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教育における著作権
知的財産権著作権が制限される場合こんな場合は?さらにこんな場合は?

1 知的財産権
 知的財産権(知的所有権・無体財産権ともいいます。)とは、人間の知的創造活動について、その創作者に与えられる権利です。
 人間の知的創造活動の成果としては、「発明」、「考案」、「意匠」、「著作物」などがあり、それぞれが特許法・実用新案法、意匠法、著作権法によって保護されています。
 一方、営業上の標識としては、「商号」、「商標」(いわゆるブランド)などがあり、それぞれ商法、商標法によって保護されています。
 このうち、特許権、実用新案権、意匠権、商標権を指して、産業財産権と称します。

<著作者と著作権>
わが国は、著作権法の基礎となる「ベルヌ条約(1886年)」に加盟しており、著作物を作成したと同時に著作権が発生する「無方式主義」を採用しています。

著作者 著作物を創作した人であり、法人・個人を問わず、著作物を創作した時点で著作権(著作権、著作者人格権)が発生する。
著作権 著作権の発生には一切の手続きを必要としない。創作活動を生業としない個人が創作した作文や絵画等にも著作権が発生し権利の保護を受けることになる。原則として著作者の生存年間及びその死後50年間保護される(一部例外有り)


2 著作権が制限される場合

 著作権法では、一定の条件を満たす場合には、その著作権者の許諾を得なくても、その著作物を自由に利用することを認めています。特に、第35条では教育上の特例(学校その他の教育機関における複製)が認められています。しかし、私たち教員は、この条項を誤って解釈することのないように注意しなくてはなりません。
 なお、著作権は制限されても、著作者人格権は制限されることはありません(50条)。つまり、たとえ教育目的の利用であっても「改変」することは認められません。

私的利用のための複製
(30条)

個人的または家庭内で使用するために、著作物を複製することができます。(配布は、禁止です)

図書館等における複製
(31条)

政令で定められた図書館では、利用者のための複製、保存のための複製ができます。(学校図書館は、対象外です)

引用
(32条)

引用の目的上正当な範囲内で、自分の著作物に他人の著作物を引用して利用できます。

検定教科書等への掲載
(33条)

学校教育の目的上必要と認められる限度で掲載できます。その場合、著作者への通知と著作権者への補償金が必要です。

学校教育番組の放送等
(34条)

学校教育番組において著作物を放送することができます。

教育機関における複製
(35条)

教育を担任する者及び授業を受ける者は、授業の過程で利用するために著作物を複製することができます。
(指示に従って作業してくれる人に頼むことも可能です)

試験問題としての複製
(36条)

入学試験や採用試験等の問題として、著作物を複製することができます。

点字による複製等
(37条)

点字によって複製することや、盲人向けの貸出用として著作物を録音することができます。

営利を目的としない上演等
(38条)

要件(利潤を上げない、入場料を取らない、演奏者にお金を払わない)を満たせば、公表された著作物の上演や演奏等ができます。

時事問題の論説の転載等
(39条)

新聞、雑誌に掲載された時事問題に関する論説は、他の新聞や雑誌に掲載したり、放送したりすることができます。

政治上の演説等の利用
(40条)

公開の場での政治上の演説や陳述、裁判での公開の陳述は、利用できます。

時事事件の報道のための利用
(41条)

著作物に関する時事事件を報道するために、その著作物を利用することができます。

裁判手続等における複製
(42条)

裁判手続、立法、行政上の内部資料として必要な場合は、著作物を複製することができます。

情報公開法による開示のための利用
(42条の2)

情報公開法や情報公開条例により開示する著作物を複製したり、再生したりすることができます。

放送などのための一時的固定
(44条)

放送事業者又は有線放送事業者は、放送のための技術的手段として、著作物を一時的に固定することができます。

美術の著作物などの所有者による展示
(45条)

美術の著作物又は写真の著作物の原作品の所有者は、その作品を展示することができます。

公開の美術の著作物等の利用
(46条)

屋外に設置された美術の著作物や建築の著作物は、写真撮影したり、テレビ放送したりすることができます。

美術の著作物等の展示に伴う複製
(47条)

美術の著作物の原作品等を展示する者は、解説、紹介用の小冊子等に、展示する著作物を掲載することができます。

プログラムの所有者による複製等
(47条の2)

プログラムの所有者は、自ら利用するために必要と認められる限度でプログラムを複製、翻案することができます。


3 こんな場合は?

Q1 子どもが自主的にインターネットを検索して、Webサイトから「自動車のできるまで」の図を印刷して持ってきたので、複製して授業で配付・利用した。

<教育目的、教育機関における複製>
・ 第35条の規定により「教育を担当している者及び授業を受ける者が授業で用いる場合」に複製を認めている。
・ 子どもが家で印刷するのは、「私的利用」にのみ認められる。利用者は「個人及び家族」と定めている。
・ 教師が授業で利用するために、教師または児童・生徒による複製は問題ない。
・ 授業以外では利用できない。(プリント類は授業後に回収する。必要枚数以上は印刷しない。)
・ 複製物を個人で所有するのはかまわないが、ライブラリ化して自由に使えるようにしてはいけない。

Q2 新聞や雑誌の記事を切り抜いて印刷し、職員会議の資料として教職員に配付した。

<新聞・雑誌記事の複製>
・ 第30条の規定により、私的使用のための複製は許容されているが、教職員に配付することは私的使用の範囲を越えていると考えられるので、著作権者の許諾が必要。
・ 別の紙に転記した場合でも、あくまでその表現内容が問題となるので「どのような媒体の上にあるか」は問われない。手書きで複製してもコピー機で複写したのと同じ。
・ 翻訳・翻案も同じ。
・ 第32条の規定により、他人の著作物の一部を、報道・批評・研究などの目的のために引用することはできる。引用するときは、「出所」を明示し、自分の文章と引用された文章に明らかな区別をつける。
・ 図書館については、第31条の規定により、研究・調査を目的とした複製については、著作物の一部分を、一人につき1部に限って複製を作成できる。承諾は必要なく補償金も支払う必要がない。

