キャリア・スタート・ウィーク(職場体験)の実践          〔義務教育課〕

 「なりたい自分」の発見から「なれる自分」へ向けてのターニングポイント     
−長門市立深川中学校−

1 学校紹介2 具体的な活動内容3 成果と課題
実  践  の  ポ  イ  ン  ト
職業や自己の適性についての現実的・具体的な知識、理解を得る。
 〜「なりたい自分」の発見〜
望ましい勤労観や職業観を形成する。
社会人としての適応力の向上をめざす。〜「なれる自分」への第一歩〜
職場体験をターニングポイントにすべく地教委、学校、事業所が連携を図る。

1 学校紹介
 

 ○学校の特色
 本校は長門市の中央部に位置する中規模校である。長門市がめざす「あたたかな、心の通うまちづくりを」を受けて、郷土の童謡詩人金子みすゞさんの感性やまなざしを生かした教育活動を基盤に「確かな学力の向上」と「4つの生き方指導(キャリア・人権・性・ボランティア)」を縦糸と横糸に研修を推進してきている。また、本年度は深川中学校区において、「深中校区ネットワーク」を立ち上げ、学校・保護者・地域の人々の三位一体の取り組みで、生徒たちを温かく育もうという雰囲気のもと、生徒は昨年度以上に落ち着きを増してきている。さらに、4つの生き方指導や学力向上対策また生徒会活動の活性化によって、生徒の自主的で意欲的な活動も多く見られるようになり、成果も着実に上がってきている。
○地域の特色
 長門市は、今年3月に周辺の3町と合併し、新長門市としてスタートした。農・水産業を基幹産業とする市であり、深川中学校はその中心部に位置する。長門市の将来像「豊饒の海と大地に、笑顔行き交う、未来(ゆめ)のまち」のもと、上述した校区ネットワーク活動にも積極的に参加してもらえる土地柄である。


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2 具体的な活動内容
(1)職業調べ〜「なりたい自分」の発見〜
 小学校時には就いてみたい職業は多種・多様であった児童も、中学校入学後1年が経過すると、自分の適性や興味・関心などからなりたい職業が少しずつ絞り込まれてくる。本校では1年生時から身近な職業調べや職業講話などに取り組み、2年生ではなりたい職業に実際にアタックする取組みに入る。自分がどんな職業に興味があるのかを見つけ出すために、生徒一人ひとりはインターネットや本などを参考にして、職業調べを行う。今まで、職業に対して漠然と考えていたことをより具現化することで、これから行う体験学習への意識付けという点では大きな意味があった。このことを進めていく内に働くことや職場に対する期待感から、職業に対する意識も高まり、最終的には全生徒が、自分が就いてみたい職業(「なりたい自分」の発見)について、レポートを完成させ、次に行う職場体験への大きなステップとなった。
(2)体験場所の決定〜事業所・委員会・学校が相まって〜
 キャリア・スタート・ウィークの取組みは、長門市内のすべての中学校が夏休みと2学期の2期に分けて合計5日間の職場体験学習を行うことになった。このため、生徒のやってみたい職業などを参考にし、学校と委員会が協力して、実際の体験活動の職場探しを行うことになった。深川中学校では以前から職場体験学習を行っており、独自のルートをもっている。しかし、本年度は、市内すべての8中学校が体験活動を5日間としたため、周辺部の学校が旧長門市内の職場に活動場所を求めたこと、また、生徒のニーズに合った職場を選ぶ方針を決めたため、最終的には近郊の萩市や美東町を始め、山口市や防府市といったかなり遠方にも体験場所を求めた。学校にとって受け入れ事業所を確保することは大きなエネルギーを注ぐことになり、苦労することではあるが、今年度のキャリア・スタート・ウィークの取組みでは、市教委内に「長門市キャリア教育実践協議会」を立ち上げて学校と職場の橋渡しをしていただいた。この協議会の設置の効果は大きく、地元ロータリークラブや各事業所や団体の多大なる御協力を得たことはいうまでもない。その結果、1期は62事業所、2期は69事業所、累計72事業所の様々な職場で生徒たちは体験活動を行うこととなった。本校が、キャリア・スタート・ウィークの取組みで本年度特に力を入れた点は、学校(生徒・教師)と事業所のきめ細かな連携である。このことが、生徒にとって「なりたい自分」から「なれる自分」を探り出すターニングポイントの取組みとなっていった。
(3)職場体験学習に取り組んで〜「なれる自分」への第一歩〜
 8月23日〜26日の2日間、生徒たちは自分が選んだ職場に意気揚々と出かけていった。教師も日々生徒たちの活動場所を訪問し、活動を見取り激励した。1期の体験活動を終えて、職場の方から生徒の評価表をいただいた。「あいさつができない。返事が小さい。私語が多い。」いずれも体験学習以前の問題である。あれだけ教師も生徒も事前学習や準備に取り組んでいたにもかかわらず、職場からの評価は低いことが判明した。もう中学生は引き受けないといわれる職場まで現れた。夏休み明けの2学期は、一人ひとりが、1期の反省を生かし「なれる自分」に向けて足らないところを明確にし、学校生活を改善した。こうして臨んだ11月16日〜18日の2期の体験学習。さすがに、1期に比べると指導者の方々からの評価も格段に向上した生徒も多数存在した。体験学習を終えて、「生徒の目の色が変わったね、成長したね。」と言ってくださる方々も多かった。生徒が「なりたい自分」から「なれる自分」への大きな一歩を踏み出す貴重な機会となった。
(4)活動を終えて〜体験した内容の共有化〜
 実際に生徒は多くても2つの事業所でしか職場体験学習を行えなかった。すると、どうしても自分が体験したことだけしか分からなくなってしまう。生徒は自分が学習したことを伝えたいと思っているし、友達が学習したことも知りたがっている。そのためにはお互いが学習した内容を共有しあう必要がある。本校では1期、2期を終えて、それぞれポスターセッションによる発表会を開催した。2期は各事業所、保護者並びに来年度以降の繋がりを考慮し1年生を招待し、自分たちが学習した内容を発表し、実り多いものとなった。

