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60 「なんじゃし」「だれじゃし」「どれじゃし」「どこじゃし」
 「なんじゃし」「だれじゃし」「どれじゃし」「どこじゃし」は、下に打ち消しの表現を伴って、それぞれ「何も」「誰も」「どれも」「何処も」という意味で副詞的に用いられる山口弁です。「〜じゃし」の「じゃ」は指定・断定の意を表す助動詞で、室町時代に「である」の「る」が脱落して「であ」「でや」となり、さらに転じて「ぢゃ」となったものです。もっぱら口語として用いられてきました。「し」は奈良時代から平安時代にかけてよく使われた副助詞で、『万葉集』などに多くその用例を見ることができます。不確実・不確定の語意を強める働きをする助詞で、係助詞の「も」に近い意味を持っています。
  この「じゃ」と「し」が接合して連語となった山口弁「じゃし」は、現代の標準語に直すと、全部を否定する意で用いられる係助詞の「も」に相当します。「じゃし」は付属語ですから単独で使われることはなく、普通 「なん」「だれ」「どれ」「どこ」など限られた語の下に付いて連語を形成します。「なんじゃし、食べるもんがなぇー(何も食べる物が無い)」「だれじゃし、やりてがおらん(誰もやる人がいない)」「どれじゃし、えーもんがなぇー(どれも良い物が無い)」「どこじゃし、いくとこがなぇー(どこも、行く所が無い)」というような表現が、普通 は行われています。
 
        森川信夫著『面白くて為になる 山口弁よもやま話』より
 
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