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50 東西方言の対立と山口弁 
 東京語を中心とする共通語と西日本の方言に大きな違いがあることは、日常多くの人々が意識しているところです。このように、東日本域の東部方言と西日本域の西部方言との間には、音韻・文法・語彙などの分野で基本的な対立状況があります。伝統的方言において山口県の言葉は、アクセントが広い意味での東京式であること以外は、殆ど西部方言に属しています。(山口弁アクセントが東京式である理由の一つとして、安土桃山時代から江戸時代にかけて現在の山口県を統治した毛利氏の出自が、もともとは相模の国、現在の神奈川県であったことが関係していると考えられます。)
 山口弁では東部方言と違って母音が無声化しにくく、殆どが有声音になります。また「ウ」の音声は平唇の[w] ではなく円唇の[u] になります。ワ行五段動詞連用形は「かった(買った)」が「コータ」となるなどウ音便化し、形容詞の連用形も「あかく(赤く)なる」が「アコーナル」というふうにウ音便化します。断定の助動詞は「だ」ではなく「じゃ」、打ち消しの助動詞には「ない」を用いずに「ん」を使います。「いる(居る)」は「おる」、「おととい(一昨日)」は「おとつい」、「やのあさって(明明後日)」は「しあさって」と言います。(ただし東京方言では、「明明後日」を「しあさって」、「明明後日の次の日」を「やのあさって」と言います。)
  伝統的方言における東西対立だけでなく、近代になって使われ始めた言葉にもこの現象は見られます。「ワイシャツ」〔東〕と「カッターシャツ」〔西〕、「画鋲」〔東〕と「押しピン」〔西〕、「学区」〔東〕と「校区」〔西〕、「メンチカツ」〔東〕と「ミンチカツ」〔西〕、「肉まん」〔東〕と「豚まん」〔西〕、「牛丼」〔東〕と「肉丼」〔西〕、「アイスコーヒー」〔東〕と「冷コー」〔西〕など。「肉まん」と「豚まん」、「牛丼」と「肉丼」の方言対立は、「肉」という語を使う場合に、普通 西日本では牛肉を、東日本では豚肉を意味することが多かった食文化の違いから発生したものです。山口弁は基本的には西部方言の方に属しますが、「肉まん」以下の食品については全国的なチェーン店などの影響で、山口県でも多くの人が東部方言を使うようになっています。
 
        森川信夫著『面白くて為になる 山口弁よもやま話』より
 
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