践 / (1)はじめに / (2)木のおもちゃ作り名人重田さんに弟子入りしよう / (3)木のおもちゃ作り名人重田秀徳さん / (4)指導計画 / (5)子どもたちと重田さんとの出会い / (6)パズルの製作体験 / (7)重田さんの講話より / (8)「木のパズル展示会」/(9)「ありがとう重田さんの会」/ (10)自分自身の可能性を信じて / 3 成果と課題
4 実践に当たってのポイント(校長)
実 践 の ポ イ ン ト
児童の興味・関心が持続する活動を仕組む。
体験を通して大人の仕事に対する姿勢や生き方にふれさせる。
活動をふり返り、これからの自己の生き方について考えさせる。

1 学校紹介
  山口市立中央小学校は山口市徳地の佐波川と島地川が合流する堀地区に位置している。学校周辺の豊かな自然や文化施設に加え、昨年度、校舎の大規模改修を終え、恵まれた学習環境のもと、全校児童157名が元気いっぱいに生活している。地域の特色を生かしながら保護者や地域住民の惜しみない協力を得て、特色ある学校づくりを進めているところである。
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2 「大人に学ぶ小学生サポートプラン」の実践
(1)はじめに

「大人に学ぶ小学生サポートプラン」は、小学生のキャリア教育推進事業として始まったものである。
  小学校における進路発達課題として、

身の回りの仕事や環境への関心・意欲の向上
夢や希望、憧れる自己イメージの獲得
勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の形成
などが挙げられる。本プランはこれら進路発達課題を達成する機会の一つであり、働く大人による講話と体験とを組み合わせた5日間連続の集中講座である。

(2)木のおもちゃ作り名人重田さんに弟子入りしよう
@期日 平成17年6月6日〜6月28日
A対象児童 中央小学校 第5学年27名
B活動テーマ
 木のおもちゃ製作を通してものづくりの楽しさを学ぶ。

Cねらい
 徳地町内の木工に携わる人の工房見学や木のおもちゃ製作体験、職業講話等の実施を通して、働くことの大切さや意義について学ぶとともに、自己の生き方について考える機会とする。
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(3)木のおもちゃ作り名人重田秀徳さん
  今回講師をお願いした重田秀徳さんは、山口市徳地藤木で「重田木型」という木工の作業所を営んでおられる。7年前から木のおもちゃ作りを始められ、特に木のパズルはどれも楽しい作品ばかりである。

◎講師をお願いした理由

 ・木のパズルは小学生にとって親しみやすいこと。
 ・重田さん自身、木工指導の経験が豊富であること。

 ・糸のこを使った製作体験が学校で可能であること。 
 ・木のパズルを通して、ていねいな仕事ぶりが伝わってくること。等

◎依頼・打ち合わせ
  ・指導期日…6月頃 

  ・指導場所…中央小図工室
  ・材料等
  【重田さんが用意】
    ○パズル用合板 
  【学校で用意】
    ○紙やすり
    ○アクリル絵の具
    ○筆 
    ○スプレーのり 
    ○クリアラッカー 
    ○糸のこ 糸のこ用刃

  【児童が用意】
    ○牛乳パック
    (アクリル絵の具のパレットに)

◎重田さんへの説明事項
  ・「サポートプラン」趣旨説明
  ・打ち合わせ内容
    ○木のパズル作りの概要
    ○指導計画、体験上の留意点
※重田さんの作品や経歴については、「重田木型」HPを参照のこと。 http://www3.ocn.ne.jp/~wood/
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(4)指導計画
  重田さんはこの頃、ちょうど作品展の準備等でとてもお忙しい毎日をお過ごしであった。にもかかわらず、今回の「弟子入り」に全面的に協力してくださった。何度か打ち合わせを行い、重田さんのお仕事のご都合や学校行事などを考え、以下のような指導計画を立てた。
1日目 6月 6日(月)重田さんの工房見学
2日目 6月20日(月)木のパズルの製作体験(下絵作り)
3日目 6月21日(火)     〃    (枠作り)
4日目 6月27日(月)     〃    (ピース作り)
5日目 6月28日(火)     〃    (着色・仕上げ)
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(5)子どもたちと重田さんとの出会い
   子どもたちが自然な形で重田さんに出会えるよう、まずは徳地の「名人」に目を向けさせることにした。
〈徳地の○○名人をさがそう〉
・野菜作り名人 ・いちご作り名人 ・こんにゃく作り名人 ・魚釣り名人 ・人形作り名人 ・風景画名人 ・スッポンとり名人   ・琴名人 ・木のおもちゃ作り名人


