学力向上支援事業                                               〔義務教育課〕
○基礎学力の定着を図るための有効な支援事業の在り方
                      −
防府市立華陽中学校−

1 学校紹介2 調査研究の方法3 学習支援・相談の在り方と工夫4 成果と課題5 校長から見た指導のポイント/  
実  践  の  ポ  イ  ン  ト
 主体的に学ぶ態度を育成するために、効果的な放課後の時間の運用方法を探り、生徒の基礎学力の向上をめざす。
 大学と学校、支援員と教師、それぞれの連携の在り方を探り、生徒と支援員との望ましい信頼関係に基づいた支援事業を実施する。

1 学校の紹介

 本校は防府市の南に位置し、校区内には塩田文化遺跡等の古いものも残っている一方、航空自衛隊基地や自動車関連の工場や港等、近代的産業施設も多くある。生徒は3校の小学校から集まり、21学級600名を越える大規模校である。
「平和を愛し、文化の継承・創造にはげみ、旺盛な生きる力と心豊かな人間性とたくましい体力を備え新時代に即応でき、時代を切り開く人間の育成」を教育目標に掲げ、平成17年度より「確かな学力育成のための実践研究事業」にも取り組んでいる。

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2 調査研究の方法
(1)研究のねらいと主な内容
 放課後の時間を利用して、生徒たちの学習相談にきめ細かく対応することで、生徒一人ひとりが、進んで学習に取り組めるように学習習慣の形成を支援し、併せて、つまずきの発見・克服によって基礎学力の定着を図ることをねらいとして研究を進めてきた。
 以下の@〜Cの内容について、職員会議、学力向上支援委員会等の会議、支援員との話し合いや実践記録・アンケ−ト等をもとに、具体案や改善点を話し合いながら研究を進めた。
@ 効果的な放課後の時間の運用方法について
A 生徒と支援員との信頼関係の構築について
B 主体的に学ぶ態度の育成について
C 大学と学校、支援員と教員それぞれの役割と連携の方法について

(2)対象学年・生徒
 全校生徒が600名を越える本校では全員を参加させることは不可能なので、全生徒を対象とし、参加を希望する者に対して実施することとした。
 具体的には、本事業の趣旨を示した文書を全家庭に配布して保護者の理解を得た上で、全校生徒に参加申込書を配布し希望者を募集した。ただし、支援員の人数と教室の関係で、1日に1学年10人を上限として調整して振り分けるので、希望どおりにならないことがあることを明示しておいた。

(3)開設曜日・時間と開設期間
 季節による下校時刻の変動と部活動や主要な学校行事(体育祭・文化祭)・生徒会活動等を考慮して、1年間を1学期・夏休み・2学期・3学期の4ユニットに分けて、それぞれの期間で生徒の希望を調査して実施することにした。
 中学校の放課後の時間帯は部活動が行われており、ほとんどの生徒が部活動に所属して継続的かつ計画的に活動しているので、部活動の活動計画も考慮して以下のように開設時間を設定した。
1学期〜2学期前半 2学期後半〜3学期
月・水・金曜日 15時30分〜17時30分 15時30分〜16時45分
火・木曜日 16時30分〜17時45分
 本校では、1・2学期は中間・期末、3学期は学年末の計5回の定期テストを実施しており、テスト前の一週間は勉強に専念するために部活動がなくなるので、この期間が学力向上支援の実施に最適となる。

(4)指導教科と実施場所
 教科指導の中心は数学とした。その理由は、学力差が顕著な教科であり、ドリル等の反復学習が行いやすく、個別指導によるつまずきの克服等により学力の向上が見込め、成就感を生徒が感じやすいことなどである。
 また、1日の参加者の上限を30人としたため、個別指導が十分にできない状況が起こる場合の対応として、ドリル練習をコンピュ−タがチェックし習熟度を判定するソフトを使用することによって、支援員の個別指導を直接受けられない時間にも個別学習ができるようにした。
 そのため、実施場所は、コンピュ−タが40台設置してある視聴覚室とした。ただし、テスト期間中は、国語・ 社会・理科・英語も加えて生徒の相談活動に対応しようとしたため 、実施場所を図書室とした。
視聴覚室での支援風景 図書室での支援風景

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3 学習支援・相談の在り方と工夫
(1)参加生徒・学力向上支援員
 2年間に実際に実施した日数と参加生徒数と支援員数は下の表のとおりである。
 

