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11 おんぶすることは「おう(負う)」と言う
 幼児などを背負うことを、現在の共通語では「おぶう」とか「おんぶする」と言いますが、これは本来、東京など関東地方を中心に使われていた言葉です。「おんぶ」は「おぶう」から転じた言葉、「おぶう」は「おぶ」が変化したものです。山口県では昔から普通 「おう」を用いていますが、九州の中部以南を除く西日本の殆どの地域でこの「おう」という言葉が使われてきました。「おぶう」と「おう」はともに古語「おふ(負ふ)」を語源とする言葉です。
  さて、奈良時代の日本語においては、万葉仮名の研究などから、ほぼ後の歴史的仮名遣いの表記どおりの発音が行われていたことがわかっていますが、母音は平安時代以降の[a,i,u,e,o]のほかに[ieo]の三つがありました。サ行音やタ行音の発音が今日とは一部異なるものであったこともわかっています。
  またハ行音は、現在、
  ハ、ヒ、フ、ヘ、ホ[ha,hi,hu,he,ho]
と発音しますが、奈良時代には、上下の唇を近づけて、
 ファ、フィ、フゥ、フェ、フォ [Φa,Φi,Φu,Φe,Φo]
という発音をしていました。「おふ(負ふ)」の発音は、奈良時代にはオフゥ[Φu]であったことがわかっています。それが関東においては、オフゥ→オブ→オブーと変化し、西日本ではオフゥ→オウと変化したものと推定されます。興味深いことに韓国・朝鮮語の「負う」は[p]と発音されます。日本語の「負う」と同源の言葉だと言うことができるでしょう。
 
        森川信夫著『面白くて為になる 山口弁よもやま話』より
 
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