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5 「とさか(鶏冠)」のことを「えぼし(烏帽子)」と言う
  鶏などの「とさか(鶏冠)」のことを、山口県の広い範囲で「えぼし」と言います。これは、昔、元服した男性がかぶった冠の一つである「烏帽子」からの連想で使われるようになった言葉です。山口県では大半の地域でこの「えぼし」を用いますが、広島・島根との県境地域や大島郡・柳井地方などの方言では「よぼし」と言います。「よぼし」もまた「えぼし」同様、「烏帽子」からの連想によって発生したものです。「えぼし」「よぼし」を使う地域は、中国地方の大半、福岡県や大分県の一部、鹿児島県、宮崎県南部、青森県東部の一部、千葉県東部の一部などに見られます。
 四国西部から九州中部にかけては、これを「かぶと」と言う地域が広がっています。武具の「兜」からの連想によるものです。「かぶと」を使う地域は、「えぼし」「よぼし」と言う地域に挟み込まれるように分布しています。「烏帽子」と「兜」は、発想的にも関連がある語であり、二つの方言の分布地域が隣接していることは興味深い現象です。
 平安時代の934年頃成立した古辞書『和名抄』の記述などから、当時都で使われていた「とさか(鶏冠)」を意味する古語は「さか」であったことが分かっています。時代を経るにしたがって、「さか」の意味が分かりにくくなったため「鳥」を頭につけて「とりさか」と言うようになり、その後「とりさか」は「とっさか」と変化して、やがて現在の標準語「とさか」になったものと考えられます。「さか」「とりさか」「とっさか」は、現在も各地の方言として残っています。
 
        森川信夫著『面白くて為になる 山口弁よもやま話』より
 
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