Q3 地域学習のため、お寺や神社の建物を写真撮影して教材化した。

<建物の複製>
・ 第46条の規定により、建物や屋外に設置されている彫刻等の著作権は、そのものを複製する場合と複製物を販売する場合にのみ行使される。
・ 建物や屋外にある彫刻の著作権者は写真撮影や絵画による模写などを禁じることはできない。禁止できるのは、同じ建物を複製したり、同じ彫刻を複製したり、複製物を販売して利益を得ようとする行為だけ。
・ バス停、街灯、信号機などの屋外施設もこれに準じる。
・ 周囲が囲まれている中庭にあって管理されている場合は、屋内にあるものとみなす。
・ 道義的には所有者又は管理者の許可を取っておく方がよい。(特にインターネット上に公開するような場合)

Q4 校内音楽会で、流行のアニメ番組の主題歌を演奏した。

<学校行事としての利用>
・ 学校行事としての音楽会や運動会は、「学校教育を目的とした授業」とみなされる。
・ 営利・販売を目的としない、無料の演奏会であれば問題ない。
・ 楽譜等の著作物は、「著作権者の利益を不当に害することがない場合」に限って適用される。
・ 盲人用に限定して、著作物を点字によって複製したり、著作物を録音したりすることはできる(第37条)。
・ 著作権は、原著作者の死後50年をもって消滅する。著作者人格権を侵害する行為は死後50年を経過しても行ってはならない。
・ インターネット上で公開する場合は、「公衆送信可能な状態にする権利」として、別途考慮しなくてはならない。(個人利用の場合でも、無線LANを使用した場合には注意が必要)
・ 商標権、意匠権、特許権、個人情報の保護については著作権法とは別の法律で定められている。

<参考になるサイト>
文化庁
http://www.bunka.go.jp/
社団法人 日本複写権センター
http://www.jrrc.or.jp/index.html
※新聞や雑誌等を利用する場合の著作権者の複写等に係る権利等を集中的に管理し、利用者から複写使用料を徴収して著作権者に分配するという集中的な権利処理を行う団体のWebページです。
ACCS(株)コンピュータソフトウェア著作権協会 「著作権・プライバシー相談室」
http://www.askaccs.ne.jp/
情報モラル及びQ&A(茨城県教育研修センター教育情報)
http://www.center.ibk.ed.jp/index.htm

4 さらにこんな場合は?
Q1 標語やキャッチフレーズ、スローガン、題名などは?
  標語やキャッチフレーズ、スローガンなどは著作物ではない。ただし、俳句などは「思想または感情を創作的に表現したもの」として対象となる。シンボルマーク(オリンピックのマークなど)は著作物性を否定している判例がある。
Q2 服のデザインや電気製品のデザインなどは?
  著作物であるためには、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であることから、通常実用品や工業製品のためのデザインは著作物ではない。
Q3 人気アニメのキャラクターを使うことは、著作権の侵害になるか?
  「漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念(最高裁判決)」として、漫画のキャラクター自体の著作物性は認められない。特定の一コマを使う場合は原画の保護の立場から著作権が認められる。ただし、明確な権利として規定されておらず、「商品化権」「商標法」「不当競争防止法」等の適用により実際には保護されている。
Q4 他人に依頼して作ってもらった著作物の著作権は?
  依頼を受けて実際に著作物を作った人が、その著作者となる。依頼者は、著作権を有するも者の承諾がなければ利用できない。一定の範囲の利用を承諾するもしくは著作権を譲渡する契約を締結する場合は利用できる。
Q5 座談会における出席者の発言も著作物となるのか?
  座談会における発言も著作物となる。著作権は、座談会に参加したすべての人にあり、全員の合意が必要。座談会の企画者は座談会に参加して発言していれば、共同著作者の一人となる。ただし、共同著作物の著作権の行使については、正当な理由がない限りは同意を拒んだり、合意の成立を妨げることはできない(第65条)。
Q6 コンビニの複写機で文献などを複写してもよいのか?
  個人的に又は家庭内などの限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、その使用する者が自由に複写できる。ただし、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複写機を使用して複写する場合には、複製権が働く(第30条)。ただし、文書又は図画の複製については複写分野における集中的権利処理体制が整っていないために当分の間、自由に複写できることとされている(付則5条の2)。図書館等におけるコピーサービス、学校における教材作りでは一定の要件を満たせば複写できる。
Q7 授業の副教材として利用する場合、市販のワークブックやドリルはどの程度許容されるのか?
  第35条ただし書において「著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には複製が許容されないこととなっており、1部だけ購入して生徒数分コピーすることは明らかに権利者の利益を侵害する。
Q8 校長が全校生徒に録画したビデオを見せることは認められるか?
  公表された著作物を、学校その他の教育機関が授業で使用することは認められる。しかし、営利目的の予備校や会社の職員研修施設、非組織の夏季大学講座などはこれに含まれない。実際に教育を担任する者でなければ複製できないので、教育委員会が管下の学校に配付する資料や校長が全校に見せる資料は許されない。また、複製物は授業で反復使用する必要がある場合を除き、使用後速やかに廃棄又は消去することが望まれる。視聴覚教育用教材も無断で複写はできない。
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