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15 古語の副助詞「なりと」が変化した「なぇーと」
 仮の例としてある事柄を示し特定のものに限定しない時、例として軽く取り上げて言う場合に、山口弁では「なぇーと(ないと)」という副助詞を用います。「〜でも」「〜なりと」「せめて〜なりとも」「せめて〜ぐらい」といった意味で使われています。この言葉は、基本的にはもと古語の「なりと」が「ないと」と変化したもの、つまり「り」がイ音便化し方言として残ったものです。伝統的山口弁には連母音アイ[ai]が普通 アェー[ æ▲]と発音される音韻法則がありますから、県内の広い範囲で、「ないと」は「なぇーと」になるのです。  古語の「なりと」は、断定の助動詞「なり」に接続助詞「と」が付いてできた副助詞です。文献的には、室町時代後期に現れ江戸時代に頻繁に使われましたが、明治時代になって急速に衰退し、「何なりと」などの成句以外では用いられなくなりました。山口県ではほぼ全県的に、「なぇーと」「ないと」の発音で、主に中年層以上の人に使われています。 以下に日常的な使用例を示しておきます。「さびーのー。酒なぇーと飲まんにゃー、ぬ くもらんでよ(寒いなあ。酒でも飲まなきゃ、温まらないよ)」「お茶なぇーと、のーで行きさんせ(お茶でも、飲んで行きなさいよ)」「なんなぇーとせーさん(何なりとしなさい)」「せわぇーなっちょるからねー。みかんなぇーと、贈っちゃげんにゃーいけまーねー(世話になってるからね。せめてみかんぐらい、贈ってあげなきゃいけないだろうね)」
 
        森川信夫著『面白くて為になる 山口弁よもやま話』より
 
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