 平成16年度は下の表のように、約24%の生徒が参加している。 
 
 平成17年度は2学期までで、すでに前年度参加生徒数を上回っており、倍増している。
 この変化の一番の要因は「支援員の数の増加」である。
 細かな実施計画を早い段階で大学に連絡して支援員を確保してもらった結果、学生の支援員が増えた。また、学校でも地域の社会人の支援員を確保する努力も行った。

(2)学習記録の活用
 生徒に下のような学習相談記録を記入させ、支援員にも印象に残ったことがあれば記入し
てもらうようにした。
 
 生徒が学習していることや、支援のポイントが支援員に分かりやすく、しかも、支援員からのコメントがあることで生徒は親近感をもつようになり、信頼関係の構築にもつながった。 
だんだんと距離が近づく関係

(3)学力向上支援員と生徒の信頼関係の構築
 学生は大学の講義の空き時間に来校して支援を行うため、来校できる曜日は固定されている。その結果、継続して参加する生徒を度々指導する支援員も出てきて良好な支援関係ができる学生もいるが、回数の少ない学生は、毎回新しい生徒との出会いになり、踏み込んだ支援に入れない場合もある。
 ただし、1回の支援の中でも、初めて顔を合わせた生徒と支援員が互いに遠慮しぎこちない状態から、だんだんと互いの距離が近くなり、踏み込んだ支援に入っていく変化が見られることもある。
 
 上の学習記録の感想にあるように、生徒は支援員とのふれあいを、「楽しくできた」と感じている。
 このように、生徒は、支援員とのふれあいを求めている。そのための糸口となる機会と時間を保障することができれば、望ましい信頼関係に基づいた支援が成立する。

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4 成果と課題
(1)成果
@ 生徒の学力の向上
 
 上の学習相談記録は、継続して参加した生徒のもので、着実に学力を向上させていることが読みとれる。
「どのくらいできないのかがわかった」
「この前より力がついた」
「自分の不得意なところがわかった」
「次からそこを勉強しよう」
「今まで苦手だったところができるようになった」
 自分の学ぶべきことに気付き、取り組むことで、できるようになったことを実感し、さらに新たな自分の課題を見つけてがんばっている。
 また、下のような所感を記した支援員がいた。支援員が感じ取れるのであるから、もちろん生徒本人も手応えを感じ、学習への意欲付けや、学習習慣の形成へとつながったように思う。
 

A 保護者の理解
 保護者の理解と協力を得るために、平成16年度と平成17年度の年度当初に学校として学力向上支援事業に取り組むことを文書で保護者に連絡した。さらに、生徒に参加希望を募る場合もその都度、保護者あての文書で連絡した。
 その結果、関心のある保護者は、保護者が生徒に参加を促したり、担任の教師に子どもに参加するように指導してほしいという意向を伝えてきたりもした。
 下のグラフは、本校PTAが発行した平成17年度2学期のPTA広報の一部である。
 保護者が9月に生徒や家庭に学力向上支援事業に関するアンケ−トを実施し、その集計結果を掲載したものである。
 このような保護者の取組みによって、一段とこの事業に対する理解と期待が高まった。
 

B 支援員との連携と支援力の向上
 これらは、継続して参加した支援員の所感で、一番上は初日のものである。以下、支援の回数を増やしていきながら、よりよいの支援の方法を見つけていき、生徒との信頼関係をつくっていく様子が伺える。最終的には、次のような支援員と生徒のほほえましい関係が成立するようになる。このように、継続して参加した支援員は、中学生とのかかわり方や、指導方法を学び取っていき、支援員の指導力も向上していった。
ほほえましい生徒と支援員との関係

(2)課題
@ 生徒が継続的に取り組める体制づくり
 研究の結果、ある期間集中して継続的に参加すると、学力の向上が期待できることが明らかになった。裏を返せば、散発的な参加では効果があがらないということである。本校のように多くの生徒がいる大規模校では限界はあるが、可能な限り支援員を増員することで、できるだけ多くの生徒が継続的に参加できる体制をどうつくっていくかが今後の課題となる。
A 支援員の確保
 下の所感のように、一人の支援員が担当する生徒が少ないほど支援の内容が充実する。

 支援の充実を図っていくためには、より多くの支援員を確保することが必要となり、そのための方策として、次の2点が考えられる。
ア きめ細かな計画の立案と事前に大学との連携を十分にとること
イ 生徒の希望に対応できるように社会人の支援員を確保しておくこと

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5 校長から見た指導のポイント
□ 学力向上支援員と学校教員との密接な連携による指導体制の確立
□ 継続的指導が可能な学力向上支援員の確保と放課後時間の計画的な運用
□ 生徒の継続的な学力向上への意識付けと学習意欲の高揚化への指導強化


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