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61 「ほとびる」 
 物が長く水につかって柔らかく膨れたり、長く湯や水に入って指の皮にしわがよったりすること、すなわち「ふやける」ことを山口弁で「ほとびる(潤びる)」と言います。これは終止形が「ほとぶ」となるもと古語(近世以前の中央語)で、平安時代の10世紀に成立した『伊勢物語』にも見えています。有名な「東下り」の第九段に、「皆人、乾飯(かれいひ)の上に涙落としてほとびにけり」《(旅の一行は)皆、(都のことを思って)旅行用弁当の乾したご飯の上に涙を落として(それが)ふやけてしまったのだった》の「ほとび」がそれです。語源としては、「ふとぶ(太ぶ)」が転じて「ほとぶ」になったということが考えられます。由緒正しい「ほとびる」という方言は、老年層を中心に山口県のみならず西日本各地の広い範囲で、現在も使われています。
  「ほとばかす(潤ばかす)」「ほとばす(潤ばす)」は「ふやけさせる」という意の、西日本各地で主に老年層が用いている方言で、もと古語。室町時代や江戸時代前期の辞書などにも見える語です。山口県では「ほとばかす」の方をよく使いますが、「ほとびる」ほどには使用頻度が高くないようです。
 
        森川信夫著『面白くて為になる 山口弁よもやま話』より
 
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