  重田さんについて調べた児童がいたので、
「重田さんに弟子入りして、木のパズル作りをしてみない?」

と投げかけたところ、すぐに「してみたい!」との反応が返ってきた。こうして27人全員が重田さんに弟子入りをすることになった。
  早速、全員で重田さんに弟子入りをお願いする手紙を書くことにした。
【おもちゃ(パズル)作りについて】
Q木工でどのようなものを作るのですか。
Q難しいことは何ですか。簡単ですか。
Q何時間ぐらいでできますか。
Qおもちゃの名前や値段は自分で決めるのですか。
Q特に人気の商品は何ですか。
Q材料の木は、何という種類の木ですか。
Qいつからおもちゃ作りを始めているのですか。
【弟子入りについて】
Qもしできるなら弟子入りできますか。
Qわたしたち小学生が作れるようなおもちゃがありますか。
Q風景やマンガをかいてもいいですか。
Q絵はどのようにしてかいているのですか。
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(6)パズルの製作体験
  @重田さんの工房見学
 マイクロバスを借り、学校から約15分の場所にある重田さんの工房にお邪魔した。
  重田さんの工房はギャラリーと作業場に分かれていた。子どもたちはギャラリーにある動物のパズルや魚釣りのおもちゃ、バランスブロックなどで遊んだ。
  作業場では、重田さんは子どもたち一人ひとりに糸のこを使う体験をさせてくださった。簡単な直線と曲線とを糸のこで切るのだが、なかなか線のとおりに切ることができない。逆に重田さんは線を外して切るのが難しいとのこと。
「重田さんの作ったパズルは、とても上手でした。「りゅう」が作れるなんて、びっくりしました。わたしも重田さんにこつを教えてもらって、いいパズルを作りたいです。そのために、重田さんの話をよく聞いて、一生けん命作りたいです。」(M)
  A製作体験T…下絵作り
 重田さんを学校にお招きして、いよいよパズル作りスタート。
 初日は下絵作り。後で糸のこで切ることを考えて、

