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3 新方言(ネオ方言・現代若者方言)、強意の副詞「ぶち」
 強意の副詞「ぶち」は、「ぶち寒い」「ぶち美味い」「ぶち真面 目」というふうに、「非常に」「すごく」「たいへん」など程度が甚だしいことを表現する場合、少年層から中年層までを中心に、現在頻繁に使われている新方言です。元々この語は、1970年前後頃から山口県で使われるようになった流行語(若者語)で、伝統的山口県方言ではありません。「ぶち」は本来、動詞「打つ(ぶつ)」の連用形が接頭語となったものであり、副詞ではないのです。接頭語の「ぶち」は動詞の上に付いて、標準語では意味を強めたり荒々しい動作でその事をする意を表し、「ぶち壊す」「ぶちまける」「ぶち込む」などと用います。伝統的山口県方言では主に荒々しい動作で物事をする意を表し、「ぶち殴る」「ぶちにやす(強く殴る)」「ぶちめぐ(乱暴に破壊する)」などの動詞があります。
  「ぶち」が山口県の若者の間で強意の副詞として頻繁に使われ始めたのは、今から30年位 前であると思われます。新方言の「ぶち」は「高い」「白い」など形容詞を最もよく修飾し、ほかにも「大きな」など一部の連体詞、「静か」「真面 目」などの形容動詞、「疲れる」「食べる」といった多くの動詞を修飾します。接頭語の「ぶち」が限られた動詞にしか付かないのに対し、副詞としての「ぶち」は、数多くの語彙に続けることができる便利な言葉になっています。
  山口県の「ぶち」に相当する、強意の副詞の新方言(現代若者方言)は現在全国各地に発生しています。東京周辺の「ちょー」はその代表格であり、関西の「めっちゃ」「むっちゃ」などもよく知られています。福岡市や長崎県などでは「ちかっぱ」「ちかっぱい」、名古屋周辺では「でら」、熊本県では「まうごつ」「うまんごつ」「たいぎゃ」、大分県や沖縄県では「しんけん」、北海道や新潟県では「なまら」が流行っています。山口県では「ぶち」と同義の若者語に「ぶり」や「ばり」がありますが、「ぶち」ほどには使用頻度が高くありません。「ぶち」「ぶり」「ばり」は広島県でも使われ、「ばり」は福岡市や関西などでも用いられています。
  強意の副詞は日常語としての使用頻度が高く、「ぶち」はその語感の面 白さも手伝って、この30年ほどの間に山口県で急速に広まりました。その一方で、この新方言をいささか品位 に欠ける若者語とみなし、全く使わない人も老年層には少なくありません。そうした傾向は、全国の新方言に関して共通 に見られる現象です。
 
        森川信夫著『面白くて為になる 山口弁よもやま話』より
 
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