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3 成果と課題
(1)成 果
@「長門市キャリア教育実践協議会」の設立
 今年度のキャリア・スタート・ウィークの実践をよりスムーズにするために、長門市では事業所・教育委員会・各中学校の三位が一体となって、「長門市キャリア教育実践協会」を立ち上げ、5回の会合を開催した。学校・委員会・事業所が連携を密にして職場体験をより意義深いものにするための最良の方策を検討していくことが大きなねらいである。実際に、その会では、講師や事業所の方々からの講話、学校と各事業所の活動内容や体験場所の打合せ、1期を終えての課題解決や2期に向けての情報交換などといった、学校だけでは行えないことを実施することができた。
A学校と事業所のきめ細かな連携
 とかく事業所に丸投げになりがちな職場体験であるが、今年度は特に各事業所との連携を密に行った。生徒の職場体験にかける思いや願い、そして自分を紹介する履歴書などや、学校側から事業所へのお願い文などを添えて教師は事業所に出向いて打合せを行い、その後生徒は直接事業所に面会を求め、お願いする形式をとった。そうする中で、事業所は独自に職場体験カリキュラムを作成していただいた。また、活動日には、担当教員が必ず各事業所を訪問し、生徒の活動の様子を確認するだけではなく、担当の方と生徒について話し合いを行った。また、1,2期の体験学習共に事業所の方からの評価表を書いていただき、先述したように、1期の反省は、2期に向けての大きな土台となった。
B生徒の意識の変化
 活動内容で示したとおり、職場体験学習を行う前は、いろいろな人から「あいさつをしない。しても声が小さい。」などと指摘を受けていた生徒たちも、体験学習で御指導していただいた結果、大いに改善が見られた。実際に「働く」ということを体験した結果、職業人としての意識が少し芽生えたのか、あいさつ、言葉遣いや服装といった面で、自ら意識して取り組む姿が見受けられるようになった。また、事業所の方々から生徒に対して、仕事に対する情熱、思い、ロマンなどを生徒に語っていただいたり、どうしてこの職業に就いたかのいきさつを語っていただいたり、さりげない一言(この一言が生徒の緊張感をといたり、喜びを増したりした)をかけていただいたりしたおかげで、仕事に対する、見方や考え方が変わり、「私って結構できるんだな」という思いが生じ、「ぜひこの職業に就くぞ」という「なれる自分へ」の第一歩になった。

(2)課 題
@保護者への啓発活動
 今回の職場体験学習に際して、保護者にはキャリア・スタート・ウィークのいきさつや活動内容等を、進路便り、学年通信・学級通信、活動計画書等の配布など、いろいろと啓発活動を行い、協力をいただけるようにしてきたつもりであったが、事業所の中には、送迎にきた保護者からあいさつやお礼の一言もないといった指摘があったり、感想の中に、保護者が今回の活動の意義を理解していないのではないかというような表現があったりした。保護者に対してもっと具体的かつ有意義な啓発活動が必要だということを痛切に感じた。
A「なれる自分」に更に発展させる工夫
 今回行ったこの職場体験学習の成果を、生徒たちが実際に進路選択をしていくうえで生かしていく必要がある。本校では、まず、「なりたい職業」を考え、その職業に就くには、「こんな資格・適性が必要だ」を考え、そういったことを学習するためには「この学科が最適だ」を見つけ出し、最終的に「その学科がある高校はここだ」という進路選択の流れをとっている。また、将来的には、高校進学した後の追跡調査を行うなど、この成果が本当に進学後も生かされているか、考察していく必要がある。いずれにしても、キャリア教育の視点から、小・中・高の教育活動を一貫した流れで見直しを行わなければならない時期にきているのではないかと考えている。

◎校長の指導のポイント
○小学校時の夢を育む指導を発展させ、中学校3年間をキャリア教育の視点から意図的、計画的に前進させるようなカリキュラムの構築が必要である。
○このカリキュラムは中学校2年生の職場体験を「なりたい自分」の発見から「なれる自分」へターニングポイントになるよう仕組むことが大切である。
○そのためには、学校と事業所のきめ細かな連携が必要である。

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