絵は大きく
とがった所がないように、なるべく丸く
線はていねいにかくように
と教えられた。
  子どもたちはあらかじめ思い思いに下絵を考えていた。下絵作りはすぐに終わると考えていたようだが、なかなか重田さんから合格が出ない。丸一日かけて下絵作りに取り組んだ。
「パズル作りで一番大変なのは、下絵作りだと思います。何枚もやり直しをするからです。でも、重田さんでさえ一つのパズルを作るのに100枚ぐらいかくそうです。」(S)
わたしは下絵を18枚かきました。これからも何事にもあきらめないでがんばっていこうと思います。」(M)
  B製作体験U…枠作り
   糸のこを使って、パズルの枠を切る作業に取り組んだ。糸のこを使うときの基本として、「正ゆ流し」を教わった。
「正」 …正面に座る
「ゆ」 …ゆっくり切る
「流し」…流し切る線からずれて切ってしまっても急に線に戻すのではなく、徐々に戻しながら切るという意味)
  「正ゆ流し」の言葉はすぐに覚えられても、まっすぐな線を切るだけでも、かなり難しかったようだ。重田さんは子どもたち一人ひとりにていねいに教えてくださった。
  次は紙やすりをかける作業。熱心にこする余り、手が熱くなってびっくりする子どももいた。
  一つの作品を仕上げることの大変さが実感できたようだ。また、手間をかければその分だけ満足のいく仕上がりになることも気付くことができた。
わたしが板を切るとき、「ゆっくり」と「流し切る」があまりできませんでした。「ゆっくり」はすごく速かったし、「流し切る」については、ずれて元にもどれませんでした。重田さんのパズルはとてもつるつるでした。わたしのはまるくなっただけでつるつるではありませんでした。重田さんは「紙やすりでこする時は、わたしでも2〜3時間ぐらいします」と言われたので、「じゃあ、わたしだめかも?」と思いました。でも、がんばってやりました。そのせいで、服が白くなりました。」(A)
服を見たら「かす」でいっぱいでした。こすると手が熱くなりました。重田さんはいつもやっているから大変だと思います。重田さんのように上手にできるといいです。」(K)
  C製作体験Vピース作り
  パズルのピースを切る作業に取り組んだ。今度は小さなピースに切り分けていくので、より慎重に取り組んでいた。次第に糸のこの扱いにも慣れ、一人で作業ができるようになってきた。糸のこを使うコツをつかむことができたようだ。
  切り分けたら、一つ一つていねいに紙やすりをかけていった。
『正』『ゆ』『流し』を教えていただいて、ずれそうになっても上手にできました。中のピースを作る時は、いっしょに切ってもらったのでよくできました。」(K)
重田さんの言葉で一番心に残ったのは、『苦労の時間も大切』という言葉です。今まで苦労するようなことはしなかったわたしですが、この言葉を聞いていろいろなことにちょうせんしようと思うようになりました。」(Y)
 D製作体験W着色・仕上げ
  切り分けたピースに、アクリル絵の具で着色をしていった。
  27名の弟子たちはけがをすることもなく、自分だけのオリジナルパズルを完成させることができた
「パズルを作るのはかんたんと思っていましたが、すごく難しかったです。たくさんずれたけど、最後の日に重田さんが『5年生にしては上出来!』と言ってくれました。みんなの作品もすごく上手でした。」(Y)
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(7)重田さんの講話より
「題名は…」「値段は…
  まず、子どもたち一人ひとりに「パズルの題名」と「値段」とを考えて発表するように言われた。自分が苦労して作った物に値段をつけることは、作ること以上に難しいことだと言われた。
「衝動は才能の入口」
  次に、重田さんからお話をいただいた。子どもたちは特に次のようなことばが心に残ったようである。
「衝動は才能の入り口である」三日坊主でも、やらないよりはやった方がいい。いろいろなことにチャレンジしてみよう。
嫌いなこと、苦手なことでも、がんばって取り組んでみよう。いつか役に立つことがあるよ。
物や時間を大切に。一秒一秒を大切に過ごそう。勉強の時は勉強する。遊ぶときは遊ぶ。寝る時は一生懸命寝よう。
パズル作りをして良かったことは、人との出会いがあったことです。
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(8)「木のパズル展示会」
  7月13日、体育館で「木のパズル展示会」を行った。
  この日に向けて各グループに分かれ、思い思いの方法でパズル作りの様子を発表する計画を立て、準備に取り組んだ。展示会当日、朝学の時間を利用して各学級に出向き、展示会のCMをした。パズルを実際に見せ、触ってもらった。
  展示会は昼休みに行った。「パズル体験コーナー」では、全校のみんなにオリジナルパズルを楽しんでもらった。
「パンフレットグループ」は、パズル作りの様子や重田さんに関するパンフレットを作り、全校のみんなに配った。
  「発表グループ」は、パズル作りの様子や重田さんから学んだことをまとめて発表した。他にも、クイズ形式で発表するグループ、劇にして発表するグループ等、それぞれが工夫してパズル作りの様子を発表できた。お忙しい中、重田さんも発表会に駆けつけてくださった。
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(9)「ありがとう重田さんの会」
  展示会の後、「ありがとう重田さんの会」を行った。一人ひとりが重田さんから学んだことを発表し、最後にお礼の手紙を手渡した。
ぼくは、何度も何度もまちがえました。そのたびにやり直しました。だけど、そのうちなれてきました。間違って覚えるというのは、大切なことだと思います。重田さんから学んだことは、間違うことも大切だということです。」(R)
わたしの将来の夢はマンガ家なので、重田さんに言われたように時間を大切に使い、重田さんのように熱心にていねいに絵をかこうと思います。」(K)
ぼくが一番心に残ったことは、『今やっていたら大人になって役に立つ』という言葉です。ぼくはこの間まで図工とか音楽が大人になって何の意味があるのかなぁと思っていました。でも、もし重田さんみたいになったら、図工などを小学生の時にちゃんとやっていたら大人になって役に立つんだなと思いました。大人になったら何になるか分からないから、全教科がんばります。」(T)
わたしは重田さんからいろいろなことを学びました。『一秒一秒を大切に。今の時間はもどってこない。』何をするにも時間がかかるから、この言葉は良いと思いました。重田さんみたいに人を楽しませる仕事がしたいです。重田さんの言葉をしょう来に生かしたいです。」(E)
わたしたちは、重田さんから、集中してやることなどいろいろなことを学びました。重田さんが一生けん命に教えてくださっているのを見て、自分もがんばらなくちゃと思いました。下絵、糸のこは難しかったです。重田さんから最後まであきらめないことの大切さを学びました。」(A)
「重田さんの言われたことで心に残った言葉があります。それは、『衝動は才能の入口』です。ぼくは、いろいろなことにチャレンジして、才能の入口を見つけたいです。ぼくは、しょう来大工になりたいと思っています。重田さんは一つの作品に何枚も何枚も下絵をかいているそうです。ぼくも、住む人が喜んでくれるようなアイデアをいっぱい出せるようになりたいです。
」(T)
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(10)自分自身の可能性を信じて
  終業式の日に、重田さんからお手紙をいただいた。手紙の最後に添えられている言葉は、木のパズルとともに、子どもたちにとって大切な宝物となった。

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3 成果と課題
○成果として
児童の興味・関心が持続する単元構成ができたこと。
  
「木のパズル作り」は小学生でも体験が可能で、完成までの見通しをもつことが容易であった。また、完成後はパズルの発表会を行うという目標を立てたことで、児童の発想を生かすとともに意欲を持続させることができた。
体験や講話などを通して大人の仕事に対する姿勢や生き方にふれさせることができたこと。
  一つのパズルを完成させるまでの苦労を、短期間ではあったが製作体験から知ることができた。パズルを手にする人のことを考え、自分の納得のいく作品をめざして仕事に取り組む重田さんの姿勢から、子どもたちは多くのことを感じたようだ。また、製作体験の合間に話される重田さんの言葉も、心に残ったであろう。
活動をふり返り、これからの自己の生き方について考えさせることができたこと。
  苦労して何とか完成させたパズルを目の前にして、子どもたちなりにこれからの生き方を考えることができた。自分の将来の夢と関連させて考え、夢に向かって前向きに努力していこうという意欲がもてたようだ。
 今回の学習の一番の収穫は、何と言っても重田さんとの出会いであった。パズル作りはもちろんのこと、子どもたち一人ひとりが製作体験を通して多くのことを考え、学ぶことができた。子どもたちの身近なところで日々真摯に仕事に取り組んでおられる方々から学ぶ機会を、これからも設けていきたいと考えている。

●課題として
キャリア教育の基本的理解・意義の理解を進めること。
キャリア教育の視点から教育活動全体を見直すこと。
キャリア教育の学習プログラムを作成すること。

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4 実践に当たってのポイント(校長)
一人の教師だけの取組みだけでなく、全校で協働できる体制をとる。
校内・外の体験学習の実施に当たっては、教育課程全体を把握し、計画・立案する。
保護者や地域への啓発を図るために、学校だより等で情報を発信する。

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